科学少女プリティミュー
「私もこんな安月給じゃやってらんないわ」
また一人が逃げ出した。
「二人がやめるなら私もー」
3人目脱落。
「みんないっちゃうのぉ?」
4人目脱落。
「わたしたちもやめよっか?」
「うん、そうよね」
5人、6人と脱落。
「そういうことで」
笑顔でお辞儀して7人目も脱落した。
一人残されたミューはボソッとつぶやく。
「ラッキー」
フィギュアチェンジはメーター待ちがあるので連続で使えない。あと7人も相手にしていたら、もうゲンナリだ。
1個でもフィギュアを持ち帰ればメガネも満足するだろう。8人だったなんて言わなきゃいい話だ。
「さ〜ってと帰ろう」
戦いも終わり、堂々と店の正面口から出たミュー。
すっかり雨も晴れ上がり、夜空には星が輝いていた。
が、ここで衝撃の展開が!
眠らない大人の街がこどもの町になっていたのだ。
明らかに体のサイズに合ってない服を着た子供たち。
「うん、見なかったことにしよう♪」
ミューはいつも通りスルーすることにした。自分の役目はすでに終わってる。この事件はまた別の人が解決すればいいこと。
フィギュアを大事に抱えミューはこの場をダッシュで逃げ去る予定あった。
が、その前に立ちはだかる少女。
2本の触覚、クルクル模様のブラに、お尻についた針付きポイズンポッド。もちろん背中には昆虫の羽だ。
ハチだ、どうみてもハチだ、ひいき目に見てもハチだ。
今回の怪人のミラクルハニーだ!
「あなたがミューたん?」
クリクリした瞳でミラクルハニーは尋ねた。
「違います!」
ミューはきっぱり断言した。
「そうなんだぁ。なら子供には興味ないからバイバ〜イ」
ミラクルハニーはミューの前から立ち去り、近くにいた大人を襲いはじめた。
お尻についた針でぶっ刺す!
ぶっ刺されただけでも痛いのに、刺された大人が見る見るうちに子供になってしまった。
あれが元凶かーッ!
急にミューの頭の中で声がした。
《バイト君、ニュース映像に映ってるよ》
「え!?」
辺りを見渡すと、遠くでテレビクルーがこちらを撮影してた。
通信してきたのはアイン。ばっちりミューの姿をテレビで確認しているっぽい。
《ふむ、どうやらあのハチ少女の毒液から抽出した成分で、あの若返りの薬は作られているらしいね、ボクには興味のないことだけど。それよりも早く、あの怪人をフィギュアにして持って帰って来たまえ》
「フィギュアならちゃんとここに……」
《ボクが見てないとでも思ったのかかい。キミは24時間ボクの監視下にあるんだよ、それが親玉じゃないことくらい知ってるよ。でもコレクターとしては欠かせないアイテムだから、残りの7体もちゃんと手に入れるんだよ》
「はっ? 24時間ってお風呂やトイレまで!?」
「そんなことどうでもいいから、早くフィギュアを持ってこないとスイッチ押すよ?」
スイッチとはつまりミューの起爆スイッチである。
「どうでもよくないし! その話は今度じっくりするから、今はとにかくフィギュア持って帰ればいいんでしょ!」
やけくそ気味のミューの先では、ミラクルハニーが美女軍団にお説教していた。
「今度逃げたら容赦しないんだからねっ、ブンブン!」
ほっぺたを膨らませて怒る仕草は、確実に狙ってやっているに違いない。
上司に注意されてすんなりいくかなぁと思ったら、美女軍団のバイトともめているようだった。
「バイトの安い時給で命かけられませ〜ん」
そして正社員まで。
「それを言うなら、私だって安月給だし。女王様、給料上げてもらえません?」
ミラクルハニーは困った顔をした。
「アタシだって中間管理職だし、給料の相談はゲルたんにしてくれるぅ?」
「だってゲロ大佐は入院したっていうじゃないですかー」
いつの間にかゲロ大佐の俗称で通ってしまっているらしい。
そんな会話に割って入るミュー。
「マジカルハンマー・フィギュアチェンジもどき!」
またの名は殴打。
ハンマーでミューは美女軍団のひとりを仕留めた。
メーターが溜まってないからフュギュア化はできないけど、ハンマーそれそのものにも十分な攻撃力がある。
フィギュア化は後からでもできる。今は一匹倒したから、あと7匹をどうにか片付けなければ。
ミューが闇討ちをしたせいで、敵のヤル気に火がついたようだ。
「この卑怯者!」
敵に言われてしまった。
ハチのように舞い、ハチのように刺す。
6匹のハチが次々と毒針で攻撃を仕掛けてくる。ミューから攻撃を仕掛けようものなら、その隙をい突かれて反撃されそうだ。
そして、嬢王蜂は頑張って応援していた。
「がんばってぇ〜! そう言えばミューを仕留めたら特別ボーナスが出るらしいよぉ」
俄然ヤル気の出た美女軍団。
ミューは蝶のようにひらりひらりと交わすのに必死だ。
萌えメーターもまだ貯まってくれない。
「もぉ、この萌えメーターシステムどうにかならないの!」
《萌えメーターなら簡単に貯まる方法があるよ》
戦いの最中に突然のアインからの通信。頭の中に声が響いて集中できない。
《萌えメーターはね、キミ自身が萌えの対象である必要性はないんだよ。バイト君の周りの萌えパワーを吸収蓄積して、エネルギーに変換して出力するシステムなのさ。テレビ中継されてるからね、すぐメーターは溜まると思うよ》
と、言っている間にもメーターは満タンになっていた。
ミューはハンマーを構えた。
「マジカルハンマー・フィギュア――」
《そうだバイト君》
おっとと、ミューは見事にバランスを崩してコケそうになった。
「ちょ、途中で話しかけないでよ!」
《広範囲をフィギュア化する必殺技があるの教えたことがあったかな?》
「ないし! 早く言え!」
《萌えメーターは表示が満タンになっても、エネルギーの蓄積自体は続いているんだ。きっと今ならマジカルハンマー・インパクトが使えるハズだよ》
「どうやって使うの!」
《そんなこともわからないのかい? 必殺技の名前を叫びながら地面をハンマーで叩くに決まってるじゃないか》
わからないし!
ミューはアインに全力でたて突きたかったが、あれこれ話している間に、六方から美女軍団が飛び掛かってきていた。
アインが声をあげる。
《今だ、バイト君!》
ミューがハンマーを振り上げた。
「マジカルハンマー・インパクト!」
地面を激しく叩いたハンマーから閃光が爆発したようにドーム状に広がった。
ミューも美女軍団も、近くで応援していたミラクルハニーまでも、光はすべてを一瞬にして呑み込んだ。
やがて夜が再び舞い降り、次々とフィギュアが地面に転がった。
だが、フィギュアの数は全部で7体。
冷や汗を垂らしながらミラクルハニーが地面から立ち上がった。
「危なかったぁ〜」
どうやらミラクルハニーだけフィギュア化し損なったらしい。
一人残ったミラクルハニーはついに自らその毒針をミューに向けようとしていた。
にも関わらず、ミューは地面にへばったまま動けなかった。
《そう言えば言い忘れたけど、その技を使うと全身が激しい筋肉痛になって、立ち上がることもままならなくなるから気をつけてね》
今さら遅いし!
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)