科学少女プリティミュー
サラセニアぁンの姿はなかった。
焼けた果実の残り香と、金色の粉が舞っていた。
マジカルメグは辺りを見渡して言う。
「怪人は倒したわ」
それだけ言ってマジカルメグは姿を消してしまった。
残されたアインは瓦礫の山に立って叫んだ。
「ボクのフィギュアがぁっ!!」
サラセニアぁンをフィギュア化できなかったことが、かなりーりショックだったらしい。
もうひとつアインにはショックなことがあった。
「ときめけがぁっ!!」
原画家とシナリオライターも瓦礫の下に埋もれていた。
それはさて置き、ミユはあることに気づいた。
「ワトソン君がいない?」
さよならワトソン君、きっと瓦礫の山の中で死ん(ry
落ち込みながらアインは帰る準備をしていた。
「ワトソン君ならお腹が空いたら帰ってくるさ。それよりも警察が来たらメンドクサイから帰るよ」
もうすでに繁華街の住人たちが野次馬を作っている。ケータイで写メ&動画を撮られまくりだ。テレビより先にネットで垂れ流される。
ミユは顔を隠しながらさっさと逃げることにした。
獅子舞町オカマクラブ大爆発の翌日、何食わぬ顔でミユが学校に登校した。
運良く、ニュースではミユやアインの映像は流れていなかった。
ただ、フンドシ姿の変態が警察に連行されたらしい。
今日はなんの事件も起こさずに学校が終りそうだ。
あとは帰るだけってところで、誰かに声を掛けられた。
「センパイ!」
振り向くとメグがいた。
「ああ、よかった無事だったんだ」
ミユはちょっとほっとした。
「はい、1人で逃げちゃってごめんなさい。センパイは大丈夫だったんですか、ニュースで爆発事故見ましたよ?」
「うん、なんか正義のヒロインみたいのが現れて助けてくれたんだけど……」
ミユはメグの顔をまじまじと見つめた。
やっぱり違う。
あっちのメグとこっちのメグは似ても似つかない。姿かたちも違うし、まったくの別人に見える。
メグはメガネの奥で瞳を輝かさせた。
「ヒロインってプリティミューですか!?」
「え、その……」
「残念です、センパイがミューだって証拠をつかめたかもしれないのに……」
「だからね、何回も言ってるけど、あたしプリティミューじゃないし。あたしのこと助けてくれたのは魔導少女マジカルなんとかっていう人だし」
「え〜、ミューじゃないんですかぁ〜」
それにしてもあの魔導少女マジカルメグっていったい何者なのだろうか?
ミユが考えるよりもアインのほうが詳しそうだ。
校門まで歩いてくると、そんなアインがグッドタイミングで現れた。真っ赤なオープンカーで乗り付けやがった。
「バイト君、大変な事件が起きてるよ」
「どんな事件?」
「獅子舞町で昨日の怪人が大量発生してるんだ」
昨日の怪人=オカマ怪人
それが大量発生!?
地獄絵図ですね!
さっそくミユは車に乗り込んだ。だってアインが起爆スイッチを握ってるんですもの。
この件についてまたメグにしつこく質問されると思ったが、いつの間にかメグの姿は消えていた。スムーズに現場に向かえそうだ。
獅子舞町はお祭り騒ぎだった。
まだ陽の昇る明るい時間帯なので、そこいらのお店の営業時間でないけど、このまま騒ぎが続いたら今日は臨時休業だ。
すでにコマンドポリスが出動して、報道陣もわんさかいて、野次馬の数もすんごいことになっている。
とりあえずそんな様子を離れたところから、ミユとアインはカーナビでニュースの生中継を見ていた。
ミユはその映像を見て青い顔をした。
地面からサラセニアぁンが生えていた。
まるで植物のように生えていた。
アスファルトの地面を突き破る根性を見せて生えていた。
そりゃもう強くたくましく生えてますとも!
上空から枯葉剤をまいてやれ!
コマンドポリスは臭い対策でガスマスク着用している。武器は火炎放射器だ。
サラセニアぁンの身体から、緑の触手がたくさん伸びている。焼いても焼いても生えてくる。そんな感じだからコマンドポリスは近づけなかった。
強力な武器の使用は市街地なので許可が降りづらい。ミサイルで一掃したいが、建物を壊したら補償しなくてはいけない。
アインは『ふむ』と納得したようだった。
「どうやら植物型怪人だったらしいね。これだけ数が多いと、ミサイルで爆撃したいところだけど、政府が許可を出すまでには時間が掛かりそうだ」
そこで臨時ニュースが飛び込んできた。
《帝都政府は獅子舞町2丁目にBフィールドを発動すると発表しました》
その発表を受けてアインは少し嫌そうな顔をした。
「不味いね、結界師たちが来るよ。さっさと現場に潜り込んだほうが良さそうだね」
その意味をミユも理解している。
Bフィールドとは結界のことである。結界が張られてしまうと、その中に誰も出入りができなきなくなる。つまりミユも入れなくなってしまう。
アインはミユにケータイを手渡した。
「新しいケータイだよ。全部倒す必要はないからね、1匹だけフィギュアにしたらいいから」
「はいはい、がんばりまーす」
言葉から滲み出す頑張る度ゼロ。
さっそく車を降りて現場に向かおうとしたミユをアインが引き止める。
「ちょっと待ちたまえ」
「なんで?」
「テレビを見ればわかるよ」
Bフィールドが発動されていた。
これでもう誰も中に入れない。結果が解かれるのは不測の事態が起きた場合と、戦闘が終って敵が一掃された場合だ。
ミユはラッキーと内心思っていた。
「これじゃあ、な〜んにもできないよね。ってことであたし帰るから、んじゃねぇ〜」
「ダメだよ帰っちゃ」
「なんで? だって中に入れないんだからあたしのできることないもん」
「Bフィールドは地表のみに効果があるんだ。下水道を通っていけば中に入れるよ」
「へぇー、そーなんだー」
嫌そうにミユは言った。
ご丁寧にすぐ近くにマンホールがあった。
下水道には雨水などが通る道と汚水が通る道がある。
ミユがマンホールのフタを開けた。ちょっと臭うが汚水っぽい感じではない。
嫌そうな顔でミユはアインを見つめた。
「マジで行かなきゃダメ?」
「それがキミの仕事だからね」
「はいはい」
――起爆スイッチさえなければ……。そんなことを思いながら、ミユはマンホールを降りることにした。
のに、アインが声を掛けてきた。
「そうだ、バイト君」
「なんですか!!」
ちょっとミユは怒ってるらしい。
「これは仮説なんだけど、本体がどこかにいる可能性があるよ」
「はい?」
「バイト君も知っての通り、ジョーカー怪人はハイブリッドなんだ」
ぶっちゃけミユは知りませんでした!
アインは話を続けていた。
「つまり今回の怪人はサラセニアとの合成人間ということになるね」
「先生、サラセニアってなんですかぁ?」
「食虫植物の一種だよ。筒状の葉に虫を落とし、溶かして栄養を吸収するんだ。そのセラセニアというのはね、1つの根からいくつかの筒状の葉を作る。つまり、現在地表に出ているのは葉の可能性があるってことさ」
早い話、根っこを倒さないと無限増殖するかもよってことである。
あんなキモイ物が増殖し続けたら……考えただけで身震いする。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)