科学少女プリティミュー
第5話_マンティスシザーだよプリティミュー!
日曜日だって言うのに、呼び出しされてミユはカンカンだった。
「ったく、今日は友達と遊ぶ約束してたのに」
ただでさえ減少中の友達。友達との約束は重要事項の1つだった。が、ヤツはアレを握っている。そう、ミユの命を繋ぐ起爆スイッチ。
そんなわけでミユは仕方なくアインの自宅&研究所に向かっていた。
街を歩いていると、人だかりができていた。
ミユは人ごみを掻き分けて、その中心にいた人物を見た。
両手がハサミの男が女性の髪をカットしていた。
「シザーマン?」
と、ミユは呟いた。
あんな大きなハサミなのに仕事は繊細で、華麗なハサミさばきで観客の心を鷲づかみ。
いったいこのハサミ男は何者なのか?
そんな感じで観客とのトークが進められ、ハサミ男はこんな話をはじめた。
「実は……ゲル大佐という方を探して、旅をしているのです。人の髪を切るのは、旅を続けるための路銀稼ぎとでもいいましょうか」
ゲル大佐を探して3千里ですか!?
見方によっては感動話じゃないか!!
ま、ミユは『へぇーそうなんだぁ』程度にか思わなかったが。
そこらにいる路上パフォーマーと変わりませんね。
てなわけで、ミユはこの場を後にした。
獅子舞町を駆け抜け、裏路地を奥まで進んだ。
金属のドアの前に立って、いつもどおりインターフォンを――押そうとしたのだが。
「貸家?」
って書いてる張り紙が貼ってあった。
インターフォンを押しても反応ゼロっていうか、電源すら入ってない感じだった。
ミユはドアに耳を当てて、中のようすを探った。
音はしない。
気配も感じられなかった。
「…………」
ミユは目を白黒させて、脳ミソをフル回転させた。
そして――。
「人を呼び出しといて、どーゆーことじゃボケッ!」
ドアを殴る蹴る!
金属製ドアなので、辺りに爆音を撒き散らす。
10万馬力のミユでもドアはびくともしなかった。
それでもミユはドアに闘いを挑み続けた。
「意味わかんない、借家ってどーゆーことなのよぉぉぉっ!!」
闘いを続けていると、どっかのビルの窓が開いた。
「うっせーよ!」
男の声がした直後、2階から投げられたナベがミユの頭にヒット。
「イタッ……」
ナベをぶつけられた。
怒ったミユはナベを投げ返す。
「シネ!!」
ナベを顔面に受けた男は鼻血の噴水を拭きながら倒れた。
本当に死んだかもしれない。
邪魔者がいなくなって、ミユはさらにドアと格闘した。
「オラオラオラオラ!」
なんかもうヤケクソだった。
「ハァ……ハァ……」
サイボーグでも頑張ると疲れるんですね。
ミユが息を切らしているとケータイが鳴った。
誰か確認せずにミユは通話に出た。
「なに!」
《ふむ、電話に出るなり怒鳴るなんてカルシウム不足だよ》
アインの声だった。
「シネ!」
《言語中枢に障害かい?》
「シネ!」
《ふむ、どうやら重症らしいね。早くボク元へおいでよ》
「ハァ? 来たけど借家ってどういうことよ!」
《そうだ、そのことで電話をしたんだよ。引っ越したからそこに来てくれたまえ》
「シネ!」
絶対にコロス、次に会ったら絶対にコロス。ミユは心に刻み込んだ。
《ケータイに地図を転送してあげるから、早くおいでよ》
ブチッっと通話が切れた。ブチッとキレたいのはミユのほうだった。てゆか、もうキレてます。
地図を頼りにミユがやって来たのはアキバ区ネオ・アキバタウン。
オタクの聖地だ。
街を歩いているとそこから中から音楽が聞こえてくる。
アニソンばっかりですね。
「汚染される……あたしの心が汚染される」
ミユは吐き気を催していた。
日曜日の今日は特にヤバイらしい。
メインロードが歩行者天国になっているらしく、なんか変な人たちがわんさかいますよ。
レイヤーさんに群がるカメラっ子。
その中に知ってる顔を発見してしまったミユは、断じて見ていないことにした。
こっちがあっちを見つけたことよりも、あっちにこっちが見つかることを恐れた。
なのにあっちは見つけやがりましたよ!
「センパーイ!」
メグが駆け寄って来た。
聴こえないフリ聴こえないフリ。
ミユは空を眺めながら逃走。
しようとしたが、腕を掴まれてしまった。
「センパイ待ってくださいよぉ」
「ワタシ日本語ワカリマセン」
「センパイ大丈夫ですか?」
「ワタシ日本語ワカリマセン」
強引過ぎる。
メガネの奥から覗くまん丸の瞳。
「センパイですよね?」
「センパイ誰デスカー?」
「ミユ……センパイですよねえ?」
「世界ニハ自分ト似タ人ガ3人クライイル言イマース」
「はぁ……そうなんですか……」
不思議な顔をしてメグはきょとんとしている。
その隙を突いてミユは逃走した。
今度こそ逃走に成功!
メグは呆然と立ち尽くしたままだった。
絶対に変人だと思われましたね!
そのまま走ってミユは地図に書かれた場所までやって来た。
いくつかの店が入っているビル。
そのビルの地下2階にアインは引っ越したらしい。
エレベーターで降りる間、どうやって血祭りに上げてやろうかミユは考えた。
とりあえずメガネごと目潰しで奇襲をかける。
視界を奪ったところであとはじっくりコトコトお楽しみだ。
邪悪な笑みを浮かべるミユ。そんな顔で街中を歩いていたら職務質問されます。
エレベーターを折り、少し歩いてドアのインターフォンを押す。
小型ディスプレイにワトソン君の顔が映された。
《今開けるにゃー》
自動ドアが開き、中に進入するミユ。口元が邪悪だ。
ミユは辺りを見回しながら獲物を探した。
部屋は前より広くなっているが、家具の配置は前とほとんど同じで、棚に並べられたフィギュアがミユを見ている。
その部屋の中心にアインはいた。ソファに座ってさっき届いたばかりのアニメDVDを鑑賞している。
今だ、相手が油断し切っている今こそチャンスの時だ!!
ミユはチョキの構えでアインに飛び掛った。
ガツーン!
突然現れたフライパンによってチョキが塞がれた。
「いったぁ〜い!」
ミユは指先を押さえながらしゃがんだ。
アインはアニメを見ながら言う。
「今いいとこなんだから邪魔しないでくれたまえ」
命を狙われたことなど、まったく気づいていないらしい。
ミユは再びアインに襲い掛かった。
「シネ!」
今度はマジだ。
フライパンごと叩きのめしてやる!
が、アインの高機能ランドセルから飛び出したフライパンは、またもやミユの攻撃を防ぎ、さらにミユを思いっきりぶっ飛ばした。
ぶっ飛んだミユは棚にぶつかり、フィギュアが雪崩のように床に落ちた。
「ボクのフィギュアー!!」
アインが絶叫した。
アニメなんか見ているどころじゃない。
騒ぎを聞きつけてワトソン君も部屋の奥から顔を出した。
「どうしたにゃ?」
「どうしたもこうしたもないよ、バイト君がボクのフィギュアを!」
ワトソン君が見たのは、床に散らばったフィギュアの山と、目を血走らせたミユの姿だった。
「シネ!」
ミユはまたまたアインに襲い掛かった。
ガツーン!
自動操縦のフライパンがまたミユをぶっ飛ばす。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)