科学少女プリティミュー
そんなことを企ててドーンされたら一巻の終わりだ。
ならジョーカーを壊滅させればいいのではないだろうか?
どっかの誰かさんにドーンされる心配はなくならないが、少なくとも私生活や家族が危険に晒されることはなくなるような気がする。
そうだ、それだ、それしかない!
「なんで今まで気づかなかったんだろ!」
大声を上げたミユにクラスメートの視線が集中した。が、すぐに視線を逸らされた。
ミユは再び寝たフリを決め込んだ。大声をあげて恥ずかしいったらありゃしない。
しばらくして教室のドアが開く音がした。きっと担任が入って来たのだろう。ミユは気にもせず机で寝たフリを続けていた。
なんだか教室がざわめいていた。
いったい何があったんだろう?
ミユがゆっくりと顔を上げると、教壇に立つ謎の外国人?
ライオンみたいな髪型の男だ。顔立ちはまるでハリウッド俳優のようである。
「臨時担任のレオンです。田中先生は謎の奇病USO800型ウイルスにかかって、帝都病院の特別病棟に入院されました」
流暢な日本語だった。
女子生徒の熱い眼差し。男子生徒は嫉妬の眼差し。ミユの眼差しは机に向かっていた。
なんかもうどーでもよかったので(主に人生全般が)、ミユは再び寝たフリをすることにした。
すると教壇に立っていたレオンがこっちに近づいてきた。
「ミユさん、まだお昼寝にも早い時間ですよ」
名指しで注意されては起きないわけにはいかない。
嫌そうな顔をしながらミユは顔を上げた。
別に怒ったようすでもなく、さわやかなレオンが立っていた。
「おはようございますミユさん」
別にミユはあいさつを返すことはしなかった。レオンはすぐに背を向けて教壇に戻っていく。
ここでミユはハッとした。
名前を呼ばれたことに気づいたのだ。
――まさかクラスメートの名前を全部覚えてる!?
ミユは単純にそう思った。
だが、教壇に帰るレオンは人知れず不気味な笑みを浮かべていたのだった。
朝のホームルームが終わり、最後にレオンはこう付け加えた。
「ミユさん、大事な話がありますので、昼休みに会議室に来てください」
「えっ……」
なにかマズイことでもしただろうか?
レオンはそれ以上は何も言わず行ってしまった。
マズイことがミユの頭にリストアップされる。
主にプリティミュー関連。ほとんどそれから派生している。
学校内での器物破損事件とかが一番とがめられるかもしれない。いちよう全部弁償しているが、ポケットマネーで。
「もしも退学……」
ミユは頭を抱えて寝たフリじゃくて寝ることにした。
現実逃避。
午前の授業が終わった。今日はとても長かったような気がする。
重たい足を引きずりながらミユは廊下を歩いた。
職員室の近くにある会議室に入ると、窓の外を眺めていたレオンが振り返った。
「お待ちしていました、どうぞそこにお掛けください」
「……はい」
ミユを座らせ、自らは座らずにレオンは部屋を歩き、出入り口の前に立つと鍵を閉めた。
大事な話があるというのなら、鍵を掛けるのは当然かもしれない。
しかし、レオンの鋭い眼。
ミユはハッとした。
「女子生徒を教室に閉じこめて性的暴行をするつもりね!」
「……はっ?」
ハズレたみたいだ。
「……ジョーダンですよ、あはは。で、大事な話があるんじゃないんですか?」
本気だったが、冗談で水に流した。
「そうです大事な話があります……プリティミューに」
「えっ!?」
慌てるなミユ!
「プリティミューってなんですかぁ?」
すっとぼけてみた。
しかし、そんなことも無駄に終わった。
「あなたがジョーカーに仇を成すプリティミューだということは調べがついてるぜ」
明らかに変わったレオンの口調。
ミユは動揺した。相手が何者なのかもわかってしまった。
「まさか……プリティミューのファン!?」
「違うわボケッ!」
「じゃあストーカー!?」
「本気で言ってるのかあんた。オレの正体はジョーカーの変身名人怪人カメ・レオンだ」
「ああ、やっぱりジョーカーか」
わかっていたが認めたくなかった。
ついにジョーカー学校進出。こうやって土足で人様の私生活に踏み込んでくるのだ。
どうするミユ!?
ここで変身するのは非常にマズイ。もしも誰かに見られたら?
ミユは変身前と変身後の仕様変更は衣装しかない。
こうなったら逃げるしかない。
出口は鍵が掛かってレオンが立っているから、やっぱり窓だろう。窓から飛び降りるところを生徒とかに見られても、すでにそのネタは今朝やっているのでまた奇跡で片づければいい。
背を向けてミユは窓から飛び出そうとした。その背中に声が掛けられた。
「逃げても無駄だぞ、すでにこの学園は包囲されている」
「そんな!」
ミユは窓枠に足をかけたままストップした。
包囲されているということは、ミユが外に出られないだけではなく、学校関係者全員が人質ってことなのか!?
すごい……なんだか今回のジョーカーはひと味違う。
なんだかマジだ!
やはりここで変身するしか……。
そのとき、窓の外から飛び込んできた人影にミユが膝蹴りされてぶっ飛んだ。
「ブハーッ!」
まさか敵の攻撃か!?
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、悪を倒せと私を呼ぶ……」
その決めゼリフはまさか!!
「私は正義の魔女っ娘、天に代わってお仕置きよ!」
紅髪のセクシー美女――魔導少女マジカルメグ登場!
三角帽子のツバをクイっと直しながらマジカルメグは床で伸びているミユを見下した。
「そんなところで寝ていないで立ちなさいミュー」
誰が蹴ったんだよ誰が。
……って、今たしかにそう呼んだような?
再びマジカルメグはその名を呼んだ。
「早く立ちなさいプリティミュー。あなたも変身ヒロインの端くれでしょう」
今度は聞き間違いじゃない!
ミユは驚いてビシッと立ち上がった。
「どうしてあなたまで!?」
「変身前と後の顔が同じなんだから誰でも気づくでしょう」
「……ショック!」
そこを突っ込まれたら言い返せない。ローカルテレビ局、インターネット上、見事なまでにプリティミューの画像が晒されている。
それでもそれでも広い世の中、ネットなんて全世界だ。そこでちょっぴり話題になってるローカルヒロインのことなんて、身内や学校くらいなら知られずに済むかなぁって。
落ち着けミユ。
「大丈夫、大丈夫あたし」
マジカルメグはいわば同業者、ミューの正体くらいの簡単に調べるかもしれない。だってジョーカーにもバレてるしね!
大丈夫、きっと身内とかにはバレていない!
レオンが真の正体を現した。
カメレオンにライオンのたてがみを生やしたカメ・レオン!
「マジカルメグまで現れるとはな。いいだろう、二人まとめて地獄に送ってやるぜ!」
ライオンの爪で襲いかかってくるカメ・レオン!
マジカルメグがマジカルスタッフを構えた。
「マジカルシュート!」
放たれた光の弾。
だが、カメ・レオンの姿が消えた。
次の瞬間、長い舌がバネのように伸び、マジカルメグを捕らえてしまった。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)