科学少女プリティミュー
第3話_レイディスコーピオンだよプリティミュー!
冬だ、海だ、常夏だ!?
「これは収録された映像ではありません、生放送です!」
と、ズラ疑惑のあるアナウンサーは熱弁して、自分の腕をバックの海に向けた。
白い砂浜と青い海、サンサンと輝く太陽。
ビーチで日光浴をする人たち、海に腰まで浸かってはしゃぐ恋人たち、小さな子供が砂でお城まで作っている――冬なのに。もちろんみんな水着だ。
「決してこれは極寒の中で我慢比べをしているのではありません!」
夏以上に暑苦しいアナウンサーはスタッフからカキ氷を受け取って、ひとり早食い競争をはじめて1秒03のタイムで完食した。世界記録は及ばない。
「このとおり、カギ氷も美味しく食べることが……」
ぎゅるるるぅ〜。
お腹が悲鳴をあげて、急にアナウンサーの顔が真っ青に。その映像をテレビで見ていたアインが叫ぶ。
「きっとシロップがブルーハワイだったから顔が青くなったんだ!」
「そんなわけないにゃ〜」
呆れ声のワトソン君のツッコミ。
アインは指を横に振って、チッチッと舌を鳴らした。
「わかってないねワトソン君。ミカンを食べると手を黄色くなるのと同じ原理さ」
「それとこれは違うにゃ」
「どう違うか科学的に説明して欲しいものだね」
「だってブルーハワイを飲んでも顔は青くならないにゃ」
「わかってないね、今からボクが科学的に証明……っ!?」
テレビのスピーカーから悲鳴が聴こえて、アインは瞳孔を開いて画面に釘付けになった。
《た、大変です、海の中から巨大な影が!》
アナウンサーのドアップから映像がパーンして、逃げ惑う人々と波立つ海を映し出した。
巨大な波を従えて、三角頭の影が砂浜を覆った。
海の中から白くて長い吸盤付きの脚が何本も伸びる。この焼いたらとっても美味しそうな脚はまさか……。
イカだ!
その映像を見たワトソン君はゴクンと生唾を飲んだ。
「美味しそうだにゃぁ」
アナウンサーは危険を顧みず、自ら巨大イカに突撃取材を試みた。
《海から突如巨大なイカが現れました! 果たしてこのイカはどこから来て、なんの目的で我々の前に現れたのでしょうかッ!》
巨大イカの大きさは胴体だけでもアナウンサーの2倍以上ある。脚まで入れたらどのくらいあるか計り知れない。
アナウンサーは額の汗を拭いながらマイクを巨大イカに向けた。
《あなたはいったい何者なのですか!》
もちろん返事などなかった。
《どうやらこのイカはシャイなようです。他の質問をしてみましょう。恋人はいるんですか?》
その質問を浴びせた瞬間、長い脚がアナウンサーに襲い掛かってきた。
咄嗟にしゃがんだアナウンサーだったが、その頭から髪がなくなっていた。
しまったズラを取られた!!
巨大イカの吸盤に奪われたカツラ。しかも、そのカツラからお札がバラバラと舞ってくる。なんとアナウンサーはヅラの中にへそくりを隠していたのだ。
お茶の間にヅラまでバレて、へそくりの隠し場所までバレてしまった。
ズラが取れてしまったら開き直るしかない。アナウンサーは一皮向けてプロ根性を見せはじめた。
《なんと凶暴なイカなのでしょうか! 30万円した私のズラを奪うとは、盗人の才能もあるようです!》
なんかコメントが滅茶苦茶だった。
しかし、使えないアナウンサーを差し置いても、アインはテレビに釘付けにされた。
そして、さらなる衝撃がアインを襲う。
《なんですかあれは!》
アナウンサーが海に指を差した。
な、なんと海から砂浜に謎の爬虫類が上陸してくるではないか!
しかも二足歩行の爬虫類だ!
いや、爬虫類というニュアンスは少し違うかもしれない。あれはゴ○ラだ!
衝撃映像はまだまだ終わらなかった。
空から何かが砂浜に向かって飛んでくる。クルクル回転するあれは……カメだ。カメの甲羅が回転しながらやってくる。
しかもその甲羅の上に一眼レフのレンズを乗せている。これってまさか……?
「カメラだ!」
アインが歓喜の声をあげた。それはプリティミュー第1話に出てきた珍獣の名だった。
砂浜に次々と現れる怪獣たち。
怪獣大戦争がはじまるというのか!
アインはメガネの奥で目をキラキラ輝かせた。
「今すぐ行くよ! ワトソン君、バイト君に電話だ!」
アインの目的はただひとつ、世界にひとつだけのフィギュアを集めるため。
そんな趣味のせいで、今日もミユは苦労をさせられるのだ。
真っ赤なオープンカーが海に向かってレッツゴー!
運転しているのは……なんとアインだった。正確にいうと、アインが背負っているランドセルからマジックハンドが伸びて、それがアインの代わりに運転している。
「アインって免許持ってるの?」
と、聞いたのはミユだ。
わけもわからず後部座席に乗せられ、どこに行くかも聞かされていなかった。半分拉致られた。
「免許なんか持ってるわけないじゃないか」
あっさりアインは言った。まあ運転しているのはマジックハンドだ。たぶん無免許運転にはならない、たぶん。
けれど、運転席にアインが座っていることには違いない。巡回中のサツに見つかったら、やっぱり尋問されそうな予感だ。だってアインの見た目はどう見ても小学生だ。
車に乗っているのは小学生と中学生と、ネコ。うん、問題ない♪
とにかくポリスに見つからなければいいのだ。良い子は決してマネしちゃいけません。
オープンカーは国道を南下し続け、ミユはどこに行くのか察しがついた。
「もしかして海に行くの……真冬なのに」
「アタリだにゃ」
ワトソン君が言った。当たっても賞品は出ない。
ミユは陰鬱な顔をした。
「なんで海なんか行くの……真冬なのに」
「今日は――」
ワトソン君が今日の趣旨を説明しようとした瞬間、アインのマジックハンドがワトソン君の頭を引っぱたいた。そして、アインがすぐさま口を開く。
「今日はただのレジャーだよ、あはは。日ごろの疲れを癒してもらおうと思ってね」
ミユが座席の間から身を乗り出して、じと〜っとした瞳でアインの横顔を見つめた。
「普段どれだけあたしのことをヒトと思って扱ってないと思ってるわけ? それを今日は疲れを癒せだって……絶対に裏があるんでしょう?」
無謀だと知りながら敵に突っ込ませるわ、身体を勝手に改造して爆弾まで仕掛けるわ。でも、改造されたおかげでバストサイズはBからDに豊胸した。
アインは基本的に利己主義だ。そんな人間の言葉を信じられるはずがない。
「裏なんてないさ」
絶対にアインは目線を合わせないで言った。
まあ、行けばわかるだろうと思ってミユは後部座席に背を付けた。
「レジャーねぇ。しかもなんで冬の海なの。どーせなら彼氏と行きたかった」
と愚痴を漏らすミユ。
車に乗ってるのはガキとネコ。
ここでワトソン君が訊いてきた。
「ミユは彼氏がいるにゃ?」
「……いるに決まってるじゃない!」
声をあげて息もあげるミユ。必死な感じが彼氏ナシと物語ってる。いたとしても妄想の王子さまだ。
ミユが墓穴を掘ったところで、海岸の風景が徐々に見え来た。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)