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狼の騎士

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「それに、今回おまえが成したことを考慮すれば、陛下はおそらく騎士となるおまえに、最下位の称号はお与えにならないだろう。ウォールスは頂けるはずだ」
 ウォールス。確かそれは、最も低い位であるセンティーツの、一つ上を示す宝石の名だ。ほとんどの騎士は、まず薄赤い宝石をその胸に飾ると聞いた。それよりも上の階位で、しかも唯一のジルデリオンの騎士となる。ゼルがこの大貴族をひどく嫌っているという点を除けば、この上なく見事な褒賞なのだ。
 騎士とて立派な貴族階級だが、ゼルがその身を置きたいのはさらに上の階位だった。これを逃せば、上位の貴族どころか騎士への道も絶たれていまう。
 再び表情を消していたフェルティアードを、ゼルはもう見上げていなかった。思案に伏せられた頭を、男は静かに見下ろしている。
 これから生きていく中で、自らの意見と合わなかったり、反する者に会うのは避けられないだろう。それが自然だ。ならば、彼がその一人目ではないだろうか。
「どうする」
 そんな声を聞いても、ゼルは焦らなかった。既に腹は決めていた。この男につくことが夢への最初の試練と考えるならば、楽なものではないか。
 顔を上げ、真っ直ぐに大貴族を見る。二つの青色は、いささかも揺れてはいなかった。
「なるよ。あんたの騎士に。あんたがおれを貴族にしてくれるなら」
 重々しく吊り上がった眉はそのままに、フェルティアードは口だけを笑いの形に歪ませた。
「おまえがその誠意を見せるならな。貴族たる器でないと判断したら、わたしは遠慮なくおまえを切り離す。そのつもりでいろ」
 フェルティアードはそう言い残し、苛立ちのにじんだゼルの顔色を認めることなく背を向けてしまった。彼は紋章のない扉へと一人で歩いていく。
「お、おい、どこ行くんだよ。陛下に会うんじゃないのか?」
 取っ手に手をかける寸前で、男は振り向いた。ゼルも早足の速度を落とす。
「まだ時間ではないと言ったろう。おまえの心配事を片付けるのが先だ」
 おれの心配事? 口にする前に、フェルティアードは扉を開け外に出て行ってしまう。
「何をぼうっとしている。おまえがいなければ話にならんのだぞ、ゼレセアン。早く来い」
 意外過ぎる文字列は、ゼルの歩みを妨げさせた。ゼレセアン、と言ったのか? 今、あの男は。
 当の本人は特に気にした様子もなく、ついて来ないゼルに呆れたのか、靴音を響かせ階段にさしかかろうとしていた。
作品名:狼の騎士 作家名:透水