科学少女プリティミュー
そういえば、ワトソン君か誰かだかが、ミユの家は24時間監視してるから、ジョーカーなんてぜんぜん平気的なことを言っていたような気がする。
ぜんぜんダメだし!
なんかもう敵の包囲網の中だし!!
慌てるミユ。きっと間もなく敵が土足で踏み込んでくる。雨の日に土足なんて掃除が大変じゃないか!
とりあえずこの場から逃げるのが先決だろう。
ミユがミニママの手を引いた瞬間、家が揺れた。
まるで地震のような揺れだ。立っているもやっとなくらい大揺れだ。
これはただの地震なのか?
外から雨音に混じって声が聞こえてくる。
「家が沈んでる!?」
は?
地盤沈下ですか?
地盤が弱い場所に家を建てたりすると、地震の影響で家が沈んだりするアレですね。
だが、状況はそんなもんじゃなかった。
家中から聞こえてくる不気味な謎のモーター音。
窓から見える景色が徐々に上がっていく。
家は沈んでいるのではなく、自ら地中に潜っていたのだ。
二階建ての一軒家は完全に地中に姿を消してしまった。もはやそれを追う手立てはない。ハチのコスプレ美女軍団は為す術もなくその場に立ち尽くした。
一方、家の中に取り残されたミユは大パニック。
気づけば窓という窓は金属っぽいもので塞がれ、外の景色すら見ることができない。ただ、なんだか家が動いているような気がする。しかもかなりのスピードで下へ。
まるでエレベーターが目的階に到達したように、重力がうぉんとなった。胃がびっくりする。
そして、家は再び動きはじめた。
おそらく今度は横に移動している。
もう意味がわからない。
ここままどこまで行くのだろうか?
最悪、途中で止まって地中に埋まったままなんてことはないだろうか。
ガンッ!
強い衝撃と共に家の動きが止まった。
これ以上、動き出す気配はない。けど、窓はまだ塞がれたまま。そもそも、上に移動した感覚がないので、おそらくまで地の底だ。
まさか本当に生き埋め!?
冷蔵庫に食料はある。
でも電気とか通っているのか?
通ってなかったら冷凍庫は数時間で悲惨なことになる。
水道は平気なのだろうか?
家ごと移動したのに、水道管がくっついてきているハズがない。
てゆーか、そのうち酸素すらなくなる。
ものすごい緊急事態じゃないかッ!
慌てたミユはすぐさま玄関に向かった。
もしも地中だったらドアを開けたら悲惨なことになりそうだが、今のミユはそこまで頭が回らなかった。
「トイレの水が流れないなんて悲惨すぎる!」
給水タンクがあるので1回分は大丈夫だが、そのあと大きい方でもしたら……。
悲惨すぎる!
それは一刻も早くここを脱出しなくては!!
ミユは玄関のドアを力一杯開けた。
そして案外あっさり開いてしまったドア。
勢い余って外に出たミユはコケた。
潰れたカエルのように床に倒れたミユは本日二度目のパンチラだ。
そこは小さな個室だった。金属の天井と壁で囲まれ、もちろん床も同じ。窓はやっぱりない。あるのは次の部屋へと続くドア。
「どこここ?」
つぶやくミユ。
とりあえず生き埋めは免れたらしい。
さっそくミユは次の部屋に移動しようとしたが、そのドアを開けるためには暗証番号が必要だった。
そんな番号知るかーッ!
やっぱり生き埋めだ。
暗証番号は0から9までの数字の組み合わせ。何桁の組み合わせかわからない。
こうなったら仕方ない!
ミユはテキトーに数字を押しまくった。
そして、決定ボタンを押す。
ブー!
明らかに間違えな音がした。
再びミユは挑戦する。
今度は自分の生年月日を入力してみた。
ブー!
やっぱりダメだ。
ちょっと考えてみよう。
家が地中を移動するなんて、一般の住宅には備わっていない機能だ。ということは、自然に考えてアインの仕業に決まっている。
三度目の正直、ミユはアインの研究所の電話番号を入力してみた。
ブー!
「これも違うの!?」
次はアインのケータイ番号を入力しようとした矢先!
《パスワードの認証に3回失敗しました。このドアは一時的に閉鎖されます》
そして、サイレンが鳴りはじめた。
明らかにやっちゃった感じだ。
部屋の照明も赤く点滅している。
「ええ、えええ、どうしたらいいの〜っ!?」
どうするもなにも、どーしよーもない。
この騒ぎを聞きつけて、ミニママもこの場にやって来た。
「どしたのミユ?」
「え〜っと、防災訓練……防災訓練に決まってる!」
もはや現実逃避。
しかし、サイレンが鳴り響いてからしばらく経っても、何事も起きない。
放置プレイ!?
これって放置プレイなの?
サイレン鳴らしてビビらせるだけビビらせといて、放置ですか!
どんだけSなんですか!!
10分が過ぎ、20分が過ぎ、30分が過ぎ。
遠くでサイレンが聞こえるのをシカトして、ミユは自宅の居間でミニママと対戦ゲームに夢中だった。
どうやら電気は通っているらしく、任電堂Wliのゲームソフト『大乱交スマッチョブラザコンズDX』略して……ゲフンゲフン(大人の事情)で遊ぶ二人。
このゲームは対戦アクションゲームなのだが、ミユは子供にも容赦ない。
「ふふん、またあたしの勝ち〜」
「もうこのゲームやめるー!」
「え〜、まだやろうよ〜」
性格悪し。
そんなことをしていたり、ミユママをお風呂に入れたり、再びゲームをしたりしているうちに、刻々と時間は過ぎていった。
ミニママが大きなあくびをした。
「ねむい〜」
時計を見れば、もうよい子はおねんねの時間だ。
ミユはミニママを寝かしつけ、ほっと一息。
今日はこんな感じで終わったが、明日から子育てが本格化するのだ。
「って、なんであたし子育てなんてしなきゃいけないの!」
そりゃそうだ。
「そういえばパパどうしたんだろ。家に帰ったら家が無いなんて、きっと大騒ぎしてるんだろうなぁ。あ、そうだパパのケータイに――ってやっぱり圏外」
ケータイは地下だし圏外。固定電話も確かめたが、回線が繋がっていないようだった。
ここで地下に家ごと生き埋めにされたのだと再認識。
「どうしよう〜っ!」
遠くではサイレンが未だに鳴っている。そろそろ誰かサイレンを聞きつけて来てもいいのに。
っていうか、とっくに来い。
ミユは再び玄関を出てあの個室に向かった。
サイレンがうるさい。いつまで鳴ってる気なのだろうか。
ここで突然だが説明しよう!
ミユはアインに改造された改造人間である。そのパンチ力、キック力、馬鹿力は人間の比ではないのだ。
とりあえずミユはドアを殴る蹴るの暴行。
ドン! ガン! アダダダダダダッ!
ビクともしなかった。
ここでもう一度説明しよう!
ミユはメガネのクソガキに体を弄られちゃったサイボーグである。その破壊力、殺傷力、やっぱり馬鹿力は人間なんてちょちょいのちょいなのだ。
再びミユがドアを殴ろうとしたとき、ウィーンっとドアがスライドして開いた。
そして、ピタッと止まったミユの拳の先にいたのはメガネ。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)