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約束の場所

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「ちゃんと、拾ったとこまで送ってやるから、安心しな」
 驚いていた顔が困った顔になり、
「……ありがとう……」
 そして、微笑んだ。その笑顔に何故だか安心する俺。
「お前、名前は?」
「え?」
「名前」
 一緒にいるのに、名無しじゃ呼びにくい。
「……ユウキ……」
「ユウキ、か。いい名前じゃん」
「う、ん」
 あれ? なんだか、歯切れ悪いな……。
「……お兄さんは?」
「俺? 平凡よ。貴久」
「貴久、さん……」
「“貴久”でいいよ」
「でも……」
 どうやら年上を呼び捨てるのに抵抗があるらしい。
「あっち行きゃ、大概は呼び捨てなんだから」
「“あっち”?」
 ユウキが首を傾げた。
「あー……。俺、外資系の会社に勤務してんの。だからアメリカやらにしょっちゅう飛んでるんだわ」
「ふーん……」
「向こうだと、こーんな……」
 とハンドルから片手を離して、座席の位置まで手のひらを下げてみせる。
「……こーんなガキすら、“タカヒサ”扱いだから」
「……そうなんだ……」
「そっ! だから“貴久”でいいよ」
 そう言って、下げていた手のひらをユウキの頭にポンと乗せた。
「……うん……」
 俺の手の下で頷く頭。俺は、左手をハンドルへと戻した。
「で、ユウキ。学校は?」
「……今、休み……」
 今は、五月である。
「あー……“ゴールデン・ウィーク”……」
 そんなもの、海外にはない!
「ないの?」
「日本固有の祝日だもん。“端午の節句”が、アメリカにあると思うか?」
 振り返る俺に、ユウキの瞳がハタ! と気付いたように見開かれ、やがてクスクスと笑い出した。
「……そうだよね……」
「そうだよ」
 笑うと案外可愛い。そっちの趣味はないけど、こりゃモテるんだろうな、と思う。
「……クシュ!……」
 不意に隣からクシャミが聞こえた。
 あー、そうだ。こいつ、パジャマ!
 車を止めて、後部座席のカバンの中からパーカーを取り出し、ユウキに渡した。
「着てろ」
「……でも……」
 遠慮するが、強引にその脚の上にパーカーを置く。
「親の目盗んで慌てて出て来たんだろうが、それだけじゃ寒過ぎだろ?」
 春とはいえ、五月に入ったばかりだ。いくら天気が良くても、まだ肌寒い。
「どんな理由があれ、風邪ひかせて帰らせるわけにはいかねーよ」
 “だろ?”とユウキを見る。
「うん……」
作品名:約束の場所 作家名:竹本 緒