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狼の騎士

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 フェルティアードは熱でもあるのかと言わんばかりに、あからさまに眉をひそめる。ゲルベンスは涼しい顔で、目についた机のほこりを払った。
「ヘリン? 一体どうしたんだ」
 それはこっちの台詞だ。おまえはまだ諦めていないんだろう。この地位を手放さないのが何よりの証拠だ。その気になれば、おまえは国王陛下のすぐそばまで行けるっていうのに。
「レイオス」
 艶のある木目に手をつき、ゲルベンスは親友の目を真正面から見据えた。沈んだ声は喉を震わせ、目の色と同じように締まった面で言葉を紡ぐ。
「おまえは見えなくなってるだけさ」
 釈然としない様子で見つめ返すジルデリオンに、ヴェルディオは唇だけに笑みを乗せて、短い別れのあいさつと共に部屋の扉へとつま先を向けた。退室する間際、偉丈夫は「用心しとけよ」と、一番伝えたかったはずの一言を残していった。
作品名:狼の騎士 作家名:透水