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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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科学少女プリティミュー

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「あーっまたボクのフィギュアがぁっ!」
 アインは頭を抱えてうずくまった。
 ワトソン君がこんな発言をする。
「今日のミユは可笑しいにゃー。まさか偽者にゃ!?」
 またかーっ!
 またそういう展開ですか!
 ある意味まさかの展開ですね!
 反則ワザな展開ですね!!
 が、ミユはこう反論した。
「ハァ? あたしのどこが偽者なの? 日曜日に呼び出された挙句、行ってみたらアンタらいなくて、引っ越したなら先に言えよバカ! だから怒ってるんの!!」
 アインは納得したように頷いた。
「ふむ、怒る動機としては筋が通っているように感じるね。ここまで怒り狂うほどじゃないと思うけどなぁ」
「今回のことだけじゃないの、今まで溜め込んできた物があんのよ!」
 身体に埋め込まれた爆弾ひとつで、かなり人権無視をされてきた。それと、馬鹿力を手に入れてしまったために、学校でトラブルばかり起こしてしまって友達減少中。
 いろんなストレスが溜まりに堪って、ついに大爆発を起こしたのだ。
 だが、まだ本物のミユだと決まったわけじゃない。
 アインは起爆スイッチに手をかけた。
「本物かどうかを調べるには、これを押して見るのがいいね」
「ここで押したらアインのフィギュアもただじゃ済まないにゃー」
 ワトソン君のバッドツッコミ。
 ツッコミを入れるところは、フィギュアだけじゃないと思う。
 アインはため息をついた。
「バイト君がそこまで思いつめていたとはね、早く気づいてあげるべきだった」
 しんみりそう語るアイン。
 過去のアインの態度からは想像できない変化。そんなギャップに、ミユはちょっぴり感動さえしてしまった。
「アイン……わかってくれればそれでいいの」
「わかったよ、キミの気持ち。コレをあげるから機嫌を直したまえ」
 コレと差し出されたのは美少女フィギュア。
「こんなのいるか!」
 ミユはフィギュアを床に叩き落した。
「あーっボクのフィギュアぁぁぁ!」
 首が飛んだフィギュアをアインは抱きかかえ、メガネの奥にいっぱいの涙をため、怒りのこもった瞳でミユを見上げた。
 なにも言わず、アインは壊れたフィギュアを抱きかかえ、部屋を静かに立ち去った。
 あーぁ、アイン君スネちゃったよぉ。
 ――アインは戻って来なかった。
 その間にミユの怒りはすっかり冷め、ちょっと悪いことしちゃったかなぁ、と思いはじめていた。
 床に落ちたフィギュアを棚に片付けるミユ。
 棚にはシールが貼ってあった。フィギュアの立ち位置を示すシールだ。几帳面というか、こだわりが怖すぎる。
 ミユは片づけを続けながらワトソン君に尋ねた。
「ねえワトソン君、どうして急に引越したの?」
「ジョーカーにあの場所がバレたらしいにゃ。ミユがプリティミューだってこともバレてるにゃー」
「は?」
 そーゆーことは質問される前に言いましょうよ。
 引越しの話をしなかったら、ずっと黙ってる気だったんですか?
 聞かれなかったから、答えませんでしたなんて言い訳通用しませんよ?
「早く言ってよ!!」
 ミユは激怒した。
「ごめんにゃー、引越し作業で忙しかったにゃー」
「ケータイにメール打つくらいできたでしょ!」
「最近ミユ怒りっぽいにゃー」
 怒って当然だ。
 正体がバレているということは、学校にジョーカー怪人が教師として赴任してくるとか、宅配便を装って自宅に来るとか、家族にだって危険が及んでるじゃないか。
 ジョーカー怪人のイケメンが母親を誘惑して、不倫の果てに家庭崩壊だってありえるじゃないか!
 ミユは頭を抱えた。
 想像すれば想像するほど、かなりピンチだ。
 でもね……このピンチにミユはもっと早く気づけたハズだった。
 ジョーカーにアインの自宅がバレと思われる要因は、あの偽者ミユ騒ぎが発端だ。
 あの変態オヤジはミユに変装していた。つまりミユの存在を知ってるいる可能性は、限りなく100パーセントに近い。
 けど、ミユは今でもあの変態オヤジが自分にそっくりだと認めていない。
 こうしちゃいられない!
 ミユは一刻も早く家に帰ろうとした。
「あたし帰る」
「急にどうしたにゃ?」
「急にじゃないし、ジョーカー怪人があたしの家族を襲うかもしれないじゃない!」
「それなら平気だにゃ。ミユの家族には24時間監視がついてるにゃ」
「は?」
 そんな話聞いておりませんが?
 またアレですか、質問されなきゃ答えませんってヤツですか?
 人間不信に陥る寸前だ。
 ミユの心配は治まらず、やっぱり家族の元へ駆けつけることにした。

 ミユは玄関のドアを開けて自宅に飛び込んだ。
 まだまだ夕飯の時間でもないのに、台所から匂ってくるクリーミーな匂い。
 台所に駆け込んだミユは唖然とした。
「ハァ?」
 と、思わず口から漏れるくらいだ。
 台所に立っている母親。そこまではオッケーだ。
 ……そこにいる人だれですか?
 なんと、食卓にはあのハサミ男がいたのだ。
 はい、意味不明ですね!
「おかえりなさいミユ」
 柔らかな笑顔で母親はミユを見つめ、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。微笑ましい食卓の風景……じゃねぇよ!!
 だからなんでハサミ男がいるんだよ!!
 ミユはハサミ男を指差した。
「その人なに?」
 ハサミ男が自ら答えました。
「はじめましてミユさん、私の名前はマンティスシザーです」
 ミユは遠目から見たからはじめてじゃないし。てゆか、なんでミユの名前まで知ってるの!?
 ええ、もちろんそれはミユママが話したからですよ。
「マンティスさんと町で出会って、髪を切ってもらったお礼に、夕食でもごちそうしようと思って来てもらったのよぁ〜」
 そういう馴れ初めでミユママとマンティスシザーは出逢ったらしいですよ。
 ミユは理解できなかった。
「そんな凶器を持った変種者をどうして家にあげるわけ!」
 ハサミは体の一部なので、存在自体が銃刀法違反です。
 ミユママは少し怒ったような顔をした。
「どうしてそんなことを言うの? 人は見た目で判断しちゃいけません。マンティスさんはとても心の優しい人のなのよ。今も生き別れになった上司を探して旅をして苦労しているのよ、食事くらいご馳走してなにが悪いの?」
 上司を探して旅って……普通、兄弟とか両親でしょそこは。
「ママはちょっとお人よしなのよ。こんなのハサミ持ってる変態でしょ!」
「わたしにだって人を見る目くらいあるわよ。ジョニー・デップに似ているマンティスさんが悪い人のハズないわ!」
「ママ、イケメン大好きだもんね。パパのことだって顔で選んだんでしょ!」
「失礼なこと言わないでよ、パパとは大恋愛の末に駆け落ちして結婚したのよ!」
 思春期の娘と母親の戦いは、まさに女と女のぶつかり合い!
 このまま放って置いたら、ケンカはドンドン加速して行きそうだった。
 そこへブレーキをかけたのはマンティスシザーだった。
「あの〜、私がいるとお二人がケンカをしてしまうようなので、また旅に出ようと思います」
 マンティシザーは立ち去ろうとした。
 だが、その腕を掴んで引き止めるミユママ。
「行かないでマンティスさん、あなたはなにも悪くないわ!」
 近距離で見詰め合う男と女。