科学少女プリティミュー
プリティミューの必殺技『フィギュアチェンジ』が効かなかった。
それについてもアインは明確な回答をした。
「あぁ、それね。萌えメーターが足らなかったからだよ。ザコ相手なら少しでいいけど、強い相手はたくさん萌えをためなきゃいけないんだ」
「はぁ?」
なんかそういえば、そんなようなメーターの存在があったような気がする。プリティミューに変身したときに、胸のあたりにハートマークのメーターがあったような?
そんな話をしている最中も、外からは喚き声が聴こえてきていた。
「オイこら、早くここから出て来い! さもないと海の家ごとふっ飛ばすぞ!」
そろそろ出て行かないとマズイかもしれない。
ミユがビシッと背を伸ばして立ち上がった。
こうなったらアクアモードに賭けるしかない。
「よしっ、あたしガンバルから」
ラッキーセブンをケータイに入力して叫ぶ。
「サイエンス・アクア・メイクアップ!」
ブルーの光に包まれるミユ。
そして、アクアモードに変身したミユの姿とは――?
痺れを切らしたレイディスコーピオンはロケット弾を打ち込む準備をしていた。
そこで開店した海の家から出てきた人影。
ミューだ、アクアモードに変身したミューだ!
野次馬たちが歓声をあげた。主に男の歓声。
アクアモードに変身したミューの姿……その姿はスク水だった!
そう、紺のスクール水着。胸に縫い付けられた白い布には、黒いペンで『ミュー』と汚い字で書かれている。
そして、このスク水の最大の特徴は萌えメーターだ。通常の変身時には胸にあったメーター、それがアクアモードではお尻についているのだ。お尻にハートがついていた!
まさか夏でもない時期にスク水を着るなんて思ってもなかった。
しかも、プールじゃなくて海。
しかも、公衆の面前でテレビにまで映っている。
しかも、今日は怪獣騒ぎでカメラの数が多い。
ローカルヒロインから全国区のヒロインに昇格だ!
もう絶対に友達や身内に正体がバレる。今まであまりバレてなかったのが不思議なくらいだが。
プリティミューとレイディスコーピオンが向かい合う。
「今度は負けないんだから!」
「おほほ、衣装を替えたところでアタクシには勝てないわよ」
ハサミと尾を操るレイディスコーピオンに対して、ミューはいつのもハンマーではなくバレーボールだ!
バレーボールというのは語弊がある。どうみても鉄球だ。
「バレーボールで勝負よ!」
でもやっぱりバレーボールらしい。
ミューの宣戦布告ではじまったバレーボール対決。
ビーチバレーの標準的なルールに乗っ取るなら2対2の対決だ。
レイディスコーピオンと戦闘員のコンビ、ミュー側の相方は……いない。
「しまった……自分で戦いを申し込んでおいてパートナーがいないじゃん!」
ミューはワトソン君に顔を向けた。
「おいらはネコだから無理だにゃ」
人間に変身すればいいじゃん、と思うかもしれないが、きっとフル○ンだ!
ミューはアインに顔を向けた。
「ぐわっ、知らないうちに落札されてる!!」
ミューのこと完全にシカトでノーパソをやっていた。しかも、おそらくオークション。
こんな感じでささやかなピンチを迎えたミューに手を差し伸べたのは!
「センパイ、わたしバレー得意ですよ!」
すっかり、忘れてた。メガネッ娘メグがいたんだった。
メグの参戦により、ついにバレー対決の幕が開けた。
なぜか放置されていたバレーネットを使い、2チームがコートの中に入った。
ネット越しにレイディスコーピオンがビシッと指を差してきた。
「この勝負でアタクシが勝ったら貴様らの命を貰うだけではないぞ。この帝都はこの砂浜のように、砂漠と化すのだ」
まさか、この冬なのに常夏現象はジョーカーの仕業だったのか!?
「絶対にそんなことさせない!」
これを言ったのはミユじゃなくてメグだ。どっちかというと、ミユは帝都の平和に関してそれほど興味がない。
「あたしは起爆スイッチすら押されなきゃそれでいいんだけど」
あとバイト代さえもらえれば。
そんなこんなでバレーボールがはじまる。
サーブ権はミューだ。
どう見ても中身が空気じゃないないボールをサーブする。
「とりゃ!」
ボールがビューンってぶっ飛ぶ。
ゴキッ!
なんか嫌な音が鳴って、顔面でボールを受け止めた戦闘が泡を吐いて倒れた。
退場!
他の戦闘員によって担架で運ばれていく。
そして、すぐに別のメンバーが補充された。
そうそう、このバレーには特別ルールがある。それは得点制ではないこと。ボールを敵にぶつけて相手が倒れるまでやり合う。
ミューは完全にザコ戦闘員狙いで、次々と相手の数を減らしていく。
そして、ついに戦闘員はすべて倒されレイディスコーピオンを残すのみになった。
「おのれ小娘め……戦闘員ばかり狙うなんて卑怯だぞ!」
「戦略って言って欲しいかな」
ミューのチームはメグもちゃんと生き残ってる。てゆか、たぶんボールを一発でも喰らえば三途の川を渡れる。
けれど、そもそもメグはバレーそっちのけでミューを激写している。
一眼レフを構えて激写、激写、激写!
これってもしかして、最初から1対1で戦っても良かったんじゃないの的な展開。
ミューが豪快なサーブを放つ。
「うりゃ!」
狙う相手はレイディスコーピオンしかしない。
飛んできたボールをレイディスコーピオンが打ち返した!
それをまたミューが打ち返した。
それをまたレイディスコーピオンが打ち返した。
それをまた……以下省略。
バレーっていうか卓球かよっ!
みたいなラリーの猛襲が繰り広げられ、ミューはだんだん息が切れてきた。
砂浜を照りつける太陽。平気な顔をしているレイディスコーピオン。ミューは熱さで意識が朦朧としてきた。
そして、ついに鉛のように重い鉄球がミューの腹にヒットした。
「うっ……」
当たってみるとカナリ痛い。
「大丈夫ですかセンパイ!」
とか身を案じながらもメグは痛がるミューの表情を激写。
そして、事件は起きた!!
日本ではありえないくらいのビックウェーブがミューたち全員を呑み込んでしまった。
なんだこの展開!?
海の中から現れる白い触手。
パソコンをやっていたアインが目を剥いて立ち上がった。
「大魔王イカだ!」
すっかり忘れてた。
「バイト君、フィギュアにするんだ!!」
アインが叫んだ。
そのときミューは……触手に捕まっていた。
「無理だから!」
しかも、メグまで捕まっていた。にも関わらず激写中。
「センパイ笑ってくださ〜い」
ついでに、レイディスコーピオンも捕まっていた。
「クソッ!」
レイディスコーピオンは自慢のハサミでイカの脚を切り刻む。
怒った大魔王イカが暴れ出した。なんかもう手に追えない感じだ。どうやって収拾するんですかこの事態!
アインが叫ぶ。
「バイト君、必殺技を使うんだ!」
「必殺技ってなに!」
「アクアボムクラシュって叫びながらボールを投げるんだ!」
ミューは無我夢中で持っていたボールを投げることにした。
「アクアボムクラッシュ!!」
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)