科学少女プリティミュー
さらに脱出は困難になった。
時間だけが過ぎていく。
だんだんと焦りの色が濃くするアイン。
「早くしないとアニメがはじまっちゃうよ」
「どーせ録画してるんでしょ」
「オンタイムで観ることに意義があるんだよ。録画はあくまで保存用さ」
「はいはい」
ミユにはどーでもいいことだった。
アニメの心配なんかより、今は自分の身が心配だ。
男たちはなぜ集められたのか?
牢屋の次のステップがあるハズだ。
さらに時間は過ぎていく。
アニメを見逃したアインはショックのあまり隅っこで丸くなっている。ミユは励ます気にもなれなかった。
またさらに時間が過ぎた。
牢屋番をしているスク水オヤジに異変が!
豪快ないびきを掻いて寝やがった。
そんな爆睡状態のスク水オヤジに天誅が下った。
「にゃー!」
という掛け声と共に、空手チョップでスク水オヤジが気絶させられた。
そして、スク水オヤジを倒した人影がミユたちの前に姿を現した。
「ひょっとこ仮面ただいま参上にゃー!」
その姿を見てミユは凍りついた。
真っ赤なフンドシ姿の変態が立っていた。
しかも、ひょっとこのお面まで被っている変態だ。おまけにお面のおでこにはペンで『Ζ』と書かれている。
ひょっと仮面を見るメグの瞳は輝いていた。
「かっこいい!」
ヒドイ美的感覚だった。
メグはもうひょっとこ仮面のトリコだった。
「お尻にフンドシが食い込んでるところが萌え〜。ところでなんで頭にゼットの文字が書かれているんですか!」
「ゼットじゃないにゃー、ゼータだにゃ。正式名称は猫又戦士Ζひょっとこ仮面だにゃ!」
「素晴らしいネーミングですね!」
――どこがだよ。なんてミユは思ったが、触れると怪我をしそうだったので、その話題には触れないことにした。
落ち込んでいたハズのアインが、牢屋越しにひょっとこ仮面の前に立った。
「遅いよ、ワトソン君。ここの鍵はそこにいるスク水が股間に隠しているらしいよ」
「ワトソン君じゃないにゃー、ひょっとこ仮面だにゃー!」
語尾がもろにワトソン君です。
が、ここは百歩譲ってその話題には触れないであげよう。
ワトソン君……じゃなかった、ひょっとこ仮面はさっそく鍵を探すことにした。
なんの躊躇もなしにスク水の股間に手を突っ込み、それを掴んで引っ張った!
「ぎゃー!」
気絶していたハズのスク水オヤジが絶叫してまた気絶した。今度は口から泡を吐いている。
「間違えたにゃー」
なんて言いながら笑って誤魔化すひょっとこ仮面。でも、笑顔は隠れて見えません。
今度こそ本当のカギを見つけて取り出した。
「在ったにゃー」
さっそくそのカギを使って牢屋を開けると、みんな一斉に逃げた――牢屋の奥に。
ひょっとこ仮面と微妙な距離を保ちつつミユが言う。
「3メートル以内に近づかないで」
「どうしてにゃ?」
「そんな手で近づかないで、早く洗って、むしろ切断して」
「なんでにゃ?」
理解してないひょっとこ仮面はミユに近づこうとした。
ミユが拳を握る。
「近づくなって言ってんだろシネ!」
怒りの鉄拳がひょっとこ仮面の顔面をぶっ飛ばした。
サイボーグだったりするミユのパンチは殺人パンチだ。
さよならひょっとこ仮面!
ぶっ倒れるフンドシ青年と割れて床に転がるお面。早くも素顔が露になってしまったが、殴られた衝撃で見るも無残な顔になっていて、どこの誰だかわかんない状態だった。
ボロボロで、大きく晴れ上がったフンドシ青年の顔を見ながら、メグは首を傾げていた。
「どこかで見たことあるような……?」
でも思い出す前にミユに腕を引っ張られた。
「早く逃げるよ」
そんなこんなでフンドシ青年は放置で大脱走がはじまったのだった。
牢屋から逃げ出した男どもの大行進!
なんかものスッゴイ数の軍勢なので、次々と現れる変態どもを踏み付け蹴散らしていく。
これなら逃げるのも簡単かもしれない!
なんて思っていた矢先、腐った果実のような臭いがあたりに立ち込めた。
男たちの足が止まり、次々とバタバタ気絶してしまった。
残ったのはミユ、メグ、アイン。
気づけば店内までやって来てしまっていた。
客は誰一人いない。
女装した変態さんたちもいなかった。
腐臭がさらに強くなった。
気配を感じてミユは振り返った。そして、見なかったことにした。
「ちょっとちゃんとこっち見なさいよぉン!」
見てはいけない物体が野太い声で叫んだ。
チューリップみたいなスカートを穿いた巨体のオヤジ。標準装備の青ヒゲもバッチリだ。
うん、バニーとかスク水に比べたらぜんぜん平気♪
どうやら臭いの発生源はこの変態らしい。だとしたら、この変態を倒したら一件落着になりそうだ。
「というわけでバイト君、がんばってくれたまえ」
メガネを拭きながら軽く言いやがったアイン。本気でミユは殴ってやろうとしたが、ここはグッとグッと抑えた。
アインは簡単に言ってくれたが、問題はそんなに簡単じゃない。
ここでの大問題はアインじゃないほうのメガネッ子――そう、メグだ。
あくまでミユは普通の女子中学生を通さなければならない。
そんなこんなで戸惑ってる間に、全身黒タイツの戦闘員まで現れた。
「ふむ、やはりジョーカーの仕業だったらしいね」
そう分析したアインはソファに座ってゆっくりしていた。しかもどこから見つけてきたのか、飲み物まで勝手に飲んでるし!
「むふふ、そうよ、アタイはジョーカーのアイドル怪人サラセニアぁンちゃんよぉン♪」
怪人というとか変人だ。
ついでにアイドルじゃなくてゲテモノ。
雑魚戦闘員が襲い掛かってきた。
ミユは仕方なく変身しないで戦うことにした。
10万倍馬力のパンチで戦闘員をボッコボッコにする。黒戦闘員くらいなら変身しなくても大丈夫。
人間とは思えないパワーをメグの前で披露しちゃってるが、このくらいなら学校で十分見られちゃってる。
最近はパワーをセーブすることに慣れてきたミユだが、それでもクラスメートを病院送りにしてしまう事件を起こしてしまっている。
バスケットの授業でボールを破裂させたときは、爆弾騒ぎになっちゃって大変だったりした。
学校でのミユはそりゃもう浮きっぱなし。
ぶっちゃけもうプリティミューってバレたほうが楽かも。学校で危険人物扱いされて友達がいなくなるより、変身ヒロインとして騒がれたほうが精神的苦悩が少なくて済む。
そうだ、メグが見ているこの場所で変身してしまえば!!
もう迷いなんてない。ミユはプリティミューに変身しようとした――のだが。
「あれ……ない?」
ミユはポケットというポケットに手を突っ込んだ。
「ない!?」
叫ぶミユ。
変身アイテムのケータイがない!
そうだ、牢屋に入れられたときに取り上げられたんだった。
ちなみにアインも高機能ランドセルと四次元白衣を取り上げられている。
ミユは戦闘を忘れて探し物をしている間に、なんとメグとアインが捕まっていた。
サラセニアぁンは勝ち誇った笑いを発する。
「むふふふ、アンタもおとなしく捕まりなさぁーい!」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)