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ゆうしゃのはなし

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 僕は知らない、というよりも、皆の事で知らない事のほうが多い。
 というか、食べ物の好みだの異性のタイプだの、戦う時の癖だとか苦手な魔法とか苦手なモンスターとか。
 ああ今こうゆうこと考えてるよなあとか、こうゆう表情の時には本当は怒ってるんだよな、とか、
 ああ、いま何か隠したがってるな、とか。
 そんなものは沢山しっているけれど、多分この旅で一番大事なんじゃないかって部分を僕は彼らのうち誰一人のものも知らない。
 つまりはそう、なんで魔王討伐なんて酔狂な勇者ごっこに名乗りをあげたか、とか。
 もちろん話したくないことは誰にだってあると思う。
 僕だってそうだし。
 大体、なし崩しとはいえ僕の事情は皆知っているのに僕だけ何も知らない。
 別に不満はないし、ずるいとかは思わない。
 けれど、まあなんというか。
 寂しいとかちょっと思っちゃったりするわけで。
 おいそれと人に話せるような事情を抱えていないことくらいは分かる。
 他の立候補した人たちみたいに、力を示したいとか名を挙げたいとかそんな理由じゃなくて、もっと後ろ暗い理由があるんだろう。
 そんな人たちだから後ろ暗い理由のある僕を仲間にしてくれているんだと思う。
 ふと騒がしさが消えているのに気がついて振り返れば、あの人を中心に他の仲間が集まって真剣に話をしている。
 地図を囲んでいる所から、今後の旅の進路を決めているのだろう。湿地帯は避けたいけど、とか、大回りどころか船で回り込むことになるな、とか聞こえてくる。
 あの人はきっと、みんなの事情に通じているのだろう。道中に聞いてみれば、他の仲間たちもみな僕と同じで、あの人に助けられてそのまま雪崩れ込むようにあの人について旅をしているらしい。
 じゃあ、あの人の事情は誰が知っているのかな、と思ったけれど、僕は聞いたりしない。
 相手の中に踏み込んで何か言葉を掛けられるほど僕は明晰ではないし、場数も経験も、かけて上げられるそんな言葉自体もしらない。
 だから僕は待つ。
 誰かに話さずにはいられない程になった誰かのために、僕はただ待つ。
 聞くことしかできないよ、貴方を軽くする言葉は持ち得ませんよ、と暗に示すそれは、ただの保身だ。
 待ってるくせに話してくれないと寂しがる、厄介なヤツだな、と少し自嘲した。
 ぽかり、と浮いてきた人参を、おたまでぐいと押して底に沈めた。

作品名:ゆうしゃのはなし 作家名:ホップ