小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ゆうしゃのはなし

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
むわ、と広がる水蒸気を思わず吸い込んでしまい、僕はけほっと小さく咳き込んだ。
 大丈夫か、と後ろから問われて、それに頷いて返す。
 いい匂いだな、と彼女…彼?は、ふっとほほえんだ。
 その笑い方は様になっていて、年齢という壁を差し引いても、男の僕よりも数倍も男臭かった。
 彼と指すべきか彼女と言うべきか、とりあえず今は彼女として、彼女はとにかく男として申し分がなかった。
 いや、言葉は間違っていない。
 断じて間違ってなどいない。
 彼女は彼女であるのに、どんな彼よりも…たとえば食事の支度を手伝いも気遣いもしない他の仲間の彼ら…よりも、何倍も何十倍も申し分ない程だ。
 身を包む男物の服は、決して豪壮なものではないはずなのに、優雅さが滲み出ている。
 それはもしかしたら彼女の所作によるものかもしれないけれど。
 ぐるぐると鍋をかき回す。
 加えるべく野菜を刻み始めれば、君は本当に料理がうまいよな、と感心した声が振ってくる。
 彼女の壊滅的な料理を思い出して、僕はちょっと笑った。
 それを察したのか、少し拗ねたように口をつぐんだ彼女に慌てて謝った。
 彼女の所作は優雅で、洗練されている。
 しようとしているのではなく、染み付いているように見えた。
 ばさり、と野菜が音を立てて鍋に無造作に落ちた。
 僕は一度も彼女にものを尋ねたことがない。
 意識してやっている訳ではなかったけれど、何となく。
 何となくただ、聞かれたくないんだろうな、と思ったから。
 だって良家のお嬢様みたいな動作をするのにいやに戦闘に慣れていて、おまけに男装までしているときた。
 これはもう何かあるとしか思えない。
 むしろこれで、何もありません趣味ですと言われたら僕は取り合えず人間不信になる自信がある。
 いやいやそんな自信はいらないけど。

 それにあと一つ付け加えるなら、というか前に挙げた理由よりも一番これが問題なんだけど、僕は一度うっかり耳にしてしまった彼女の家名に覚えがあったのだ。
 なぜ彼女が耐えた筈のその家名を、それほど有名でもないその家名を名乗ったのか、真偽は別としても、それすらも僕は知らない。

作品名:ゆうしゃのはなし 作家名:ホップ