春は修羅
生きるとは何か。玉鹿石と人食い川を交互に見つめる、金属の柵を握った手からは錆の匂いがした。鉄の錆。私の体を流れる血と同じ匂い。赤茶けた錆と泥のついた掌をぢっと見る。ちぎるように齧ったら、温く掌が濡れた。
『身から出た錆』
幾日かぶりに電気がついたある日の夜。ニュース番組の日付を見て、とっさに思い出したのはあの人のこと。部屋の中で電波を探してうろついて、装飾のない簡単な文面を送信する。「誕生日おめでとう」、どんな日でも誰かが生まれた日なんだよね。
『きみの命に乾杯しよう』
絵も、歌も、狡い。目で、耳で、誰かに伝えられる。何を考えなくても、自動的に、受動的に伝わることがある。文字列を振り返りながらため息、傍らの本を閉じる。ただの逃げだと分かっていても、小説ではできないことに、心の奥が、痒い。
『スクロールの指先』
何をするにも一苦労。いつも使ってた道は使えない。知っているけど知らない街を赤の愛車でぐるぐる巡る。景気づけに鳴らしたベルは2週間前と同じ、2週間前と何ひとつ変わらない私の世界にはまっさらな2人がいる。現実味、どこ行った？
『変わらない空と割れた海』
ばーか、ぽつり。ばーか、ぽつ、ぽつり。ばーか、ぽつ、ぽつ、ぽつり。・・・ばーか、ぽろり。ぽろ、ぽろ、ぽろり、
『ねぇ』
少しやわらかく砕けるチョコレイト。安っぽい砂糖の甘さが歯の裏に残って、安っぽい涙の思い出が目蓋の奥から込み上げる。慌てて口をつけたカフェオレの苦みの中に、くしゅり、浮かべたマシマロはピンク色。椅子ごと浮かぶ、そんな25時。
『おやすみセンチメンタル』
あー、あー、マイクテス、マイクテス。本日は晴天なり。本日も晴天なり。え？昨日まで雨だった？や、そんなことはどうでもいいんだって！あー、あー。聞こえてますか？大丈夫？オッケー？・・・ええと、あのー、すきです。・・・あ、3年4組26番、
『きみの電波も乗っ取って』
酔ったふりして手を引いた。ふれた指先を辿ったら傷ついたような顔をしたきみと目が合って、ああ、後悔した。
『Bitter』
愛よりも深い青
きみに流れる赤
酔い醒ましの紫
笑顔と弾ける緑
帰路の影の黄色
ゆび先に灯る橙
揶揄う頬の桃色
翼の生えた虹色
『空の橋8連』
泣きたいような気がした。上を向いたって何も溢れて来ないけど、もやもやと詰まった栓がゆるゆると回り出す。何もない。悲しむような出来事なんて何もなかった。だけど、悲しむような出来事が何もない、それが。泣きたいような気がした。
『幸せという不幸せ』
なんで好きになったんだろうね。ほんと言うと最初は嫌いだったんだ、いつも怒られてばっかで。それがなんでまた、あのときキスなんてしたかなぁ。血迷ったまでは言わないけど・・・魔がさした？え、同じ？ごめんごめん。・・・・今、魔がさしてもいい？
『先制攻撃』