科学少女プリティミュー
突然、悪の軍団ジョーカーと戦うヒーローだと言われ、女だからヒーローじゃなくてヒロインだよ……みたいなことは置いといて、気づいたら変な服を着て怪人を目の前にしてしまっている。
しかも突然、ミユの脳内に響く声。
《聴こえるかいミユ》
幻聴!?
ついにミユは頭が可笑しくなってしまったのだろうか……。
違った。
《ボクの声が聴こえてるかい?》
それはアインの声だった。
「聴こえる……聴こえるけど、どこから?」
《そういう察しの悪い発言はやめてもらいたいね。キミの脳に通信機を埋め込んであるに決まってるじゃないか》
「決まってない!」
叫ぶミユを周りから見たら、独り言で突然叫んだイカれた女だ。
ミユが通信を行なっていることは周りにはわからない。
《ところでバイト君、キミは危機的な状況に追い詰められていることに気づいているのかい?》
「えっ?」
気づいたら、ミユは蜘蛛の糸で簀巻きにされていた。つまり、身体がグルグル巻き。
ミユ的にピンチ!
傍から見てもピンチ!
チンピだ!
つまりミユはピンチだが、蜘蛛男はピンチの逆のチャンスだ。
簀巻きにされたミユは手も足も出ない。そんなミユに蜘蛛男が詰め寄ってくる。
「ククク、手も足も出ないようだな」
「横ち○のクセに、さっさと解いてよ!」
「横○ん横ち○って言っていて恥ずかしくないのか?」
「横○んしてるあんたが恥ずかしい」
蜘蛛男的大衝撃! とか漢文風に書いてみたりしちゃったりして。
とにかく蜘蛛男はミユの言葉の暴力で大ダメージを受けたのだ。
そんなショック状態の蜘蛛男から逃走を図るべく、ミユはぴょんぴょん跳ねて背を向けた。
気づけばミユたちを取り囲んでいる人とか人とか人とか。
うわぉ!?
報道のカメラまであるじゃん!
ここで冷静になってみよう。
変な衣装を着させられ、カメラでテレビ放映されている。
「……友達とか親とかに見られたらヤバイ」
そもそも蜘蛛男なんかと戦う理由もない。
――いや、とってもある。
《バイト君、遊んでいないでさっさと蜘蛛男を退治するんだ。起爆装置のスイッチ押すよ?》
脅しだ。明らかな脅しだ。脅迫だ!
ぴょんぴょんと跳ねながらミユは向きを変えて蜘蛛男と向き合った。
蜘蛛男はまだショックを受けて手を地面について項垂れている。
横ち○は直したくても直せない。こんな公衆の面前でち○こをいじるわけにもいかない。
こうなったら吹っ切るしかない。
蜘蛛男もミユもだ。
向かい合う蜘蛛男とミユ。
――簀巻きのままで、どうやって戦えと?
ミユは独り言のようにアインと通信をする。
「グルグル巻きにされてピンチなんだけど、どーにかならない?」
《そうだね、あと3分ほどでワトソン君が助けに行くよ》
「3分も待てない!」
傍から見たら独り言のミユに蜘蛛男が不信感を抱く。
「おまえ、さっきから誰と話しているんだ?」
「あたしを改造したインチキ科学者」
《バイト君、起爆装置を爆発させるよ?》
雇い主の脅しでミユは言い直す。
「今あたしが言ったことは聞かなかったことにして。あたしを科学少女プリティミューに改造したちょー天才科学者アイン様」
《そして、キミは悪の軍団ジョーカーを倒すために立ち上がったヒーローだと、その蜘蛛男君に説明してあげたまえ》
アインの腹話術人形になってミユはしゃべる。
「そして、あたしは悪の軍団ジョーカーを倒すために立ち上がったりなんかしちゃったりして……」
「我らがジョーカーに歯向かうとは馬鹿な女だ!」
ミユに牙を剥く蜘蛛男。
簀巻きのミユピンチ!
このまま横○ん蜘蛛男に襲われてしまうのかっ!?
逃げても爆死。
逃げなくても蜘蛛男の餌食。
どっちもイヤだ。
もう駄目だとミユが強く目をつぶったとき、空からは一筋の光が飛来していた。
キラリーン♪
マスクの奥で眼を剥いた蜘蛛男に物体エックスが激突した。
「あべばっ!」
よくわからん奇声を聞いたミユが強くつぶっていた目をあけると、そこにはなんと泡を吹いて倒れる蜘蛛男の姿が――しかも痙攣して横○んまでピクピクしてるぞ!
瀕死で倒れる蜘蛛男の傍らには、三毛猫のワトソン君の姿があった。蜘蛛男は飛来してきたワトソン君の石頭にKOされたのだ。てゆーか、ワトソン君は無傷だ。
「助けに来たにゃ」
とワトソン君はネコ型ロボット的な、そんな手でどうして道具が器用に使えるの的に、スプレー缶からシュッシュとミユに霧状エックスを吹きかけたのだった。
するとミユの身体をグルングルンと巻いていた蜘蛛糸が、ジュワジュワと溶解して消えてしまったではないか!
わぉおミラクル!!
説明しよう。実はこのアイテムはアインの発明した〈雲溶かスプレー〉だったのだ。本来は〈雲固めスプレー〉で固めた雲を元に戻すために使用するものだ。ダジャレかっ!
蜘蛛の糸から開放されたミユにアインから通信が入る。
《バイト君、蜘蛛男が弱っている今がチャンスだ!》
「チャンスって武器もなにもないし」
手ぶらのミユにワトソン君がなにかを投げ渡した。
「受け取るにゃー!」
「受け取るってなに!?」
反射神経でミユが受け取ったのはピコピコハンマーだった。つまり玩具のハンマー。殴るとピコピコ音が鳴るハンマー。
《バイト君、それで弱っている怪人を叩くんだ》
「叩けって……えいっ!」
ミユは弱っている蜘蛛男を非情にもピコピコハンマーでぶん殴った。
ピュコピュコと小鳥が鳴くようにハンマーが音を立てる。蜘蛛男にはほとんどノーダメージだ。それどころか気絶していた蜘蛛男が目を覚ましてしまった。
起き上がった蜘蛛男が6本の手を広げてミユに襲いかかってくる。変質者まがいだ。
「よくもやってくれたな!」
「あたしなにもしてないし!」
必死で円を描きながら逃げるミユを蜘蛛男が追いかける。その場でグルグル追いかけっこしているところが緊迫感ゼロだ。アニメ以外でこんな光景なかなか見れない。
しかし、ミユは必死だ!
「助けてぇ!」
《バイト君、マジカルハンマーを使うんだ!》
「使ったじゃん、使ったけど無意味だったじゃん!」
《それはキミの使用方法が悪かったに決まってるじゃないか》
使用方法なんて説明うけていない。
《バイト君、今からボクが……あっ、アニメの時間だ。それではバイト君、健闘を祈る》
ブチッと一方的に通信が切られた。
ミユの命よりもアニメが優先されたのだ。
「ありえなーい!」
叫ぶミユ。このときアインにたいする確実な殺意が沸いた。
蜘蛛男との追いかけっこをいつまでも続けるわけにはいかない。手元にある武器はマジカルハンマーという役立たずのアイテム。
どうするミユ!?
そんなミユの視界に入る三毛猫ワトソン。
「助けて!」
猫の手も借りたい状況。
ワトソン君は地面に紙を広げて、そこに書かれた文字や図説を読んでいた。
「マジカルハンマーの説明書を読んでるから、ちょっと待つにゃ」
そんな余裕ミユにない。
「ちょっとって何時何分何十秒、地球が何回回ったら!!」
焦るミユに追い討ちをかけるように、蜘蛛男の手から糸がシュッと飛ばされた。しかも6本同時だ。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)