科学少女プリティミュー
「ジョーカー怪人は手広く募集しててね、ネットの裏サイトとか、大学のサークルだったり、スカウトマンがホウジュ区あたりでスカウトしたり」
「悪質な新興宗教みたいに、いつの間にか入団させられちゃったりじゃないの?」
「前にさ帝都警察が押収した証拠物件を見たんだけど、法的な手続きを踏んで契約書とか作成してるみたいだね」
「そ、そうなの?」
あれ、なんか話が違ってきたような……。
ここでもう1度、ミユは冷静になって考えてみた。
マンティスシザーの話(ミユの解釈)では、無理やり変態に改造されて、変態になるべく洗脳され、華麗なる変態に生まれ変わると聞いた。
アインの話(ミユの解釈)では、自ら進んでド変態に改造され、根っからの変態が、さらに変態になるべく日々精進。
どちらが言っていることが間違っているのか?
むしろ根本から?ミユ?の考えが間違っているのか?
マンティスシザーがミユママに近づいたのは偶然だったのか?
やっぱり、もしかして……イケメン怪人不倫大作戦!?
どんどんミユは不安になってきた。
あの心に訴えかけてきたマンティスシザーの言葉も、全部ウソ?
見事にミユは騙されちゃった?
ミユママはケータイを持っていないので、ミユは自宅に電話をかけた。
トゥルルルルル……発信音が聞こえるだけで、いくらコールしても誰も電話にでんわ!
「家に電話かけても誰もでない。パパは残業かもしれないけど、弟だって家にいるはずなのに……」
不安だ!
さらにミユを不安にさせる要素を持ってワトソン君がやってきた。
「ミユのママを監視していたロボットの反応が消失したにゃ!」
はい、ピンチですね。
とてもとてもピンチでございますね。
「早く帰らなきゃ!」
ミユは急いで自宅に向かおうとした。
「待ちたまえバイト君!」
アインが引き止めた。
「待てない、早くママを助けなきゃ!」
「交通機関を使って帰ると時間がかかるよ。ボクが宅配ピザよりも早く届けてあげるよ。というわけだから、いざ出動!」
アインがリモコンのスイッチを押すと、ミユの足元に落とし穴が開いた。
「きゃっ!?」
悲鳴と一緒にミユは闇の中に落ちた。
この展開ってたしか……第1話と同じだ!
ミユはチューブ状の滑り台を降り、ストンと着地したと思ったら、身体をシートベルトでグルグル巻きにされて発射準備完了。
秒読み、5秒前、4、3、2、1――ゼロ!
なんか今回はビルの配管を通って屋上の砲台から発射された。
人間ロケット発射!
びゅ〜ん!
もうすっかり日も暮れて、ミユは夜空の星になりましたとさ。
願い事はミユが地面に激突するまでに3回唱えるんだよ♪
科学少女プリティミューが人気になりますように!
科学少女プリティミューが人気になりますように!
科学少女プリティミューが人気になりますように!
――余裕で3回願い事を唱えてからミユは着地した。
実際は着地というか着屋根。
隕石が落ちてきたみたいに、ミユは屋根をぶち破って着地した。
しかも、自分んちじゃなくて隣んち!
「アッツーッ!」
ミユは熱々のナベに浸かっていた顔をあげた。口にはチクワをくわえている。
箸を持ちながら固まっている住人たち。
どうやら食卓に突っ込んでしまったらしい。
ミユは苦笑いを浮かべて逃げた。
「おでん美味しかったです、さようならぁ!」
チクワを美味しくいただきました。
急いで自宅に駆け込むと、幻想が見えた。
バラ色が見えるような気がする幻想。
なんだかよくわからない空気感に家中が汚染されていた。
リビングで二人を発見。男と女の距離がゼロだ。
ソファに寄り添って座り、指を絡めて見詰め合う二人。
ミユママとマンティスシザーは見詰め合っているだけ、もう二人の間に言葉なんて不必要だった。
かなりの高みまで到達している様子だ。
ミユの飛び蹴り炸裂。
「ママのことたぶらかしてんじゃないわよ!」
マンティスシザーはひらりと避けた。
一撃必殺で仕留められなかったことで状況は悪化してしまった。
ミユママがマンティスシザーに抱きつき、全身で守ってしまったのだ。
「なんてことするの、ミユをそんな子に育てた覚えありません!」
「覚えてなくても、育てたのはママでしょ!」
「あなたなんてもうわたしの子じゃないわ!」
「……重症だ」
まさか母親に離縁されるなんて、ここの父親が帰ってきたら泥沼だ。
ミユはあることを思い出した。
「そうだ、ユウはどうしたの?」
ユウとはミユの3つ離れた弟である。
「ユウだったらとっくに家を出て行ったわ。バカとかアホとか叫んでたような気がするわね」
ミユもその言葉を母親に言ってやりたかった。
マンティスシザーがミユの前に立った。
「私たち結婚することにしました。私たちの愛は誰にも邪魔させません!」
「ハァ?」
ミユの思考回路は正常に動作しなかった。
あまりにも話が進みすぎている。
ミユママがある1枚の用紙をミユに見せた。
「もうわたしの名前は書いたわ」
それは離婚届だった。あとはミユパパの同意があれば即離婚だ。
ミユは離婚用紙を奪って破り捨てた。
すると、ミユママはまた離婚用紙を出した。
「破ってもムダよ、いっぱい書いたもの」
離婚用紙の束をミユママはドスンと床に落とした。
それを全部燃やしてやろうとミユは思ったが、そんなことをしても根本的な解決にならない。
「ママ、お願いだから考え直して!」
「それは無理よ……だってわたしたち愛し合っているんだものぉ〜!」
指を絡めてミユママとマンティスシザーは見詰め合った。
「私も愛しています、ママさん」
キラキラエフェクトの幻想が見える。
やっぱりこうなったら根本を抹殺するしかない。マンティスシザーを倒せばミユママの甘い夢も覚めるハズだ。
ミユパーンチ!
ミユキーック!
ミユアッパー!
全部ひらりゆらりとかわされた。
マンティスシザーは避けるだけで戦う意思を見せない。
「どうして私たちが戦わなくてはいけないのですか……もう家族じゃないですか!」
「家族じゃないし!」
強烈なミユのパンチが決まった!
頬を殴られたマンティスシザーが床に尻をつく。
すぐにミユママがマンティスシザーを抱きかかえて守った。
「なんてことするの!」
「大丈夫ですママさん。ミユさんが私を殴ったのは、私を父と認めて本気でぶつかって来てくれた証拠です」
そんなプラス思考を見習いたいですね!
マンティスシザーは頬を押さえながら立ち上がった。
「しかし、その力を私に向けず、どうして世界平和のために使わないのですか。そう、偉大なるジョーカーのために使わないのですか!」
あれ?
ジョーカーのため?
ジョーカーを滅ぼすため?
ジョーカーに協力するため?
なんかどっちにも取れるような言い方をしたが……偉大なる?
あれれ?
ミユは首を傾げた。
「あなたジョーカーに恨みがあるって言ってなかった?」
「そんなこと言いましたか? ジョーカーはとても素晴らしい組織ですよ。あなたの力はジョーカーに捧げるべきです。そして、共に世界を愛で包みましょう!」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)