科学少女プリティミュー
瞳をキラめかせるミユママと、それを受け入れるマンティスシザー。
そのまま二人の顔が近づき……。
「ちょっと待ったぁ!」
ミユが二人の顔を引き離した。
展開になんだかバラの花びらが舞っている。どう考えてもアブナイ展開だ。
ここでミユはハッと気づいて、マンティスシザーから守るように母親の体を抱いた。
「あんたジョーカーの怪人ね!」
そうだ、これはミユの脳内シミュレーションと同じだ。
ジョーカーのイケメン怪人が母親を誘惑して、昼ドラ風に家庭崩壊、登場人物の精神錯乱を企んでいるに違いない!
母親の得意料理がたわしコロッケになってしまう!!
マンティスシザーはうつむいて、なにも言わずじっとしていた。そこにミユが追い討ちをかける。
「ジョーカーだから何も言えないんでしょ!」
「……そうです、私はジョーカーの改造怪人です」
ついに認めた!
やっぱり母親を堕落させる気だったんだ!
ミユはさらにマンティスシザーを責め立てる。
「ママ、ジョーカーっていうのは悪の組織なんだよ。こいつはその一員なんだよ、悪いヤツなんだよ!」
バシーン!
ミユの頬が強く叩かれた。叩いたのはミユママだった。
「どうして叩くの!」
頬を押さえて声を上げたミユをミユママはじっと見つめていた。
「ママはジョーカーのことはよく知らないわ。でも、マンティスさんのことは信じてる。この人はとても心の優しい人よ」
「ママは騙されてるのよ!」
再びケンカがはじまりそうだった。
そのとき、マンティスシザーが叫んだ。
「やめてください!」
そして、すぐに声を沈めて話はじめた。
「私はジョーカーの怪人です。そして、ジョーカーは悪の組織です……でも信じてください! 私はジョーカーを憎んでいます」
声を震わせ、怒りと哀しみを込め、マンティスシザーは肩を落とした。
ミユはまだマンティスシザーを信用したわけじゃない。けれど、なにか心に響くものがあった。
そして、ジョーカーを憎んでいるとはいったい?
ミユと母親はマンティスシザーの話に耳を傾けた。
「ジョーカーの怪人はもともとみな人間です。ジョーカーは優れた才能を持つ人間を捕まえ、怪人に改造し、洗脳してジョーカーへの忠誠を誓わせるのです。私はどういうわけか洗脳が利きませんでしたが、それでも恐怖心からジョーカーに逆らうことができません。でも、私は……こんな体にしたジョーカーを憎んでいるのです!」
そう言いながらハサミの手を胸の前に掲げた。
今まで戦ってきた怪人……蜘蛛男、蝙蝠伯爵、レイディスコーピオン、サラセニアぁン、みんなジョーカーの被害者だった。そう考えるとミユは胸が痛くなった。
母親はハサミの手を握った。
「たとえどんな姿をしていようと、わたしはあなたの傍にいるわ!」
トキメキ炸裂!
「……ママさん」
呟き、マンティスシザーはミユママを見つめた。
再び見詰め合う男と女。
母親のハートはファイアーしていた。
「ジョーカーだかなんだか知らないけど、あなたのことはわたしの命に代えても守るわ。だからここにいて、この家は出て行かないで!」
「それはできません……私がいたらみなさんに迷惑をかけてしまう!」
「いいよ、あなたはここにいて……」
な、なんですかこの展開!?
プリティミューらしくありませんよ!!
普段なら、ここで強烈なツッコミが入ったりするのだが、ツッコミすら飛んでこない。
第3者のミユはさっきから厳しい顔をして黙り込んでしまっている。
ミユが急に台所を出て行った。
そんなことにも気づかないほど、ミユママとマンティスシザーは見詰め合ってます!
ミユはネオ・アキバタウンに来ていた。
ここに来る理由はアインに会うほかなかった。
なのに関係ない人にバッタリ出会う。
「センパ〜イ!」
駆け寄ってきたのはメグ。
「また会いましたね」
なんて声を掛けてきたメグを完全シカトでミユは先を急いだ。
研究所&自宅のドアをワトソン君に開けてもらい、ミユはアインの姿を探した。
アインはまだ部屋の奥から出てこないのだと、ワトソン君が困ったようすでミユに伝えた。
ミユはアインの部屋の前に立った。ドアには『使用中』のプレートが飾ってある。
「アイン、ここ開けて!」
ドアをドンドン叩くミユ。
どこからかアインの声がした。
「バイト君の出力と硬度じゃ壊せないないよ。この地下全体はかの有名な合成金属でできているんだ」
有名な金属ってなんだーっ!?
ミユはドアを殴る蹴るした。
「さっさと出てきなさいよ、話があるんだから!」
「うるさいなぁ、ボクならここにいるよ」
「えっ?」
振り向くとアインが立っていた。
どうやらアインは部屋の外にいたらしい。
「ボクになんの用だい?」
「もう……怒ってないの?」
「ボクが怒ってるって、どうして?」
「だって、ずっと部屋にこもってたってワトソン君が……」
「ああ、部屋にこもってたのは『龍玉』のDVDボックスを観てたからだよ。やっと『冷凍編』まで見終わって、一息ついていたところさ」
「……へぇーそうですかー」
なんだか、自分もちょっと悪かったかもぁ――なんて反省した自分がバカだったとミユは思った。
「他に話がないならボクはまた龍玉の続きを見るから」
自室に入ろうとしたアインの服をミユが掴んだ。
「待って、聞きたい事があるの」
シリアス路線満開なミユの瞳に見つめられ、アインも神妙な顔つきになった。
「なんだい?」
「ジョーカーのこと」
「ジョーカーのこと?」
「あたし、ずっとジョーカーと戦ってきたのに、ジョーカーのことよく知らなかった」
ミユは自分の見てきたこと以外、ジョーカーのことを知らなかった。
人々に危害を加えようとしていることは確かだ。そこだけを見たらジョーカーは悪だ。
でも、ミユが今まで見てきたモノは……。
横○ん男、ロリコンジジイ、SM嬢、オカマ……。
急にミユの顔色が曇った。
「やっぱりただの悪かも」
えっ、自己完結しちゃった?
ミユは頭を激しく振って考えを捨てた。
「違うの、ジョーカーの怪人はみんな……無理やり改造されて洗脳されてるって聴いたの!」
もし本当にそうだったら……。
「あたし……もう戦えないかもしれない」
「ふ〜ん」
と、アインは素っ気無く鼻を鳴らした。
デリカシーゼロっていうか、ミユの話ちゃんと聴いてましたか? みたいな。
アインの態度でミユの感情はジャンジャングルグルした。
そりゃもうジャンジャングルグルした。
怒り、哀しみ、虚無感。
無言で立ち去ろうとしたミユの背中にアインが声をかける。
「無理やり改造とか洗脳とかどこで聞いたの? ジョーカーの怪人はみんな志願者だよ。戦闘員は時給のバイトらしいけどね」
「え?」
戦闘員ってバイトだったのか!!
さっきアインが『ふ〜ん』と鼻を鳴らしたのは、ミユが戦えないと言ったことにたいしてじゃなくて、無理やり改造なんてウソだよそれ、って意味の『ふ〜ん』だったのだ。
きょと〜んっとしてるミユにアインは話を続けた。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)