科学少女プリティミュー
「もしかしたら言い忘れたかもしれないけど、ボクの心臓が停止したら、ボクの関係機関や私物を破棄するために爆発することになってるから。それ以上は言わなくてもわかるよね、バカでも?」
アインはサラッとおどし文句を言った。
「それってアインをぶっ殺したら、あたしも爆死するってこと?」
「わざわざ聞くなんて、キミ馬鹿だろ」
馬鹿にされたミユはアインを馬鹿力で殴ってやりたかったが、バカバカっと心の中で叫ぶに留めた。
で、アインがこの場に現れたってことは、やっぱりここはアインの関係機関なのか?
そういえばサイレンもいつの間にか止まっている。
アインは嫌そうな顔をして言う。
「それで何をしに来たんだい?」
は?
「来たくて来たわけじゃないんだど」
「じゃあさっさと帰りなよ、ボクはアニメ観賞で忙しいんだから」
「だから来たくて来たわけじゃないって言ってるでしょ。なんか家の周りをジョーカーの関係者っぽいやつらに囲まれちゃったら、なんかこんな感じで家が勝手に動いて、今に至るみたいな」
「ジョーカーならジョーカーと早く言いたまえ。ふむ、それで今度のフィギュアはどんなのだい?」
「知らないし。怪人に会ったのか会ってないのか」
ハチのコスプレ美女軍団が、もしも全部怪人だったら……。
とりあえず立ち話もなんだということで、アインはミユをほかの場所に案内した。
地下からエレベーターで上がり、やって来たのが見覚えのある部屋。
壁の棚に飾られているフィギュア。前よりも増えているような気がする。
ここはアインの研究所、主にリビングとして使われている部屋だ。
つまり、ミユの自宅ははるばるアキバ区にあるアインの研究所の地下までやって来たらしい。
とりあえずミユはこれまでのことをアインに話して聞かせた。ちなみにワトソン君のことはなかったことにした。自分の母親と一緒だったなんて口が裂けても言えない。
話を聞き終えたアインはひとつうなずき。
「ふむ、それで被験者はどこだい?」
ミニママのことである。
「もうとっくに寝てるし。起こしたりしたら承知しないから」
すっかり保護者のミユ。
「しかし、調べないことには対処の仕様がないね。せめてほかの手がかりがあればいいけど」
「あ、もしかしたらこのハチミツが原因かも?」
ミユはどこからか工場でいつの間にかパクったハチミツのビンを取り出した。てゆか、今まで持っとたんかい!
ゲームの最中とか、さぞ邪魔だっただろう。
アインの背負っている万能ランドセルからマジックハンドが伸び、それがハチミツのビンを回収した。
ビンはランドセルの中で解析される。
チ〜ン♪
まるでレンジのような音がして解析結果が出た。ランドセルから出たディプレイに謎の図形やら意味不明な記号が羅列している。
「ふむ、どうやらとても健康良いロイヤルゼリーのようだね」
「それだけ?」
「いや、通常のロイヤルゼリーの成分のほかに、脳に作用を……凡人にもわかりやすく説明してあげると、若返りの成分も含まれているというわけさ」
「凡人で悪かったですねー。でさ、ママは元に戻れるの?」
「元の年齢までちょうど戻すのはめんどくさいね」
できないんじゃなくて、めんどくさいのかよ!
アインは手のひらに置いた謎のスイッチボックスを押そうとしていた。
「バイト君が帰ってくるまでには余裕で逆若返り薬を作っておくよ」
帰ってくるまでには?
そして、アインはボタンを押した。
ポチッとな。
「きゃっ!?」
悲鳴をあげたミユの足下に落とし穴!?
チューブの中をウォータースライダーみたいに滑り落ちるミユ。なんかデジャブ−。
ストンと落ちたそこは発射台だった。
ミユの体にシートベルト――またの名を拘束具が装着され、息つくヒマもなくミユの体は再び上昇。
発射!
道路の真ん中で開いたマンホールからミユの体が天高く打ち上げられた。
嗚呼、何度目かの人間ロケット。
そろそも飛行システムとか付けてくれればいいのに。
羽根も翼もジェットもないミユは、自由落下にこの身を任せてフォールイン蜜蜂の館。
天井をぶち破り、地下の工場まで落下。
生産ラインで働いていた戦闘員たちが慌てふためく。
瓦礫の山の中からにょきっと立ち上がるミユ。
「あはは、どーもお世話がせしてすみませ〜ん」
笑って誤魔化すが、どう見ても笑えない状況。
戦闘員のひとりが気づいた。
「プリティミューだ!」
速効でバレた。
ミユはケータイを掲げて叫ぶ。
「サイエンスパワー・メイクアップ!」
科学少女プリティミュー見参!
さっさと変身して、さっさと仕事を終わらせたかった。
「え〜っと、で、ジョーカーの怪人さんはどなたですか?」
とりあえずミューは質問を投げかけた。
が、返ってきたのは戦闘員の山。
キーッ!
キキーッ!
黄色い声をあげる戦闘員たち。
ここは猿山かッ!
戦闘員がいくら束になってかかってきても、ミューはアッサリさっぱりした顔でぶちのめす。戦いにも慣れてきたし、戦闘員なんて目じゃない。
猿山じゃなくて戦闘員の山の上にミューが立っていると、部屋の奥から続々とコスプレ美女軍団が現れた。
ハチのコスプレをしているだけに8人!
「よくも工場を滅茶苦茶にしてくれたわね!」
「せっかくの大人子供作戦が台無しだわ!」
「あなたのせいで減給されたらどうしてくれるのよ!」
「次のバイト何にしよう」
「私正社員だから、クビになったら困るし!」
「いいなぁ、バイトは気が楽で」
「もう商品の一部は出荷済みだし、作戦は成功ってことでいいんじゃない?」
「ここでミューを殺しちゃって、上に報告しなきゃいい話だし」
8人は顔を見合わせながら『うん』と力強くうなずいた。
そして、一致団結してミューに襲い掛かってきた。
怒濤の連続8コンボ!
前からも横からも後ろからも、そして上からも毒針を手に持った美女が襲い掛かってくる。状況が状況じゃなければハーレム展開なのに。
コスプレなのか未だに定かでないが、あの羽は空も飛べるらしく、足場の悪さに関係なく
襲い掛かってくる。
一方ミューは、戦闘員の山に足を取られて、思うように動けない。
まるでモフラ叩きというか、ワ○ワ○パニックというか、マジカルハンマーを構えたミユの前に代わる代わる現れる美女軍団。
ミューの必殺技であるマジカルハンマー・フィギュアチェンジは、ミューの胸にあるハート形の萌えメーターが堪らないと発動できない。今回は美女軍団とのコラボということもあって、溜まりが早いには早いが、もしかして8回分溜めるハメになるのか?
そもそも今回の怪人は本当に彼女たちなのか?
でも、とりあえずフィギュアを持ち帰れば、あのオタクは満足するんじゃない?
ってことで、ミユはマジカルハンマーを振り回した。
「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」
8匹もブンブン飛んでりゃ一匹くらい当たるでしょーってわけで、見事にクリティカルヒット!
ぽとんと床に蜂女のフィギュアが落ちた。
それを見た美女軍団がざわめき立つ。
「もうこのバイトや〜めた!」
一人が逃げ出した。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)