科学少女プリティミュー
その名を聞いたマジカルメグは息を呑んだ。
「まさか……ジョーカーの帝都支部を任されている幹部のゲル大佐なの!?」
ベッドからゲッソリした女がゆっくりと降りた。
「ゲホゲホッ……いかにも、うぇぇぇぇ〜……アタクシがゲル大佐だ……」
今にも死にそうだった。
自慢の爆乳も今日は元気なく垂れている。
マジカルメグは驚きを隠せなかった。
「あんな弱そうな人が幹部なんて」
ミューも同意した。
「ホント、なんか顔なんて真っ青だし。自分の体調管理もできない人が幹部なんて信じられない」
「貴様ら言わせておけば……うぇぇぇぇ〜」
ゲル大佐は鞭を振るおうとしたが、気持ち悪いし点滴打ってる最中だし、再びゆっくりとベッドに戻っていった。
しかも、ゲル大佐はバケツに『うぇぇぇぇ〜』している。ゲル大佐というかゲロ大佐だ。
カメ・レオンは呆れたように首を横に振った。
「ここはオレに任せて帝都支部で休んでいればいいのに」
「ゲホゲホッ……ついにプリティミューとマジカルメグを捕らえたのだ……うぇぇぇぇ〜……この手で……うぇぇぇぇ〜」
もう会話もままならない状態だった。
白衣を着ていた戦闘員が頭の上でバツ印を作った。
「キーッ!!」
ドクターストップ!
ゲル大佐を乗せたベッドが看護婦たちの手によってヘリに運ばれていく。
患者を緊急輸送!
そして、ヘリは飛び去った。
……何しに来たんだよ?
ジョーカー幹部との衝撃的な出会い。衝撃的過ぎて開いて口が塞がらない。
ぽか〜ん。
カメ・レオンは気を取り直すように咳払いをした。
「今のは見なかったことにしてくれ」
ゲル大佐ってなんですか?w
ここには誰も来ませんでしたし、ヘリなんか影も形も見てませんよ。
さーてと、カメ・レオンは鋭い爪を光らせた。
「オレが息の根を止めてやる。どっちを先にしようか?」
ミューは首を横にブルブル振った。
「あたしはただの女子高生だし、実はプリティミューのソックリさんなんです。この衣装とかも手作りのコスプレなんですよぉ!!」
言い逃れしようとしたが、校舎のほうからブーイング。まさかの全員敵に回してしまった?
マジカルメグは冷静だった。
「どちらが先なんて関係ない……わたしはここで負けないもの」
縛られ動ける状況にない。
カメ・レオンはあざ笑った。
「たいした自信だが、今のあんたに何ができる? あんたから血祭りに上げてやるよ」
「できるなら」
「殺してやる!」
マジカルメグの挑発に逆上して爪を振り下ろそうとした瞬間、カメ・レオンの口の中から植物の蔓が!?
次々と伸びる植物。口を花瓶に見立てた斬新な生け花ですか?
そして、毒々しい真っ赤な花が咲いた。
ミューの感想。
「キモッ!」
やせ細ったカメ・レオンは地面の上で痙攣している。
植物の蔓はまるで意志を持っているかのように、マジカルメグを拘束していたロープを切った。
カメ・レオンに冷たい視線を送るマジカルメグ。
「この子は生物に寄生して育つ魔界植物ハナサカタロウ。貴方の負けはわたしを舌で捕らえたときから決まっていたの。あのときに種を仕掛けて置いたから」
怖っ、マジカルメグ怖っ!
ミューは言いづらそうな感じでそーっとマジカルメグに声をかける。
「あのぉ、あたしの縄も解いて欲しいなぁとか」
「……わたしを置いて逃げたのは誰だったかしら?」
「そ、それは〜……作戦だったのよ、作戦!」
「別にいいわ。助けてあげる」
ロープを解いてもらったミュー。
カメ・レオンはすでに砂になって消えていた。
たくさんいたハズの戦闘員たちの姿もない。
これで一件落着したのだろうか?
「あっ」
ミユは呟いた。
「フィギュアにできなかったけど……ま、いいか」
ピンポンパンポ〜ン♪
校内放送が流れた。
《午後の授業をはじめます。全校生徒は速やかに授業の準備をしてください》
切り替え早っ!
ミユが教室に戻ると、恐ろしいくらいのシカト。
自分はミューじゃないなんて苦しい言い逃れをしたせいかもしれない。あのとき確実に全校生徒が敵に回ったような気がする。
先生はまだ来ていないようだ。
というか、担任は謎の奇病らしいので、きっと代わりの先生が来るか自習だろう、てゆか、奇病って情報もカメ・レオンの言っていたことなので真実とは限らないが。
しばらく待っていると教室の前のドアが開き、先生が入って――ミユは眼を剥いた。
「カメ・レオン!?」
教室に入ってきたのは倒されたハズのカメ・レオンだった。
「プリティミューこの教室があんたの墓場だ!」
カメ・レオンの言葉が合図となり、クラスメートが一瞬にして変身セットを脱ぎ捨て、オール戦闘員に変身した。
一瞬にしてミユは席を立って、机の上に乗った。
「もしかして罠?」
そうです罠です。
しかし、カメ・レオンは確かにマジカルメグの魔界植物にやられたハズじゃ?
「オレがどうして生きているのか不思議なようだな」
「まさか死んだフリ?」
「あれはオレのダミーだ。冥土のみやげに聞かせたやろう。オレは自らが変身名人なだけでなく、他人を特殊メイクによって変身させるの能力があるのだ。しかも、見た目ばかりでなく、能力まで再現できる」
「じゃあマジカルメグに倒されたのは?」
「哀れな戦闘員くんだ」
なんだか今回のジョーカーはマジだ。黒歴史にされたゲル大佐以外は。
ミユの乗った机はまるで海原に浮かぶ孤島。周りは飢えた戦闘員たちに囲まれてしまっている。
しかも、パンチラ!
慌ててミユはスカートを抑えた。前を両手で押さえ、後ろを両手で押さえ、結局は両手で舞えと後ろを押さえた。
戦闘員がジリジリ詰め寄ってくる。
まるで祭壇に祀られた生贄状態。
一斉に戦闘員が飛びかかってきた。
ミユはパンチラ覚悟で戦闘員の頭を踏み台にしてジャンプした。
飛び石に乗るようにピョンピョンピョンっと連続ジャンプだ。
教室の外に逃げようとするミユの背中にカメ・レオンが声をかけた。
「逃げても無駄だぞ。全校生徒はすべてジョーカーと入れ替わっているのだからな!」
ミユは構わず廊下に出た。
ゾロゾロと教室から出てくる生徒たち。変身セットを脱ぎ捨て戦闘員になった。
ミユは廊下を走りながらケータイを取り出した。
「サイエンスパワー・メイクアップ!」
瞬時にプリティミューに変身してハンマーで戦闘員の山をなぎ倒す。
なんか次から次へと沸いてくる戦闘員を見ていると、ゾンビ映画を思い出してしまう。
「数多すぎ!」
ミユは叫んだ。
全校生徒がすべて戦闘員に入れ替わっているとすると、もう計算するのもイヤなくらいの数だ。
後ろからも前からも、ミューは戦闘員に挟み撃ちにされてしまった。
ちょうど運悪く窓もない。
「マジカルカノン!」
どこからか聞こえた声に合わせて巨大な光線が廊下を突っ切った。
ミューは慌てて伏せたが、顔を上げてみると戦闘員たちがみんな気を失っていた。人間じゅうたんのできあがりだ。
ただひとりその中で立っていたのはマジカルメグだ!
「うかつだったわ。まさかこんな罠が……あっ、プリティミューいたの?」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)