科学少女プリティミュー
第4話_サラセニアぁンだよプリティミュー!
ホウジュ区は巨大な都市なので、いろんなサービス業なんかが充実している。
ミユはサービス業のお店が立ち並ぶ路を走っていた。
そのサービス業とは風俗店、アダルトショップ!
アインの自宅が近くにあるので、どーしてもこの路を通らなきゃいけないのだ。
なのでミユはいつも駆け抜けることにしている。
だが、しかし!!
今日に限って走ってる途中で頭痛と吐き気が!
「な、なに……この臭い?」
ミユは口と鼻を押さえながら辺りを見回した。
バーコードハゲ!
青ヒゲじょりじょり!
スネ毛ボンバー!
ミユは異様な光景を見てしまった。
バニーちゃんの姿をした中年男たちの集団。
股間のモッコリが放送コードギリギリですね!
謎の変態女装オヤジたちが客引きをしていた。しかも、この腐った果実のような臭い。どうやらオヤジたちの香水らしい。
ミユは看板を棒読みする。
「新装開店、オカマクラブ熟れた果実」
熟れすぎて腐っている。店の名前を考えた奴の脳ミソも腐ってるハズだ。
こんな店に誰が来るもんかっ!
なんてミユは思ったが、ところがドッコイ!
魔法に掛かったように男たちが店に吸い寄せられている。
マニアだ、全国にマニアが店に集まってるに違いない。
と、いうわけでミユは見なかったことにした。
「さーってと、早くアインのとこ行かなくちゃ!」
逃げるように、というか、あからさまにミユはこの場から逃げた。
唐突なセリフからはじまった。
「そういうわけだからバイト君、消えたオッサンたちの救出をするんだ」
説明ゼロだった。
アインはミユと顔を合わせた瞬間、いきなりそんなことを言った。
あまりの意味不明さにミユは数秒間フリーズ。
そこへワトソン君が補足説明をしてくれた。
「ここ数日、ホウジュ区獅子舞町で行方不明者が多発してるにゃ。その人たちを探して欲しいにゃー」
「あたしが何で?」
今までも『何で?』と思えることをしてきたけど、今回はさらに摩訶不思議だ。
だって今まではアインの私利私欲(趣味)のために働かせれてきた。なのに今回は人命救出?
まるでこれじゃ正義の味方みたいじゃないかっ!
ミユは慌ててアインのおでこに手を当てた。
「大丈夫、熱あるんじゃないの!?」
「熱なんかないよ」
「ま、まさか……偽者!」
アインが偽者説浮上。
さっとミユはアインから離れた。
「ワトソン君、このアインは絶対偽者よ!」
「偽者じゃないにゃー」
「はっ!? まさかワトソン君まで偽者!?」
ミユピンチ!
だが、ここでアインの思わぬ発言。
「バイト君こそ熱があるんじゃないのかい?」
さらにワトソン君の発言。
「今日のミユは可笑しいにゃー。まさか偽者にゃ!?」
しまった、そっちかっ!
ミユのほうが偽者だったのかぁぁぁぁっ!!
突然、ミユが低く笑いはじめた。
「ふふふふ、バレてしまっては正体を明かさないわけには……ぶっ!?」
ミユ(偽)が何者かに後頭部を殴られた。
殴ったのは――もう1人のミユ(新)だ!
そして、アインが叫ぶ。
「ボクのフィギュアがーっ!!」
ミユ(新)がミユ(偽)を殴るときに使用した鈍器が、アインのコレクションの1つだったのだ。
アインショック!!
ワトソン君はミユ(新)とミユ(偽)を見比べて傾げている。
「どっちが本物にゃ?」
ミユ(新)は気絶しているミユ(偽)の胸倉を掴んだ。
「これのどこがあたしなのよ! こんなアゴ青くないし、スネ毛ボーボーじゃないし、そもそもどう見たってこれ男でしょ!」
思わぬ指摘でアインとワトソン君ショック!!
……まったく気づかなかった。
「ボ、ボクの目を欺くなんて……」
「本物のミユと変わらないにゃー」
まだ信じられないアイン&ワトソン君。
そして、ミユ(本物)がボソッと。
「二人ともシネ」
アインの手にはミユの自爆スイッチが握られていた。
「あはは、どーやら本物のバイト君のようだね。でも、確実な証拠を得るためにボタンを押してみようかな」
「やめてくださいお願いします」
ちょー真面目な顔でミユは棒読みした。
アインだったらマジで押しかねないような気がする。
なんとか阻止するためにワトソン君が冷静に言う。
「ここで爆発したらアインの大事なフィギュアも吹っ飛ぶにゃー」
「それもそうだね」
アイン納得。
てか、フィギュアがぶっ飛ぶ前に、アインの体がぶっ飛ぶ。
さてと、ひと段落したところで、問題はこの気絶しているミユ(偽)のことだ。
アインはマジックハンドを使ってミユ(偽)の体を調べはじめた。
「ふむ、どうやら胸は詰め物らしいね。股間にも蛇口型の排泄器官があることから、これは……男だ!」
ミユは呆れていた。
「だから言ってるじゃん」
問題はそんなことじゃなくて、この女装男が何者で、いったい何の目的だったのか、そこが重要ではないのか?
しかし、そんな答えなどすでにアインの頭脳は解決していた。
「こいつはボクの大事なコレクションを狙っていたんだ。そうに違いない!」
いつもミユは思う。
本当にこのクソガキは天才科学者なのだろうか?
とりあえずこの女装男は縛り上げ、あとで警察に届けることで一件落着……したのか?
アインの切り替えは早かった。
「さて、そういうわけだからバイト君。さっきも説明したけれど、いざ出動だよ!」
「はっ?」
ミユには理解不能だった。なぜって、その説明とはミユ(偽)にしたものだったからだ。てゆか、ミユ(偽)にした話も説明になってなかった。
ワトソン君がミユの苦悩をキャッチして説明してくれた。
「獅子舞町で失踪者が多発してるにゃ。それを救出するのが今回の任務だにゃー」
「あたしが何で?」
デジャブー!
だが、先ほどと同じ展開にはならなかった。
アインがめんどくさそうに捕捉をする。
「失踪者の中に原画家が混ざっていてね、彼がいないと『ときめけ』の発売日が延期になるんだ……最悪、発売すらできなくなるかもしれない」
「ときめけってなに?」
「ときめけを知らないなんて、キミは人生を5パーセント損失しているよ。ときめけと言えば、『闘神菊地さんのメリケンサック拳勇伝(けんゆうでん)』の略じゃないか、超人気格闘恋愛シミュレーションだよ」
ちなみにこの部屋の棚にもそのフィギュアが飾られていた。
七三分けの眼鏡サラリーマンのムキムキ筋肉フィギュア。と、その傍らに並ぶ総勢8人の女性キャラ――全員攻略可能だ!
とにかく今回もアインの私利私欲(ワガママ)のためにミユは働くらしい。
ホウジュ区獅子舞町といえば、アインの研究所のすぐ近くで、そういえばミユはここに来る前通った道だ。
そして、ミユはある重大なことを思い出してしまった。
「あ、そういえば……ここに来る途中、オカマのお店が新しくできてたような……」
散らばっていたパズルのピースが合体する。
そう、まさに床に散らばっているグルグル巻きの女装オヤジ。このオッサンと失踪事件が結びついてしまった。
アインはパソコン画面を眺めていた。いつの間にか作った線グラフだ。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)