小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

約束の場所

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 慌てて後を追い、後一歩のところで捕まえた。腕を引いた勢いでそのまま抱き締めると、小さな肩が震え始める。
「……ユウキ?」
「……お兄ちゃんじゃなくて、ボクが……」
 俺にはサッパリだ。
「……ボクが落ちれば良かった……」
「お前、何言って……」
「ボクの所為で、お兄ちゃんが……。大好きだったのに、ボクが……」
「……ユウキ……」
「……ボクが……、……殺した……」
 飛ばされた帽子。追い駆けたユウキ。ユウキを助けて、落ちてしまったユウキの兄。兄の代わりになろうとしたが、それも出来ず……。泣きじゃくりながら、途切れ途切れに聞こえたユウキの言葉。
「……ボクじゃ、“代わり”にはなれない……」
「……それで、帽子を返すって……」
 “返す”? 違うだろ。それはここへ来る為の口実。
「お前が落ちたら、お兄さんが戻ってくるのか?」
 涙でグチャグチャになった顔を覗き込む。
「そんな事したら、ご両親はどうするんだ?」
 泣きながら首を振るユウキ。
「お兄さんが、それを望んでると思うのか?」
 ユウキの首が止まる。
「俺は三人兄弟の末っ子だから、兄心ってのは分からないけど……。お前を助ける事が出来て、お兄さんは“良かった”と思ってると思うぞ」
「……でも……」
「お前が大事だったんだよ、お兄さん。でなきゃ、命賭けて助けたりしないよ」
「……だって……」
「お兄さんがいなくなって、その上、お前まで無くしたら、ご両親は、今のお前より悲しい思いをするんだぞ」
 そうさ。大切なのは、前を向いて歩く事。
「ご両親が悲しみを乗り越えられるように、お前はちゃんと前を向いてなきゃ。お兄さんの分も」
 頷いたユウキが再び泣き出した。
 でも、うん、今度は大丈夫。これは、辛い涙じゃない。
「戻るぞ」
 崖の上ギリギリの所でしゃがみ込んでいる俺達。そっと立ち上がって車へと戻ろうと、した、途端、
「あ!」
 突風が吹いて、ユウキの帽子を飛ばした。慌てて手を伸ばすユウキと俺。
「え!?」
 二人揃って、変な体勢にバランスを崩す。
「危ない!」
 このままじゃ、二人揃って崖の下だ! 咄嗟にユウキを内側へと突き飛ばした。
“ガランッ!!”
 同時に足が地面を踏み外す。
「貴久っ!!」
 崖っぷちに掴まる俺の手をユウキの細い手が掴む。
「ばっ! 離せ、ユウキ!」
「やだっ!!」
作品名:約束の場所 作家名:竹本 緒