科学少女プリティミュー
冬の海といえば、灰色がよく似合うような陰鬱なイメージがあるが、目に入って来たのは青い海と白い砂浜。そして、ミミズがアスファルトの上で干からびそうな照りつける太陽。
なにか様子がおかしいとミユが思いはじめたとき、怪獣か恐竜みたいな鳴き声が聴こえてきた。
「なにっ!?」
驚いて辺りを見回したミユの目に飛び込んできたのは!
「怪獣大戦争!?」
巨大亀とゴ○ラがケンカしていた。
ミユはドアを跨いで走っている車から飛び降りようとした。
「あたし帰る!」
ここまで来たらやらされることはわかってる。アレと戦ってフィギュアにしろとでもいいのだろう。無謀だ。スケールからして、ジョーカーの怪人よりデカすぎる。
マジックハンドがミユの首根っこを掴んだ。
「逃げてもいいけど起爆スイッチ押すよ」
伝家の宝刀『起爆スイッチ押すよ』。
ミユの体内に埋め込まれている爆弾は、アインの気分次第でドーンだ。逆らえるハズがなかった。
大人しくミユは座った。股を開かず手はお膝。
車は海岸脇の道路に止められた。
車を降りていやいや海岸に降りるミユ。
ちょっと先では怪獣大戦争が繰り広げられている。近くで見るとさらに大きい。
ミユは回れ右×2回をして元来た道を引き返そうとした。が、眼の前に立ちはだかる白衣のガキ。
「ボクはキミの雇い主だよ。ちゃんと高い給料も払ってるんだから、ちゃんと仕事してもらわないと困るよ」
「仕事しろっていわれても、あんなのと戦えるハズないでしょ!」
ミユはあんなのを指さして吠えた。
珍獣カメラが火を噴き、それに対抗してゴ○ラも口からビームみたいのを吐いた。完全に人智を超える戦いの領域に入っている。
アインはう〜んと考え、パッと上を向いたかと思うと指を一本立てた。
「これでどう?」
「これってなに?」
「1匹100万円」
「安いってば!」
ミユの月給は100万円である。それを今日は1匹100万円でどうかと言っているのだ。しかし、月給100万でも仕事の内容に比べたら、安いんじゃないかとミユは思いはじめていた。
ゴスロリ衣装を着せられて、時間と場所も構わずジョーカー怪人と戦い、ときには怪人以外の珍獣捕獲にも狩り出される。
中学2年生で月収100万は高いか安いか。ちなみに補足すると帝都では暗黙で中学生以下のバイトも認めている。
アインはピースサインをした。
「2本でどうだい?」
「それでも安すぎだってば!」
「キミ中学生の分際で200万が安いだって!」
「中学生がどうこうって問題じゃなくて、戦う相手が問題なんでしょ!」
暑い日差しが余計に2人を熱くさせる。暑い日はイライラしてしょうがない。しかも2人とも冬服。
ワトソン君がカキ氷を持って現れた。
「まあまあ、カキ氷でも食べて頭を冷やすにゃ」
ワトソン君が持ってきたのは、イチゴとブルーハワイ。あのブルーハワイだ!
ミユはイチゴを取ろうとすると、もっと早くアインがイチゴを奪った。
仕方なくミユはブルーハワイを受け取り、一気に咽喉に流し込んだ。
すると!!
驚くべきことに顔が真っ青に!
青くなったミユの顔を指差してアインが勝ち誇った顔をした。
「ほらボクの言ったとおりじゃないか」
指を差されているミユはなんのことだかわからない。
「あたしの顔になにかついてるの?」
急にみんなミユと顔を合わせなくなった。
しかもアインは別の話題をはじめる。
「さて、今日の戦いは海だ。バイト君の変身機能には、実はアクアバージョンがあるんだ」
唐突な説明にミユは怪しんだ。
「そうじゃなくて、あたしの顔がどうかしたの?」
ミユはアインの顔を覗き込もうとするが、アインはクルッと回って決してミユと顔を合わせない。
「アクアバージョンの変身方法はいたって簡単だよ。いつもどおりケータイで777って打ったあとに『サイエンス・アクア・メイクアップ!』って叫ぶだけ」
「変身の方法はわかったから、なんであたしと顔合わせないわけ?」
「よし、バイト君、いざ出撃だ!」
ビシッとアインは怪獣たちを指さした。徹底的にミユと話を合わせない気だ。おまけに顔すら合わせない。
ミユは怒った顔をして、その場から動こうとしない。
仕方なくアインは見せることにした。
「ワトソン君、ボクのカキ氷を食べてみてくれたまえ」
「なんでにゃ?」
「いいから早く」
「わかったにゃー」
ワトソン君がカキ氷にがっついた。まさかワトソン君までもが……。
カキ氷を食べ終わったワトソン君の顔をアインが指差した。
「ほら、これでわかったろ」
ミユは首を横に振った。
「ぜんぜん?」
そういうのも無理もない。ワトソン君はなにも変わっていなかった。
アインは苛立つように髪の毛を掻いた。
「わかるだろ、顔色が赤くなってるじゃないか!」
と言っても、ワトソン君の顔は毛で覆われている。赤くなってるかどうかなんてわかんねーよ!
そんな言い争いみたいなことをしているうちに、怪獣大戦争は決着を迎えてしまった。
なぜか和解して海に2匹で帰っていくカメラとゴ○ラ。
それを見てアインが絶叫する。
「あ〜っ! ボクのフィギュアが海に帰って行く!!」
アインは波打ち際に向かって走り出した。
「ボクのフィギュア!」
コテン!
砂浜でアインがコケた。
倒れたままアインは2匹の背中に手を伸ばす。
「ボクの……ボクの……フィギュ……ぐふっ」
力尽きたアインが砂浜に顔を埋めて動かなくなった。
「ボクのフィギュア!!」
なんて叫びながら、汗びっしょりでアインは目を覚ました。
目覚めたのは海の家の座敷。近くにはミユとワトソン君、そしてこの道60年の看板娘がいた。
この道60年の看板娘のストーリーを語り出すと、ぶっちゃけ連載枠に収まりきれなくなるので割愛させていただきます。
ワトソン君は器用にうちわでアインを扇いでいる。
「日射病だにゃ」
「ボクの脳は超高性能CPUを積んでるからね、熱にとっても弱いんだ」
汗を拭ったアインはそう言いながら白衣を脱いだ。その下にはまた白衣を着ていた。暑くて誰もそこにはつっこまない。
ミユがサイダーのビンをアインに手渡した。
「これ飲んで頭冷やして」
「バイト君、気が利くね。だからって給料アップはしないからね」
「……人の好意を素直に受けれないわけ?」
「ただより高い物はない。これは名言だと思うね」
とか言いながらサイダーをちゃっかり飲むアイン。
プハーっとまるでビールを一気飲みしたオッサンのごとく、アインはサイダーを飲み干すと、急に瞳を丸くした。
「そうだ、ボクのフィギュアは!」
そのクエスチョンにワトソン君がアンサーしてくれた。
「カメラもゴ○ラも海に帰ったにゃ」
「そんな……ボクのフィギュアが……」
肩をガックリ落とすアイン。
てゆーか、あの二大怪獣が海に帰ってしまうなんて、この話の冒頭の前フリ的展開はムダ?
怪獣大戦争も繰り広げられず、ミユVS怪獣軍団の戦いも行なわれず、なんのために怪獣が出てきたのみたいな……。
しかも、ミユVSカメラのリベンジマッチすらない。
壮大な前フリと見せかけて、壮大なフェイク。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)