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約束の場所

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「俺、父さんの右に入るから、そこ空けといてよ!」
 タイマーをセットしながら兄。
 父の左に母、その左にボク。
「よしっ!」
 セットし終えて兄が走る。……と、
「うわっわっ!」
 兄が転んだ。
「お約束だなぁ」
 笑うボクに、
「石に躓いただけだろ!」
 兄が言い訳する。
「じゃ、もう一回ね!」
 カメラに戻って、再びセット。
「今度はギャグはいらないからね!」
「うるせーよっ!!」
 真っ赤になった兄が、こっちに向かって来る。
「ぅわっ!」
 今度声を上げたのはボク。行き成り吹いた風に、貰ったばかりの帽子が飛ばされる。
「帽子!」
 急いで後を追うボク。
「ユウキ!」
 それを追う兄。
 切立った高い岩壁。下は海。
 追い駆けた帽子に手を伸ばし、掴んだ! と思った瞬間、足が浮いた。
「ユウキ!!」
 物凄い力で引っ張られ、地面に頭を打ちつける。
「圭祐!!」
 両親の声がして、重い頭を必死に上げる。
 ……兄の姿は……なかった……。
  
 汗と涙でグショグショになって目が覚めた。
「……ユウキ……」
 目の前には両親。
「……ごめんなさい……」
 謝るボクに、両親が困惑する。
「……お兄ちゃんが……」
 家族思いのお兄ちゃん。なんでも出来るお兄ちゃん。お父さん自慢のお兄ちゃん。お母さん自慢のお兄ちゃん。ボクが大好きだったお兄ちゃん。
「……ごめんなさい……」
 あのまま、ボクが落ちてれば……。
「……ごめんなさい……」
 泣きじゃくるボクの部屋から、両親が立ち去った。
  
 ――――――――――――
  
「着いたぞ!」
 なだらかな海岸線を抜けると、辺りは険しい岩壁へと姿を変えた。その中の少し出っ張った岩壁。そこが目的の場所だ。内陸寄りに大きな桜の木。
「うん。間違いない」
 ここから見える景色は、あいつの写真と一致する筈である。ひとまず、ユウキから写真を返してもらって……。
「ユウキ、写真……」
 振り返ると助手席にユウキの姿がない。慌てて視線を上げると、いつの間にやら岩壁の方へと走る白い影。
「ユウキ!?」
 羽織った白いパーカーが風になびき、まるで鳥の羽のようだ。飛ぶんじゃないか……? との錯覚に……。
「飛……」
 ……なわけない!!
「バカッ!! ユウキ、待て!!」
作品名:約束の場所 作家名:竹本 緒