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ある晴れた日に

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もしも、仕事のない人を明日から雇え、と言われても即は無理だし、何よりも「そんなお金」はない。
仕事は確かにあるが、決して高いわけではない。
余りにも赤に近づいたので、仕事部屋を清掃してくれるサービスの回数を変えたくらいだ。
こうやって僕も「努力していない」と声を荒げて社会を叱咤した人間たちに一歩近づいている訳だ。
だから、彼らからすれば「同じ狢が何を」だと思う。

そんな世界の中で、人間にも機械にも、平等に一つの事だけを与えられている。
それは、「一日は二十四時間しかない」と言う事。
どんなに願っても短くも長くもならない。
絶対的なもの。
この世界が壊れて、全てがリセットされて新しい世界が生み出される事がない限り。
僕らは子の世界を回り続け、明日を迎えていく。

「先生、お疲れ様です。ようやく終わりましたね。
 駄々を捏ねずにさっさと仕事をしてくだされば夏のお休みだって削らずにすんだんですよ」

僕の目の前で書類をチェックしていた彼は、ぐさりと突き刺すような言葉で僕を労ってくれた。

「いえ、私も頑張ったんですよ?これ以外にもありましたし…お仕事…」
「それは先生が三日と二十時間四十九分前に、一寸出かけてくる…とメモを残して図書館で暇をお潰しになられていた時の分ですね。自業自得です」
「違いますよ、アレは調べ物です」
「調べ物なんて必要のないものですけれど?この前の会議の議題に対して賛成反対、そのどちらかを決めるだけで宜しかったんです。そう言えばこれ、一度白紙で出して戻ってきたものでしたね?
 今回はちゃんと書いてくださって嬉しいですが…」

延々と彼の説教は続く。
僕と彼の一日は大抵こうやって過ぎる。
決して嫌いではない。
机の上の仕事も、外で行う仕事も、こちらにクライアントが来て話が進む仕事も。
決して嫌いじゃない。
ただ、どうしても納得が出来ない事も多いのだ。
それを口にすると彼はニコニコしながら毒を吐いてくるので言わないようにしている。

(疲れている時ほど、彼は狙ったかのような鋭い言葉を飛ばしてきますから…)

既に数回園場面に出くわし、心の底から凹んで立ち直るのにかなり時間が掛かった。

彼は優秀な分、非常に几帳面だ。
それが「彼らしさ」なのかもしれないが、人間も彼も、度が過ぎると鬱陶しいと思われてしまうだろう。
僕はこの状況が楽しい為そうは思わないが…。
ふと、明日の事を考える。
そうすると、どうしても君が気がかりでならない。
これだけキツイ性格・気質を受け入れてコントロールできる人間はどれ位居るのだろう、と考える。
自分が優れた人間だとは思っているわけではないが、初めて聞いた人は大抵、ガックリ肩を落とす…加減が半端ではない。
言語上の問題なのか、それとも「瞬発的に導き出される計算の結果」に誤りが生じているのか。
その辺りは良く分からないが、クライアントとして特に「使う側」である彼を見ていると、確実に「問題行動」だと取られかねない。
彼や彼の「友人達」にとって、その様な勘違いは命取りなのだ。


なるべく今夏の日中、外に出ないようにしているのは、彼の事を思ってからが理由だ。
疲れれば「病院」へ連れて行く事は可能だが、それよりも中身が「手に負えない」ほどになっていたら
もうどうしようもない。
そうなる前に、だから考える。
「全てを分かってくれる人」を見つけ出す方法を。
方法でなくとも、身近な人間で「そう言うことが出来そうな人」を。

多分彼に、「僕はそんなに長くない」と言ったら全力で否定するだろう。
この国の平均寿命を考えれば、僕はかなりの長生き組までもう少しだ。
これだけ長く生きていれば、いや、いなくとも「何時何があっても分からない」のが現実。
それが僕達、人間なのだ。

機械もそうだ。
ラジオから流れるニュースでも必ず注意文が付け足される。
「長時間の炎天下での機械の労働は、故障に繋がるので彼らに細心の注意を払うように」
ここの所の仕事の殆どが、廃棄関連、新規購入・導入関連の相談と申請、振り分けと指示だった。
修理に持ち込むものも居るそうだが、修理は時間が思ったより時間が掛かる。
細かい作業が多い部分ほど、「機械」では対応が出来ないからだ。
よって「新規購入の方が早い」と言う結論に辿り着いてしまう。

「中身さえ取っておけば、体を変えればいい」

何処かの御伽噺の中に出てきそうな陳腐な本当の話。
彼らは「中身」の記録媒体さえあれば、「新しい体でまた同じ生活を送る」事が出来る。
それを見ている人間が耐えられるならば。

商売人は子の辺りの神経は図太いから大丈夫だろう。
時間や空間の問題上、背に腹は変えられない人たちも小さな抵抗ですむだろう。

(だが…)

それ以外のパターンはどうだろうか。
彼らは「新しい彼らを彼らとして受け取れる」のだろうか。
自分に当てはめた時どう思うだろうか。

(答えるのも馬鹿馬鹿しいですが…)

「…い、先生?」

頭の上で声がする、彼の声だ。

「大丈夫ですか?…というより、ちゃんと聞いていただけてましたか?」
「…ええ、聞いていましたよ」
「その間は嘘ですね。少しは僕の言う事も聞いてください」
「聞いてますって」
「…じゃぁ…明日は一体何をしなければいけないか、ご存知ですか?」
「え?」

先が見えない質問に、僕は一瞬戸惑う。
ちらりと横目でカレンダーを確認しても答えが見えない。
微妙な間が更に空く。

「わ、分かりません、降参です」

僕は苦笑しながら彼に向かって両手を挙げて降参のポーズを取る。
彼ははぁ、と大きく溜息を付いて眉根に皺を寄せて言った。

「先生のお誕生日です。
 明日一日は確り休んで、僕が先生のお話を沢山聞かせていただく、そう言う約束を取り付けた大切な日です」

そうか、と僕はもう一度カレンダーを見る。
確かに、明日は「僕の誕生日」だ。
正確に言えば、「僕がこの国に来た日」であり、あの学校を出て「僕が新しく生まれ変わった日」だ。
僕の国では正確な誕生日の規定がなかった。
「何時何時くらいに生まれた」
と言う何ともいい加減な国だったのだ。
なあなあで何事も終わらせようとしていた国民たちだったが、嫌いじゃなかった。
それでも「世界は回るのだ」と、この国の窮屈に思える様々な決まりごとの中で生活をしていて気がつけた。
二つの世界を知っていると言う事は人生において、その人間を、機械をいかに豊かにするか。
自分が出来る人間ではないが、そう考えずにはいられない。

「変わり者」のレッテルは、多分、僕が「よそ者」だからだろう。
僕の国でもそうだったが「よそ者」は嫌われる。
例えその国の誰かと結婚して、戸籍全てがそこに移動したとしても。
体を流れているものを、排除する事はできない。
例え、流れているもの全てを変えても。
土となり塵となり、その「土地」の一つにならなければ。

「…ん…い、先生!」
「はっ、はい!」
「又聞いてませんでしたね!」
「…す、すみません…」

今度はちゃんと謝った。
こう言う事は何度もやると説教の時間が必要以上に長くなる。
その事を彼との生活で確りと学習済みだ。
更に深い溜息をついて彼は言う。
作品名:ある晴れた日に 作家名:くぼくろ