科学少女プリティミュー
舌でぐるぐる巻きにされたメグ。これでは魔法も唱えることができない。
迷うミユ。
ここはやっぱり変身してメグを助けるべきなのだろうか?
それともばっくれる?
ミユは第三の選択肢を選んだ。
取り出すケータイ、ここで変身番号を打ち込めばプリティミューになれるが、それはやらずに普通に通話。
「あ、もしもしアイン?」
《ワトソンだにゃー》
き、気まずい。
「や、やっぱりなんでもない!」
ミユは焦って通話を切った。
まさかワトソン君が出るなんて、今朝のこと思い出しちゃったじゃないか。
ミユがそんなことしている間にも、マジカルメグは長い舌で締め付け上げられている。
「いやぁ〜っ、早く助けてくださぁ〜い」
涙をボロボロ流しながらマジカルメグは情けない声を出した。
クールなマジカルメグが見せる素。
……あれ、デジャブ?
こんな展開が前にあったような。前はたしか触手だった。
長い舌はさらにマジカルメグの身体を締め上げ、バストがかなり強調された。
やっぱりデジャブだ!
前はミューがマジカルメグの杖を投げ渡して、それで万事解決したような気がする。
マジカルメグの杖は?
ミユは辺りを見回した。
「あった!」
ミユは床に落ちた杖に手を……しまった誰かに先を越された。
その杖を拾ったのは全身タイツの戦闘員だった。
気づけば部屋中ジョーカーの戦闘員。
焦るミユ。
こうなったらやっぱりアレしかない!
「恨むならジョーカーを恨んで!」
ミユは窓の外に飛び降りた。つまり逃走。
すでに学園はジョーカーに占拠されていた。
下駄箱、職員玄関などは封鎖され、生徒たちは校舎に閉じこめられている。
正門なども封鎖され、学園の外に出ることもできない。
しかも、あの場から逃げたミユだったが、すでに戦闘員にたちに囲まれていた。
戦闘員程度なら生身でも……。
ミユは熱い視線に気づいてしまった。
生徒たちが窓から顔を覗かせていではありませんか!
全校生徒の目がミユに注目。
生徒の中からこんな声が聞こえた。
「がんばってプリティーミ……」
そこまで言いかけて生徒は口を押さえた。
ミユはハッとした。
まさか気を遣われている?
もしかして全校生徒に正体がバレている?
それで気を遣って知らんぷりされていたの?
この頃、男子生徒に人気が急上昇だったのもそのせい?
「そんな……」
ミユはorzポーズで落ち込んだ。
バレないほうがおかしいさ、でもさ……気を遣ってもらってたなんて、ショックだ。
でもこうなったら肩の荷が下りた。
ミユはケータイを構えた。
「サイエンスパワー・メイクアップ!」
科学少女プリティミュー参上!
生徒たちの歓声があがった。
「がんばれプリティミュー!」
「応援してるぞプリティミュー!」
「みんなミユの味方だよ!」
最後は本名を言われた。
もういいさ、正体なんてさ。
戦闘員たちが束になって襲ってくる。
ミューは破れかぶれで戦った。
パンチ、キック、パンチラ!
男子生徒の歓声があがった。
なんか写メまで撮られている。
戦闘員の山が築かれた。
汗を拭うミユ。
「ふぅ、とりあえず一段落。次は人質の解放か、それとも見殺しにしたマジカルメグはどうなったのかなぁ……あはは」
今になって思えばあの場から逃げる必要もなかった。だって正体だってみんなにバレてるわけだし、さっさと変身しちゃえばよかったじゃないか。
きっと見殺しにされたメグは怒ってだろうなぁ。
ミユがため息を漏らしていると、下駄箱から戦闘員を引き連れたカメ・レオンが出てきた。マジカルメグはロープで縛られて気絶している。
ひとまずマジカルメグの安否を確認してミユは一安心。
「死んでたら祟られるとこだったかも。とにかく……マジカルメグと人質全員を解放しなさい!」
強気にミユは挑んだ。
「人質は解放しない。あんたを倒したあとにも有効活用させてもらうんでね」
カメ・レオンは嫌みたらしく笑った。
今回のジョーカーはマジだ。大規模作戦による学校乗っ取り。ミューを倒すだけではなく、もっと大きな悪巧みがあるのか!?
これだけ多くの人質がいれば、いくらでも活用法はあるだろう。
身代金だってふんだくれるだろうし、政府に交渉だってできるだろう。
どんなことを企んでいるかはわからない。だが、それを今食い止められるのはミューだけ!
「こうなたら親玉を倒す!」
ミューはカメ・レオンに向かって走った。
立ちふさがる戦闘員たちをなぎ倒し、構えたマジカルハンマーを!
「きゃっ!」
ミューの手首が長い舌に掴まった!
そのままミューが敵の手に落ちてしまった。
長い舌でぐるぐる巻きにされた挙げ句、マジカルメグと同じようにロープで縛られてしまった。
敵の手に落ちた二人のヒロイン。誰も助けに来てくれないのか……。
ついにプリティミューも最終回になってしまうのかっ!?
一方そのころ、ネオアキバタウンのどっかにあるアインの研究所。
「龍玉ぜんぜん見終わらないや。まだ細胞編も終わらないよ」
アインは背伸びしながら自室を出てきた。
リビングを通りかかったとき、アインの瞳にぼーっとしているワトソン君が映った。
「ワトソン君、魂が80パーセントほど離脱しているようだけど、なにかあったのかい?」
「にゃっ!?」
ワトソン君は我に返って驚いた。そこにアインがいたことすらも気づいていなかったようだ。
急にワトソン君は顔を真っ赤にして走り出した。
「なんでもないにゃー!」
その反応のどこを見れば何もない?
ありすぎ。
アインは首を傾げてキッチンに向かった。
捕らえられたダブルヒロイン。
今日は助けに来てくれる者も現れないだろう。
だってフンドシ仮面(誤字)は諸事情により使い物にならない。そんなことなど知らない二人だが、最初からフンドシ仮面になんか期待にしてない。てゆか、頭にも浮かんでなかった。
「あたしたちをどうするつもりなの!」
ミューが叫んだ。
続けてメグも静かに口を開く。
「すぐに殺さないと言うことは、なにか理由があるのでしょう?」
たしかに捕らえた理由がどこにあるハズだ。
カメ・レオンは何も答えなかった。
ここは校庭のど真ん中。こんな場所になぜ?
まるでカメ・レオンは何を待っているようだった。
しばらくして戦闘員たちが次々と空を見上げた。ミューとマジカルメグも揃って空を見た。
空の彼方から飛んでくるヘリ。しかも武装している。
ヘリが上空から降りてくる。突風で校庭の砂が巻き上がり、ミューは思わず目をつぶった。
ついにヘリが地上に降り立った。
ハッチが開き、看護帽を被ったピンク戦闘員が降りてくる。
続いてベッドが運ばれてきた。しかも点滴まで。
ベッドに横たわるゲッソリした女。
戦闘員たちが息を揃えて敬礼。
「キーッ!」
戦闘員たちのこの反応。しかもピリピリした緊張感。ヘリから降りてきた者がただ者じゃないことがわかる。
カメ・レオンはベッドの傍らに立ち、深々とお辞儀をした。
「これはこれはゲル大佐。わざわざのお越しありがとうございます」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)