科学少女プリティミュー
「あーっまたボクのフィギュアがぁっ!」
アインは頭を抱えてうずくまった。
ワトソン君がこんな発言をする。
「今日のミユは可笑しいにゃー。まさか偽者にゃ!?」
またかーっ!
またそういう展開ですか!
ある意味まさかの展開ですね!
反則ワザな展開ですね!!
が、ミユはこう反論した。
「ハァ? あたしのどこが偽者なの? 日曜日に呼び出された挙句、行ってみたらアンタらいなくて、引っ越したなら先に言えよバカ! だから怒ってるんの!!」
アインは納得したように頷いた。
「ふむ、怒る動機としては筋が通っているように感じるね。ここまで怒り狂うほどじゃないと思うけどなぁ」
「今回のことだけじゃないの、今まで溜め込んできた物があんのよ!」
身体に埋め込まれた爆弾ひとつで、かなり人権無視をされてきた。それと、馬鹿力を手に入れてしまったために、学校でトラブルばかり起こしてしまって友達減少中。
いろんなストレスが溜まりに堪って、ついに大爆発を起こしたのだ。
だが、まだ本物のミユだと決まったわけじゃない。
アインは起爆スイッチに手をかけた。
「本物かどうかを調べるには、これを押して見るのがいいね」
「ここで押したらアインのフィギュアもただじゃ済まないにゃー」
ワトソン君のバッドツッコミ。
ツッコミを入れるところは、フィギュアだけじゃないと思う。
アインはため息をついた。
「バイト君がそこまで思いつめていたとはね、早く気づいてあげるべきだった」
しんみりそう語るアイン。
過去のアインの態度からは想像できない変化。そんなギャップに、ミユはちょっぴり感動さえしてしまった。
「アイン……わかってくれればそれでいいの」
「わかったよ、キミの気持ち。コレをあげるから機嫌を直したまえ」
コレと差し出されたのは美少女フィギュア。
「こんなのいるか!」
ミユはフィギュアを床に叩き落した。
「あーっボクのフィギュアぁぁぁ!」
首が飛んだフィギュアをアインは抱きかかえ、メガネの奥にいっぱいの涙をため、怒りのこもった瞳でミユを見上げた。
なにも言わず、アインは壊れたフィギュアを抱きかかえ、部屋を静かに立ち去った。
あーぁ、アイン君スネちゃったよぉ。
――アインは戻って来なかった。
その間にミユの怒りはすっかり冷め、ちょっと悪いことしちゃったかなぁ、と思いはじめていた。
床に落ちたフィギュアを棚に片付けるミユ。
棚にはシールが貼ってあった。フィギュアの立ち位置を示すシールだ。几帳面というか、こだわりが怖すぎる。
ミユは片づけを続けながらワトソン君に尋ねた。
「ねえワトソン君、どうして急に引越したの?」
「ジョーカーにあの場所がバレたらしいにゃ。ミユがプリティミューだってこともバレてるにゃー」
「は?」
そーゆーことは質問される前に言いましょうよ。
引越しの話をしなかったら、ずっと黙ってる気だったんですか?
聞かれなかったから、答えませんでしたなんて言い訳通用しませんよ?
「早く言ってよ!!」
ミユは激怒した。
「ごめんにゃー、引越し作業で忙しかったにゃー」
「ケータイにメール打つくらいできたでしょ!」
「最近ミユ怒りっぽいにゃー」
怒って当然だ。
正体がバレているということは、学校にジョーカー怪人が教師として赴任してくるとか、宅配便を装って自宅に来るとか、家族にだって危険が及んでるじゃないか。
ジョーカー怪人のイケメンが母親を誘惑して、不倫の果てに家庭崩壊だってありえるじゃないか!
ミユは頭を抱えた。
想像すれば想像するほど、かなりピンチだ。
でもね……このピンチにミユはもっと早く気づけたハズだった。
ジョーカーにアインの自宅がバレと思われる要因は、あの偽者ミユ騒ぎが発端だ。
あの変態オヤジはミユに変装していた。つまりミユの存在を知ってるいる可能性は、限りなく100パーセントに近い。
けど、ミユは今でもあの変態オヤジが自分にそっくりだと認めていない。
こうしちゃいられない!
ミユは一刻も早く家に帰ろうとした。
「あたし帰る」
「急にどうしたにゃ?」
「急にじゃないし、ジョーカー怪人があたしの家族を襲うかもしれないじゃない!」
「それなら平気だにゃ。ミユの家族には24時間監視がついてるにゃ」
「は?」
そんな話聞いておりませんが?
またアレですか、質問されなきゃ答えませんってヤツですか?
人間不信に陥る寸前だ。
ミユの心配は治まらず、やっぱり家族の元へ駆けつけることにした。
ミユは玄関のドアを開けて自宅に飛び込んだ。
まだまだ夕飯の時間でもないのに、台所から匂ってくるクリーミーな匂い。
台所に駆け込んだミユは唖然とした。
「ハァ?」
と、思わず口から漏れるくらいだ。
台所に立っている母親。そこまではオッケーだ。
……そこにいる人だれですか?
なんと、食卓にはあのハサミ男がいたのだ。
はい、意味不明ですね!
「おかえりなさいミユ」
柔らかな笑顔で母親はミユを見つめ、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。微笑ましい食卓の風景……じゃねぇよ!!
だからなんでハサミ男がいるんだよ!!
ミユはハサミ男を指差した。
「その人なに?」
ハサミ男が自ら答えました。
「はじめましてミユさん、私の名前はマンティスシザーです」
ミユは遠目から見たからはじめてじゃないし。てゆか、なんでミユの名前まで知ってるの!?
ええ、もちろんそれはミユママが話したからですよ。
「マンティスさんと町で出会って、髪を切ってもらったお礼に、夕食でもごちそうしようと思って来てもらったのよぁ〜」
そういう馴れ初めでミユママとマンティスシザーは出逢ったらしいですよ。
ミユは理解できなかった。
「そんな凶器を持った変種者をどうして家にあげるわけ!」
ハサミは体の一部なので、存在自体が銃刀法違反です。
ミユママは少し怒ったような顔をした。
「どうしてそんなことを言うの? 人は見た目で判断しちゃいけません。マンティスさんはとても心の優しい人のなのよ。今も生き別れになった上司を探して旅をして苦労しているのよ、食事くらいご馳走してなにが悪いの?」
上司を探して旅って……普通、兄弟とか両親でしょそこは。
「ママはちょっとお人よしなのよ。こんなのハサミ持ってる変態でしょ!」
「わたしにだって人を見る目くらいあるわよ。ジョニー・デップに似ているマンティスさんが悪い人のハズないわ!」
「ママ、イケメン大好きだもんね。パパのことだって顔で選んだんでしょ!」
「失礼なこと言わないでよ、パパとは大恋愛の末に駆け落ちして結婚したのよ!」
思春期の娘と母親の戦いは、まさに女と女のぶつかり合い!
このまま放って置いたら、ケンカはドンドン加速して行きそうだった。
そこへブレーキをかけたのはマンティスシザーだった。
「あの〜、私がいるとお二人がケンカをしてしまうようなので、また旅に出ようと思います」
マンティシザーは立ち去ろうとした。
だが、その腕を掴んで引き止めるミユママ。
「行かないでマンティスさん、あなたはなにも悪くないわ!」
近距離で見詰め合う男と女。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)