科学少女プリティミュー
「ケケケッいかにも、わしの仕業だ。その患者とやらは、あと一歩で逃げられたOLだな」
「やっぱりね」
自信満々の笑みを浮かべるアインにミユが質問。
「なんでわかったの?」
「天才というのは無意識のうちに森羅万象を読み取る力があるんだ。だから勘が鋭くなる。つまりね、世の中の現象は全て繋がっているということさ。数値こそがこの世の心理、計算で導けないことは、この世に存在しないんだ。でもね、導けるといっても、ほとんどの現象には膨大な計算が必要なわけで、佐藤さんちの来週の食事を当てろと言われても、計算しているうちに来週になってしまう可能性も大いになるけどね。ちなみに佐藤さんちの今日の晩御飯はカツカレーらしいよ」
もうすでに誰もアインの話を聴いていなかった。でも、佐藤さんが誰なのかは気になる。
ミユは蝙蝠伯爵の戦いが今まさにはじまろうとしていた。
けど、できれば戦いたくない。ミユは。
なのでまだまだ粘ってみる。
「ええっと、まだ質問があるんだけど、どうしてメグちゃんをさらったりしたの?」
「あのお嬢ちゃんはわしのプラントになるのだ」
「プラント?」
「わしの食事を栽培する人間植物じゃ」
ミユはまだ首を傾げている。
わかりやすく説明すると、カワイイ女の子をさらって、植物人間にして、血の実を収穫して食べるということだ。
まあ、なんておぞましいんでしょう。
蝙蝠伯爵がロリコンで眼鏡っ子好きだったなんて、おぞましい。
老人のクセにロリコンだなんて、不潔!
眼鏡少女メグがお爺ちゃんに食べられちゃう!
なんとしても助けなくては!
でも、ミユは素手だった。
やっぱり素手じゃ戦えない。
そこにグットタイミングなことが起きた。二本足で立っているワトソン君から、ミユにマジカルハンマーが投げられた。
ミユは見事マジカルハンマーをキャッチゲットした。これさえあれば、たぶん、きっと、おそらく100人力だ。
見た目はただのオモチャにしか見えないピコピコハンマー。しかし、その実体は驚くなかれ、自称天才科学者アインが発明したウェポンなのだ。
このマジカルハンマーで攻撃された怪人は、なんとフィギュアになってしまうという恐ろしい武器。科学者のクセに、物理法則を無視した魔法としか思えない現象が起こる、マジカルなハンマーなのだ。
マジカルハンマーを構えたミユ。その手が汗で滲む。冷や汗とかそういう類ではなくて、恥ずかしくて身体が火照って出た汗だ。
白いゴスロリ姿にピコピコハンマーという姿は、ただのコスプレにしか見えない。その上、マジカルハンマーで敵を叩くときに、『マジカルハンマー・フィギュアチェンジ』などというセリフ(呪文?)を言わなくちゃいけない。
そんな趣味がないミユには恥ずかし過ぎる行動なのだ。
マジカルハンマーを握ったまま、その場で立ち止まっているミユにアインから催促。
「バイト君、6時からアニメがはじまるから手短にやっつけちゃってくれたまえ」
ミユの決死の戦いよりも、アニメ優先。どーせ録画しているクセに、オンタイムで観ることにアインはこだわっている。
もうこうなったらミユはヤケクソだ。100万円と自分の命を守るため、ついにミユは蝙蝠伯爵に立ち向かった。
「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」
大きく振りかぶったミユのハンマーは空振った。パンチラチラリン♪
空振りをした反動をしたミユが尻餅を付く。まさか、恥ずかしいセリフを叫んでミスるなんて、信じられない。と言った目でミユは上空を見ていた。
夕焼け空をバックにして漆黒の翼を広げる蝙蝠伯爵の姿。ミユの攻撃を空に飛んで回避したのだ。
「空飛ぶなんてズルイ」
呟くミユ。
続けてアインも呟く。
「上空戦を考慮にいれるの忘れてた」
自称天才のクセに忘れるなんて、やっぱり『自称』だ!
考慮に入れるのを忘れていたということは、それすなわちミユに空を飛ぶ術がない。蝙蝠伯爵と戦えないということだ。
またまたミユピンチ!
上空にいる蝙蝠伯爵に、文字通り手も足も出ない。
こうなったら、手と足以外を出すしかない。
ミユは自分の靴を脱いで蝙蝠伯爵に投げ付けた。
「降りてきてよ!」
ある意味足で攻撃するも、軽く靴はかわされ、やっぱり手も足も出ない。
蝙蝠伯爵は長い牙を覗かせて嗤っている。
「ケケケッ、手も足も出ないようだな」
そんなこと言われなくてもわかってる。だからクツを投げたのだ。
「うるさい、さっさと下に下りてきて勝負してよ!」
ミユは怒鳴って見るが、効果は薄く蝙蝠伯爵はあざ笑っている。
「ならば降りて進ぜよう」
急に蝙蝠伯爵が滑空してミユに襲いかかる。
風のように襲い迫る攻撃をミユは必死に避けた。運動神経はミユの自慢なのだ。
しかし、そのままカウンターを食らわそうとミユはするが、すぐに蝙蝠伯爵は上空に逃げてしまった。
「この卑怯者!」
ミユの罵声は虚しく響いただけ、蝙蝠伯爵にはノーダメージだった。
「卑怯とは失礼な、羽を有効に使った戦法じゃ」
「伯爵とかいう偉そうな名前のクセに、女の子をイジメるような戦い方をするなんて卑怯よ!」
「ケケケッ、可愛い娘を苛めるはわしの趣味じゃ」
サディストだ。ロリコンのサディストだ。卑怯者でロリコンのサディストだ。卑怯者でロリコンのサディストのお爺ちゃんだ。
「絶対あたし負けたくない」
ミユは心に強く誓うのだった。
そんなころ、アインはなにをしているかというと、地べたに座ってノーパソでテレビを見ていた。
「宝石強盗だって、コレうちの近くだよ」
ニュース番組に夢中だった。
ダメだ、アインったらまったく役立たず。
そんなころ、ワトソン君なにをしているかというと、ちょうちょを追いかけて遊んでいた。
ダメだ、アイン以上に使えねぇー。
もうミユは独りで戦うしかない。
自分って不幸なのかもと思いはじめたミユに、周りの野次馬から声援が!
「頑張れミュー!」
「あんな怪人コテンパンにしちゃえ!」
「今日の下着何色ゲヘゲヘ」
若干不純物も混ざっていたが、ミユは胸に熱いものが込み上げてきた。
「そうだ、あたしは独りで戦ってるんじゃないんだ。あたしにはみんなついてる!」
その勢いでミユは蝙蝠伯爵に立ち向かおうとした。
が、ミユの視線は上空。
やっぱり空飛び相手じゃ手も足も出ない。一気にボルテージ低下でヤル気減退。
落ち込むミユに声援が飛ぶ。
「頑張れ!」
「胸はなにカップ? ゲヘヘ」
「立つんだジョー!」
不純物が増えている。これじゃヤル気もまったく出ない。
ついにプリティミューは戦いに敗れてしまうのか!
ついにってほど怪人と戦ってないけど。これで2人目だ。
上空から再び蝙蝠伯爵がミユに襲い掛かる。
ミユは決死の覚悟を決めた。
逃げずに迎え撃つ!
「マジカルハンマー・フィギュアチャンジ!」
蝙蝠伯爵はミユの目と鼻の先だ。
そんな状況下で、献血車から女の子が降りてきた。
「センパイ! やっぱり助けに来てくれたんですね!」
メグに声をかけられビックリドッキリミユは振り返った瞬間、回した腕が蝙蝠伯爵の顔面に炸裂。
作品名:科学少女プリティミュー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)