科学少女プリティミュー
意識はあるし、目の前にはアインが立っている。どうやら死んではいないらしい。
脚も腕も、体のどこを見回しても無傷だ。奇跡だ。ミラクルだ。
腕についていたブレスレット型起爆装置もなくなってる。
「起爆装置はずしてくれたんだ」
これで爆死の恐怖から開放された――と思いきや。
「起爆装置は体内に埋め込んでおいたよ」
「はっ?」
「ついでにキミの身体をサイボーグ化しておいたよ」
「はっ?」
意味不明だ。言葉の意味は理解できるが、とにかくアインの発言は意味不明だ。
「キミの命を救うにはサイボーグ化するしかなかったんだよ」
「人間に戻して!」
「それはムリな相談だね。でも平気さ、ほら」
とアインの手がミユの胸を鷲掴みモミモミした。
思考がうまく作動せずミユの顔が引きつったまま止まる。
「な……なにしてんの?」
「特殊樹脂を使っているから本物のさわり心地と変わらないよ。オイルを循環させているから、人肌も再現されている。つまりね、外観が人間そのものなんだよ!」
「……あっそう」
ロケットパーンチ!
ミユの超合金パンチがアインに炸裂。
顔面をヒットされたアインがぶっ飛んだ。
床に片膝を付き、頬を押さえたアインが涙目を浮かべている。
「殴ったな、ワトソン君にしか殴られたことないのに!」
アインの鼻から鼻血がツーっと垂れた。
傷を負ったアインに謝ることもせず、ミユは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「本当にサイボーグになっちゃったの……ありえない、ありえない……」
「ありえるさ、ボクは不可能を可能にする男だよ。サイボーグになったキミは一〇万馬力だよ、人なんて軽々しく殴るものじゃない」
「証拠は? あたしがサイボーグになった証拠」
ビシッと立ち上がったミユがアインに詰め寄った。
腕組みをしたアインは『う〜ん』と唸り、頭で電球をひらめかせ手を叩いた。
「そうだ、レントゲン写真を撮ろう。ここはね、もともとアングラな無免許医師の病院だったのさ。今はボクの棲み家だけどね」
そのために、手術室のような施設があるのだ。
アインに連れられミユは廊下を進み、手際よくレントゲンを取り終え、元待合室のリビングでミユが待っていると、レントゲン写真を片手にアインが戻ってきた。
「キミのボディが高性能すぎて上手に写らなかったよ」
「いいから早く見せて」
受け取ったレントゲン写真を天井の蛍光灯に透かす。そこに写ったのはミユの身体の輪郭には間違いないのだが、内部がまったく写ってない。そこには『極秘』と書かれ内部が写ってないのだ。
「なにこれ?」
「キミのボディには最新技術が詰め込まれているからね、極秘なんだよ」
「はっ?」
「うちにあるレントゲン程度じゃ写らないさ」
「だってあたしの身体を改造したのあなたでしょ?」
「資本提供が帝都政府だからなぁ」
「はっ?」
ダメだ、会話がかみ合わない。ミユのわからないことが多すぎる。
ソファーに丸くなって座っていたワトソンはテレビを見ていた。
「アイン見てにゃ。ホウジュ区のオフィス街で怪人がだってにゃ」
「ふむ、ついにバイト君が活躍するときがきたね!」
アインに唐突な振りをされたミユは眼を丸くする。
「意味わかんない、意味わかんない」
「バイト君、キミはね正義の味方なんだよ。悪の軍団ジョーカーと戦うヒーローなんだ。キミの名前なんだっけ?」
「ミユ」
「それじゃあ名前は鉄人μ號で決定ね」
ネーミングセンスが微妙。
うんともすんと言わないミユの前でアインは悩み、ポンと手を叩いた。
「科学少女プリティミューでいいよ。ボディスーツを着て、いざ出動するよ」
展開がとんとん拍子で速すぎる。標準スペックのミユの脳ミソでは処理落ちしてしまう。
考える隙も与えず、アインはミユをボディスーツに着替えさせてしまった。この手際の良さなら、きっと衣料関係のショップの店員になっても成功間違いなしだ!
別室でボディスーツに着替え、姿を現したミユは不思議そうな顔をしている。
「これってボディスーツというか、ドレス……俗に言うゴスロリ」
「違うよ、白ロリだよ」
アインや愛好者にすれば違うかもしれないが、一般人にとってはゴスロリでしかない。
ボディスーツと言われて着替えさせられたのは、白を基調にしたロリータファッション。スカートの裾が膝から高い位置にある。
「こんなので動いたらパンツ見えるじゃん!」
ミユのツッコミは的を射ていた。
「それはだねバイト君、動きやすさとかわいらしさを追求した結果さ。嫌ならスパッツを購入することを推奨するね。しかしながら、今はそんな時間はないから、いざ出動!」
ピッとなにやらアインが壁に取り付けられていた赤いボタンを押すと?
「きゃっ!?」
悲鳴をあげたミユが突然足元に開いた穴に落ちた!?
ミユの身体がチューブ状の滑り台を降りていく。ウォータースライダーと構造はそっくりだ。
滑り台の急斜面は90度に変わり、ストンと落ちたと思ったら、息つく暇もなくミユの身体にはシートベルトが自動装着され、気づいたときには身体が急上昇していた。
秒読み、5秒前、4、3、2、1――ゼロ!
開いたマンホールからミユの身体が天高く打ち上げられた。人間ロケット発射!
ぴゅーん!
真昼の星になったミユはビルよりも高く飛んでいた。
そして、落ちていた。
地面に向かって落下するミユ。
嗚呼、ホウジュ区のオフィス街が見えてくる。てゆーか、近づいてくる。
ここままじゃ潰れたトマトになること間違いなし。
しかし、ミユは成す術なしでアスファルトに大激突したのだった。
謎の物体エックスが地面に激突し、ビビって怪人は大暴れをすることをやめてしまった。
地面にできた小さなクレーターから人影が立ち上がった。
「マジ死ぬかと思った!」
ミユは顔面蒼白になりながら、2本足で立ち上がりイキテル実感をしていた。
このときミユは周りの状況を把握していなかかった。もちろん目の前に怪人がいることも気づいていない。
「おい、キサマ何者だ!」
乱暴に呼ばれ、ミユはハッとして目の前の怪人に気づいた。
赤と青を基調にしたボディースーツに頭まですっぽりと隠す怪人。なんとその怪人には手が6本あったのだ。
いや、そんなことよりも、ミユの視線は怪人の股間に……。
「横○ん……じゃなくって、あたしはか……科学少女……プリ……ミゥ……」
言い返すミユの視線は怪人の股間をいったりきたり。
「よく聞こえなんな?」
「うるさい、この横ち○男!」
「よ、横○ん男だとぉぉぉ! オレは秘密結社ジョーカーの怪人――蜘蛛男だっ!」
しかし、ミユの視線は蜘蛛男の股間に注目されてしまっていた。
横ち○の形がぴっちりもっこりくっきり――男としては恥ずかしい形状だ。
ち○このポジション――略してチンポジをボディスーツを着るときに確認してなかったのだろう。
怪人にはよく、変身怪人ゼッ○ン星人や三面怪人ダ○など、名前の上に○○怪人と付くものなのだが、蜘蛛男は『横○ん怪人蜘蛛男』で決定だ!
そう思うと、こんな怪人怖くない!
が、ミユの脳裏に過ぎる考え。
――ここであたしになにをしろと?
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)