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春は修羅

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ディスティニー、運命!なんて素敵な言葉なのかしら!あなたと私を繋ぐのは赤い糸なんてちゃちなものなんかじゃない。あなたと私は共同体、あなたは私で私はあなた!あいしてるのよ、あいしつづけるのよ、あなたをどこまでも!
『散弾銃のラブ』




きみがぼく以外のひとのために傷つくのは嫌なんだよ。きみがぼくの知らないひとのせいで傷ついてる姿をもう見たくないんだ。ぼくのことだけ見ててほしいんだよ。言いたいんだけど、言えない。言わない。ぼくのものになってよ、なんか尚更。
『ともだちフィルター』




ごめんね、とだけあなたは言った。泣きそうな顔で、苦しそうな顔で笑って。救われたそうな虚ろな目が閉じた。・・・どうしてもバッドエンドにしたいみたいね、あなたも、神も、そんなの許さない、と縋りついた私も。
『すくいたいこころ』




気に入らない。何から何まで気に入らない。頭の先から足の指の爪の先までどこまでも。醜い自分を認めたくなくて、握った拳で鏡を殴った。蜘蛛の巣みたいな罅が入って歪んだ顔が更に増えた。こんなの違う、こんなのはあたしじゃないんだ、
『たかが恋、されど盲目』




「誰も助けに来てくれないよ」口角を上げた言葉は果たしてきみに聞こえたんだろうか?ぽろりと零れた丸い水玉がふわふわ漂う。それに触れようとした指先の感触は曖昧で分からない。宇宙では、きみの悲鳴も誰にも聞こえないんだよ。
『Universe』




ルーズリーフの半分から先が進まない。頭の中には確かに浮かぶ映像、心象風景とまではいかない、妄想風景。それがどうしても文字で表せなくてバインダーを閉じた。すっかり馴染んだ140字の癖が、こんなところで影響するなんてね。
『妄想スケッチ停止なう』




ため息が出る。怠い右肩にショルダーをかけてまた暗くなった元来た道を辿る。誰もが声を大にして語る帰り道、ヘッドホンから流れる電子音にほほえんだ。全国数万人が共にした時間に、その渦の中心にいた電子音の歌姫に、ありがとうと叫びたかった。
『39today』




きみは慈しむような目で言った。「あいつのことは私が見つけてあげないとね」同い年のあいつのことを、弟のことを語るように言う。「今回はどこにいるんだろ」そんな遠くには行ってないはずだけど、と案ずるきみをまだ突き放せない。天国だよ、って。
『きみのこころがこわれませんように』




秒針の音がやたら鮮明に聞こえる、一人ぼっちの家の中。時折揺れる、一人ぼっちの家の中。スイッチを押しても何も答えてくれない、一人ぼっちの家の中。世間から取り残されたような、サンダル履きの一人ぼっちの家の中。
『さみしい』




冷たい夜の中で、声を上げて泣いている人がいた。歩く度にぱきぱき氷の音がする。遠吠えのような泣き声がしくしくと刺さる。何も言えずに母と黙って自転車を引いた。ふと見上げる、こんな時でも月は綺麗だ。冬の、幾分不気味な月だった。
『月に吠える』




落ちてきそうな月ってきみは言う。おつきさまってどんなあじがするのって本があるよね、とわたしが返す。月がぐぅんと近づいて、大きなうさぎが跳ねている。どんな味がするんだろう。チーズ蒸しパンぽいのかな。・・・どうか、落ちてきませんように。
『月に願う』




打ち明けたいのは下心、押し付けあうのは中心。見えないものはひとつの心。恋してるとか愛してるとか全部心にしまっておいて、見えないものを探り合おうよ、全部出したらもったいないから。
『こころの在処』


作品名:春は修羅 作家名:蜜井