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恋音

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「な…で、おまえっ…」


よく動かない体を何とか起きあげ、口を開く。


「鈴暮、迎えに来たよ。」
「は…?」



顔は笑っているが目が笑っていない。
怖えぇよ…。


「とりあえず…」
「…?」


夏越がスッと手を上に掲げ、そのまま思いっきり横に伸ばした。

すると…


「がぁっ…!」
「不意打ち?卑怯じゃない?」


後ろから角材で夏越を殴ろうとしていた奴が顔に夏越の肘がモロ当たり倒れた。
俺はただ、ホーゼンとそれを眺めてるしかできない。

その間も夏越はどんどん奴らを倒していく。
なんつーか、…アイツ、めちゃくちゃ強えぇじゃん。





「鈴暮、大丈夫?」
「え、あ…あぁ」



気が付いた時には夏越の足元にボッコボコになってる奴らが転がっていた。

おいおいおいおい、おかしだろ!
学校一の優等生君がこんなに強いわけ……あった。


夏越が俺の手錠に触れてそのまま

ベキンッ

折りやがった。
真っ二つに。



しばらく呆気に取られながら固まってたら、ふいに奴が上着を脱ぎ始めた。



「なにして…!」
「うん?君そのまま帰れるの?」



言われて今の自分の状況を思い出す。

衣服は乱れてるし
さっきよりはマシだけど、まだ媚薬が抜けきっていないし
ぶっちゃけこのまま歩けるかすら不安だし


でも、これ以上コイツの傍にいたら色々と自分が抑えられそうにない。




「あー…じゃあ、上着だけ借りるわ…」


そろそろと腕を伸ばしたが急に捕まれ抱きかかえられた。横抱きに。


「なにすんっ!」
「君立てないだろ、それにー…」
「あぁ?なんー…ひぁっ!?」


腰の辺りを撫でられ変な声が出た。
あぁ、死にたい。

恥ずかしさと情けなさに泣きたくなり両腕で顔を隠す。
奴の顔が見えないけど、てか今は見たくない。



「鈴暮、諦めた?」
「………」
「なるべく人のいない道で帰るから恥ずかしいなら上着、頭まで被ってて。」
「…………なんで来たんだし…」
「え?」


ふいに本音が出てしまった、
どうせこのあとは家に帰って、その次はもうただのクラスメイトのなるんだろ。

そんな分かりきった考えが声になってしまいそうだった。


しばらく沈黙が続いたがふいに体が揺れ始めた。
夏越が歩きはじめたんだろう。
顔を隠してるから見えないけど分かった。


歩いてる間、俺らは一言も話さなかった。




























「鈴暮、付いたよ。」


ふいに声をかけられ、顔を上げると笑顔の夏越と目が合った。
すげー恥ずかしくなって目を逸らす。

けど夏越はまだニコニコしながら俺を見てる。
何なんだよ…。



なんとか視線から逃れようと横を向いた瞬間
俺は固まった。



「なにココ」
「うん?俺の家だけど?」



俺の家だけど?じゃねーよ!!
なんで、お前の家にいるんだし!
あと、このマンション超高級マンションつってテレビに出てたやつじゃん!!

頭ん中でいろいろ突っ込み少し落ち着く。
いあ、そんな落ち着いてないけど。


ふいにソファの上に下ろされた
瞬間、腰の辺りが熱く疼いた。

あー…、やっぱまだ媚薬抜けてないな…。

はぁ、とため息を一つ零すと夏越が台所からコーヒーをもって現れる。



「はい、どうぞ。」
「…どーも。」


コーヒーを飲もうと腕を伸ばした所で固まった。

理由は、まぁなんだ…その……ブラックはちょっとな、うん。



「鈴暮?どうかした?」
「………別に」
「…ミルク入れる?」
「……………」
「……なにこの手?」
「…………」
「………ぶっ」
「んなっ!?」


急に夏越が口元を抑えながら笑い出した。

コイツっ……マジ死ね。
本気でこの瞬間そう思った。

俺が機嫌悪くしたのに気づいたのか、夏越が涙を拭きながら謝ってきた。



「ごめんごめん、…ただ鈴暮すっごい可愛いかったから、つい…」
「…はぁ?」
「あれ?変だった?」


思いっきり変だろ。
なんなんだよコイツ。
男相手に、しかも俺なんかに。

めちゃくちゃ睨んでやったけど奴はへらへら笑っている。
可愛い……とか思ってない。



「鈴暮、風呂入る?」
「は?」
「だってあんな事されて気持ち悪いだろ?」
「あ、あー…」


そうだ、俺。
襲われかけてたんだ。

すっかり忘れてた。
しかも媚薬も気づかないうちに抜けてたらしい。



「いいよ、俺帰るし」
「ダメ」
「…は?」
「帰らせないよ」
「は?何言ってんだよ」
「今日は止まっていきな、嫌、泊まれ。」


命令口調で言われイラッときた。
なんだコイツ、何様のつもりだよ。


「なんで泊まんなきゃいけねぇんだよ」
「また襲われたらどうすんの?」
「…そん時は何とかする。」
「さっき諦めてたじゃん」
「うるせぇな、俺の勝手だろ。」
「…天然かよ」
「はぁ?お前さっきから何なんだよ、いきなり助けにきたり」
「クラスメイトを助けるのに理由なんてナイだろ」
「俺は友達でもない奴、助けねぇけどな」


だんだん、イライラしてきて言葉が止まらなくなる。



「…鈴暮は、俺の事……嫌い?」
「っ…何だよ、いきなり……」
「良いから答えろよ」

またイラッときたが何とか耐える。


「…別に、どっちでもねぇし。」
「………じゃあ、友達ならなれるかな…?」
「は?あぁ、…知るか」
「そっか……そうなんだな」
「なんだよ…」
「じゃあ友達として、泊まっていけ。」


だから何でそうなる!!!

だんだん馬鹿らしくなってきた。
コイツなに考えてんのかサッパリ分からん。


「着替えは俺の着れば良いからさ」
「………」
「な?お願いだ、頼む」
「………風呂どこだよ…」


折れてしまった。





作品名:恋音 作家名:れん