科学少女プリティミュー
第7話_ミラクルハニーだよプリティミュー!
花の金曜日、すなわちフラワーフライデー!
なんて英語はない。
ちなみに海上自衛隊では金曜日はカレーと決まっているらしい。
金曜日の夜、眠らない街ホウジュ区の輝きは、ワトソン君の瞳と同じくらいキラキラしていた。
ワトソン君のとなりを歩いているのは、何を隠そうミユママ!!
妖しげな街並み。
ネオンの下を舞う夜蝶。
男女の行く先はラブホ街!
「マジ……ありえない」
力なくミユはつぶやいた。
母親が若い男を連れて歩いている。しかも、その相手ってのが、あのワトソン君(青年バージョン)。
そんなことがあっていいの!?
いや、よくない。
絶対によくない。
健全じゃない!
腕組みをしながら歩く二人の後ろ姿は、どう見ても不倫カップル。
もしかしたらただの不倫じゃすまないかも。
ミユはゲッソリした。
ワトソン君をパパなんて呼ぶ日が来るかもしれないと考えるだけで、首つってご臨終したくなる。
あんなネコ人間がパパになるくらないなら、白いイヌがお父さんのほうがまだマシだ。あっちのほうが断然カワイイ。比べものにするのもおこがましい。
ワトソン君とミユママはとあるお店の前で立ち止まった。
思わず息を呑むミユ。
看板には『蜜蜂の館』と書かれていた。
蜜という響きがエロイ。
エロイと1度思ってしまうと、エロくてエロくてたまらなくなる。まるで催眠術。
男女が二人で蜜と言ったら……ゲホゲホッ。
ん〜ま〜、とにかく、ミユもそーゆー想像をした。
ミユの妄想ビジョンは広がっていた。
「あ〜どうしよ〜。ある日突然、弟ができたの……なんてママに言われたら。妹かもしれないけど。人面犬が弟なんて絶対にイヤ! 妹かもしれないけど」
ミユが人目もはばからず、人から白い目で悶え苦しむ見られている間にも、ワトソン君とミユママはお店の中へ消えていく。
焦るミユ。
「早く追わなきゃ!」
と、言ってもお店の正面から堂々と入る勇気はない。
ミユは裏手にある従業員口に向かった。
なんかこんなことが前にもあったような気がする。
前と同じなら、とりあえずドアノブに手を――。
「あ、開いた」
開いてしまった。
店内に入った途端に鼻の奥を攻撃してくる甘ったるい匂い。甘すぎて胃もたれを起こしそうだ。
しかも、なにこの花畑。
店内はメルヘンでスイーツだった。
至る所に飾ってある花。
こんなところにいたら受粉してしまいそうだ。
ミユはこんな店に入るのは初めての体験だったが、なんだかそーぞーと違う。
もっとなんか、あぁんとか、いやぁんみたいなのを期待……じゃなくて、想像していたのに。
ミユは人目のつかないようにママたちを探した。
とりあえずなんか個室がいっぱいある。
その一つから声が漏れてきた。
「あぁん、そこ!」
ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!
想像どおりの展開ぐぁッ!!
しこも……じゃかなった、しかもを打ち間違えてしまうくらいの衝撃がミユに!
「ママ!?」
そう、あの色っぽい声は紛れもなくミユママ!?
母親の声を聴き間違えるハズがない。が、あんな声を聴いたのは初めてだが。子供が聞いちゃいけない声だ。
自分の親がそんな声を出しているのを聴いたら、トラウマになる!
どうするミユ!
これからどうするんだミユ!
君はこれからどうする気なんだぁぁぁっ!!
そんなわけでミユはそーっとドアに近付いた。
さらに大胆にもドアノブに手を掛ける。
カチャっと開いた!
禁断の扉が開いてしまったよママァン!
部屋の奥から聞こえてくるあえぎ声。
「あぁん、気持ちいい!」
ベッドの上で仰け反るミユママ。
その傍らには女性……女性?
レズプレイかッ!
いや、違う。
あれはプレイなんて生やさしいものじゃない。
あの手さばき――プロだ!
謎の女性が黄金のとろ〜っりとした液体を手にべっとりつけ、ミユママの柔肌に練り込む。
練り込む、そして練り込んで、また練り込む!
あれはまさか!?
オイルマッサージだッ!
ミユがさらに近付こうとしたとき、おっとどっこい、ドアが一気に開いてバランスを崩したミユが部屋の中に飛び込んだ。
バタン!
っと思いっきり倒れるミユ。しかも、うつぶせでパンツ丸見え。
驚くミユママ。
「ミユ!?」
焦るミユ。
「あ、うん……ちょー偶然だねママ!」
どんな偶然だよ!
そして、逃げるミユ!
ダダダダダダッ!(走る音)
必死こいたミユは、しばらく走ってから立ち止まった。
おでこの冷たい汗を拭う。
「危なかったぁ」
とっくに危ないを越えている。
でも、まあ一難が去ったことには違いない。
しかし、日本にはこんな言葉がある。
一難去ってまた一難。
「ここどこ!?」
ミユは迷子になっていた。
あたりを見渡せば、そこは謎の工場。
ベルトコンベアで運ばれてくる何かを全身黒タイツ……なんでこんなところにジョーカーがッ!
なんて煽るのもアホくさくなるくらい、待ってましたの登場だ。
読者には丸わかりの展開でも、ミユには見通せない。
まさかこんなところでジョーカーに遭っちゃうなんて、かわいそうなことにミユにはわからないのだ。
戦闘員たちは運ばれてくるビンの中身をチェックしていた。
中に入っているのは黄金の液体。
ここまでの展開からどう考えても蜂蜜なのだが、ただの蜂蜜ではない。
ミユはこっそりビンを一個拝借した。または泥棒したともいう。
ビンのラベルのはこう書かれていた。
――お肌スベスベ、これであなたも20歳くらい若返る!
20歳とは大きく出たものだ。
だいたいこんなものは誇大広告に決まっている。
しかも、20歳くらいの?くらい?がどのくらいの幅なのか。もしかしたら0歳も含まれているかもしれない。
ミユはさっさと関わらないようにすることにした。
ここがジョーカーと関わりがあるとわかった以上、深入りなんて好んでしたくない。
いつもなんだか事件に巻き込まれてしまうが、ミユはジョーカーと戦いたくて戦ってるわけじゃない。
工場から離れたミユは再び店内にやって来た。どうやらあそこは地下だったらしい。必死で逃げてとんでもない場所に迷い込んでしまったものだ。
「さ〜ってと、さっさと帰ろーっと」
なんて呑気に帰ろうとしていたミユの目の前に全裸の少年が!?
なぜに!?
全裸!?
ぞーさん、ゆーらゆら♪
少年はミユの顔を確認するや。
「助けてにゃ!」
その口調は紛れもないが、その少年の姿は見たことがない。
きっぱり断言しよう――あんなぞーさんも見たことがない!
いや、しかし、もしもってこともあったりして、驚いたミユが叫ぶ。
「ワトソン君!?」
そんなハズがない。
人間バージョンのワトソン君は、もっとご立派だ(なにが?)。
ぞーさんをゆらゆらさせて駆け寄って来る少年が、見る見るうちに縮んでいく。というより、若返っているではありませんか!?
やがて少年だったものは、ミユの足下で赤ん坊になってしまった。
「にゃーにゃー」
しばらくミユは立ち止まって考えた。
「うん、帰ろう」
そして、なかったことにした。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)