恋音
「ふー…」
風呂につかりながら長いため息を零す。
結局、俺泊まる事になっちまってるし。
まぁ、嬉しくないわけじゃない。
ただ、多分アイツ俺に「憧れ」を持ってるっぽいんだよな。
優等生にとっちゃヤンキーなんて珍しいだろうにゃ。
近くなったといえば近くなったが…。
「はぁぁー…」
また長いため息を零す。
「鈴暮?」
「いっ!?」
ふいに夏越の声がして驚く。
心臓に悪いな!おい!!
「い?いっ何?」
「あ、いあ、なんでもねぇよ…」
「うん?ならいいけど…」
「で?なんのようだよ?」
「あ、うん、タオル洗濯機の上、置いとくから。」
「あぁ、サンキューな」
「うん……」
会話は終わった…はずだが、
夏越が風呂の扉の前から動かない。
「…おい」
「……」
「お前、なにしてんの?覗き?」
「え、あぁ、ごめん…ボーッてしてた…」
「ふーん…あっそ。」
「……うん」
おい、
またかよ。
本当になに考えてるか分からん。
「……鈴暮…」
「…あんだよ?」
「………入って、いい…?」
「はぁ!?」
夏越の言葉に思わず立ち上がってしまった。
てかコイツ何言ってんの?
まさか、俺バレた?
それとも他に…。
「ちょっ…待て!俺出るから!!」
「え?いいよ、俺の家の風呂でかいし」
「いあいあいあ、そうじゃなくて!」
「なんだよ?何かダメなの?」
「っ…俺、洗い終わったから出る」
「ダメ、風邪引くよ?あと5分はいってな。」
「まっー…!!」
夏越が入ってきた瞬間、思わず湯船にしゃがみ込んだ。
まずいまずいまずい!
非常にまずい!!
腰にタオルを巻いていたけど、そーゆう事じゃなくて!
精神的に!!
「…鈴暮の肌、以外に細くて白いな。」
「なっ…に、言って…」
「本当の事だろ」
奴の手が俺の肩に触れる。
それだけで体は異常に反応する。
やばい、死ぬかもしれない。
「鈴暮、顔赤い?大丈夫か?」
「ぁ…、出る……。」
「え?」
急いで立ち上がって風呂場から出た。
夏越がなにか言いかけていたが、もう無理だ。
バスタオルを持ったままリビングに座りこんだ。
「……やべぇ…」
アイツの…身体なんか見ちまうから…。
体を拭いて夏越が用意してくれた服に着替えた。
パーカーに半ズボンという、なんともアイツには似つかわしくない格好。
てかアイツでかいな…。
俺もそんな小さい方じゃないのにかなりブカブカになる。
しばらく風呂場からのシャワーの音を聞いて大人しくしていた。
こうしているとなんだか…。
「眠みぃ……。」
口に出した事に気づかないぐらい眠い。
でも、腹減ったし。
ここアイツの家だし。
迷惑あんまかけたくないし。
でも…………。
「眠いの?」
「……うん…」
「ご飯は?」
「……食いたい…」
「じゃあ寝るなよ?」
「…うん……っは?」
思わず思いっきり顔を上げた。
夏越がニコニコしながら俺の顔を掲み込んで見ていた。
やべ…気づかなかった…。
「なに食べたい?」
「…何でもいい」
「了解」
夏越が水色のエプロンをまいて、キッチンへ台所へ向かう。
後ろ姿をボーッと眺めていたらピロリローン、と音が遠くから聞こえた。
「鈴暮の携帯じゃない?」
「あ、そうか。」
「テレビの隣にあるよ」
「おー…」
パカッと開いて画面を見るとメールが一件届いてる。
しかもまったくしらないメールアドレスだ。
不思議に思って添付ファイルを開いた瞬間、凍りついた。
「……ぇ」
そこにはどう見てもさっきの、
媚薬を飲まされて感じてる。
そんな顔した俺の写真が出てきた。
撮られてた…?
思わず体が震える。
そんな俺に気づいた夏越が心配そうな顔してよってきた。
「鈴暮?どうかしたのか?」
「ぁ…いあ、別に…」
とっさに見られちゃイカンと思って携帯を閉じようとしたが。
取られた、めちゃくちゃ強い力で取られた。
画像をまじまじと見てる、俺の感じてる顔の。
恥ずかしくなり顔を下に向ける。
「これさっきの奴等から?」
「………多分」
「いつ撮られたか分かる?」
首を横に振った。
「…こいつ等、マジ死にてぇらしいな…」
「え?」
今、ボソッとこいつには似つかわしくない台詞が聞こえた気がした。
だが夏越はニコッと笑って「なんでもない」なんて言ってきた。
まぁ目が笑ってないけどな…。
「この事は後にして、ご飯食べよう。」
「あ…あぁ。」
とりあえず従っとく。
コイツ意外に怖かったからな。
怒らせない方が良いだろう。
目の前に出てきた美味そうなオムライスをただただ無言で食った。
カタカタカタカタカタカタ…。
「………」
カタカタカタカタカタ…。
うぜぇな…。
うぜぇ音の正体はPCのキーを叩く音。
それは無言で叩いているのは夏越。
俺が飯食い終わった後に寝ると言ったら、
コイツ自分のベットで寝ていいとか言いやがった。
言い出すと頑固な奴だから、俺は諦めて奴のベットで眠る…つもりだったのに。
奴の部屋にはベットと机、かなりでかい本棚にPCまであった。
親は?とは聞かなかった。
部屋とか飯食った時の食器とか見る感じ、一人暮らしっぽい気がする。
とりあえずさっさと寝ようとベットに入った瞬間、奴の匂いがして、
一瞬固まるが、とりあえず潜った。
別に頬擦りとかしてないぞ、うん。
そんな事してたら奴が机のイスに腰掛け、PCを立ち上げなにやらカタカタしはじめた。
最初は気にならなかったが、だんだんうざくなってきた。
チラッと時計を見ると。
1:47
おいおい、
コイツ何時まで起きてるつもりだよ。
それでもカタカタ音は止まらない。
とうとう我慢の限界がきた。
「…おい」
「……………」
「おい、きいてんのか」
「あ、ごめん、何?」
「お前、寝ないの?」
「え?寝るよ」
「いつだよ」
「コレ終わったら。」
「なにしてんだよ」
「見る?」
「……見る」
ベットから起き上がって、奴の隣からPCを覗き込んだ。
「……んだこれ」
「医学の問題文」
「…ふーん」
「後ちょっとだから、待ってて」
「…………………」
俺は無言でキッチンに向かった。