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惑星の記憶

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 ルージュは一目散に逃げた。ラルフは相棒のあまりの思い切りの良さを少し訝ったが、それでもすぐに自分の退路を確保し、狼の左足を斬りつけざまに逃げた。銀色の体毛に鮮血が滲んだ。 だが、足に傷を負ってはさすがに追いつけまい。という彼の予測を裏切り、狼は後脚を蹴って跳躍し、一瞬にしてその距離を縮める。捕まってしまえば、足の傷など関係ない。
『しまった!』
 ラルフは頭の中が真っ白になるほどの恐怖を覚えた。
 狼が宙に浮いているその瞬間、それは起こった。
 ルージュは逃げた訳ではなかった。むしろ、ラルフを逃がす為だった。
 木の陰から呪文を唱え、そして発動。ペンダントが光って共鳴する。
「風と光の調べ。芒漠たる浄化の波動に殲滅せん―――」
 狼の周囲の大気の流れが著しく圧縮され、白い光を放って空間が球状に爆発した。球の外には爆発は広がらず、その空間内だけが完全な物質崩壊を生じている。
 何かが地面に落ちた音がした。しかし狼の残骸は地面に落ちて音を立てるような大きさのものではなかった。灰だったからだ。
 ラルフが音のした方へ向かうとそこには―――
 大木の下で、ルージュがうつ伏せに倒れていた。
「おいっ、しっかりしろ!!」
 ラルフが肩を持ってそっと起こし、木の幹に寄りかからせた。体は熱くなっていた。
「ハァ、ハァ……」
 ルージュは息を切らせながら、目を半開きのまま笑った。
「なんで、逃げろって言ったろ」
「もっと少ない力で……十分だった、けど、焦った。ほとんど魔力を使い切っちゃったよ」
「だが助かった。恩に着る」

 今までラルフはひとりだった。
 彼の故郷は南大陸である。少数民族の集落に生まれ、物心つく前に両親と死別した。何の前ぶれもなく、集落が焼き尽くされたのだ。それ以後、どのようにしてドールズに辿り着いたのか、彼は多くを知らない。ただ、目の前を埋め尽くす緋色が、うっすらと記憶に残っているだけだった。ドールズでは育ての親も病気で失い、一人で生きていく為、危険な財宝探しや傭兵などをやっているうちに、酒場に集まる気のいい仲間達と共に生きてきた。しかし、財宝目当ての人間の集まりというのは、やはり欲に目がくらむ輩も一人二人は居るものだ。そんな環境で、自分以外の人間に安心して気を許すことは出来なかった。
 ラルフは自分を不幸だとは思わない。だが、この感情は一体何であろうか。ラルフはため息まじりに笑い、ただ、ルージュは信頼できる。と思った。
作品名:惑星の記憶 作家名:風代