小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

こうして戦争は始まった

INDEX|5ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 
『……このように、戦争が起こった原因として、自分が正しいと信じ込んでいた一部の人間がいたことが挙げられる。
 また、戦争を止めることができなかった要因としては、それをおかしいと言うことができなかったことが主な理由として挙げられる。つまりは、それが正しいのだと信じるように教育されていたことに問題があるのではないかと思う。
 だからといって、すべての責任が当時の教育の在り方にあったとは言えないのではないかと思う。私はすべての責任が個人にあると言いたいのではない。
 私が言いたいのは、正しく伝えなければならないということ。伝えることを恐れてはならないということ。伝えることを怠ってはならないということ。
 それは違う、どうして違うのか。
 それはダメだ、なぜダメなのか。
 本当に伝えなければならないことは、“どうして”と“なぜ”の部分であると思う。
 説明されたとしても納得できないことはあると思う。ならば、“どうして”納得できないのか、“なぜ”納得できないのか、それを正しく伝えなければならないはずだ。分からないという思いを正しく伝えなければならないはずだ。
 そうして、互いに正しく聞き取り、互いに正しく理解しようと努めること。
 相手を理解しようとする努力。もう二度と戦争を起こさないために必要なものはそれだと思う。それだけだと思う。』

 夏休みの登校日、私は平和授業で作文を読んだ。クラスのみんなは作文を読んでいる間ずっと、驚きの目で私を見ていた。
 私の作文が、罰としてムリヤリ書かされたような、表面を取り繕っただけのものじゃないって伝わったんじゃないかなと思ってる。

 そうそう、私は携帯電話を買ってもらった。“どど田舎”にある私の家が圏外じゃなかったことは奇跡に近い。
 あれから私とお婆ちゃんは仲直りをした。
 お互いの語尾に、“私は(お婆ちゃんは)そう思うよ”と付け加えるだけで、会話に発展しやすくなるんだってことが分かった。
 お婆ちゃんは本当にたくさんのことを知ってた。長く生きているだけのことはあると思う。それに比べて私は自分の欲に忠実すぎたんじゃないかなと思う。

 時刻は十八時一分前。カラオケ屋から外に出たら、「よしよし、ちゃんと出て来たな」という顔で私たちを見る生活指導の体育教師が待っていた。
「先生、今度一緒に歌いませんか?」
「なっ!? いいから早く帰れ!」
 笑顔で怒鳴られながら駅に向かって歩き出したみんなの背中に向かって、私は大きく手を振る。
「バイバーイ、メールするねー」
 私はある人を待っている。だから私はカラオケ屋の前から動かない。
「ホントに今度一緒に歌いましょうよ」
「そんなことできるわけないだろう」
「もしかして歌に自信ないとか? そんなんじゃ彼女もできませんよー?」
「余計なお世話だっ! お前もさっさと帰れっ!」
 駅の方向から、ゆっくりと歩み寄ってくる人影があった。私が待っていた人がやってきたんだ。そう、私のお婆ちゃんだ。
 私とお婆ちゃんは、親睦会と称して相手が好きなことを一度体験してみることにしたんだ。私がお婆ちゃんに体験して欲しかったのは、もちろんカラオケ。
 お婆ちゃんったら意外とイケルクチで、あれよという間に持ち歌を増やして、まだまだ増やす気らしい。ほとんどが演歌なんだけど。おかげで私も演歌がマイブーム中。近いうちに友達にも歌わせようと暗躍中だ。
 お婆ちゃんが私に体験させたかったのは、生け花だった。本格的な修行段階じゃなかったからだろうけど、やってみると楽しくて楽しくて。ちょっとぐらいなら続けてもいいかなって思い始めてるところ。
 お婆ちゃんにそれを正直に話したら、「そうかい、そうかい」と嬉しそうだった。お婆ちゃんが笑いかけてくれたのは中学生になって初めてだったから、なんだか私も嬉しくなった。

 お婆ちゃんと二人で個室に入る。
 お婆ちゃんはもう手馴れたもので、部屋に入るなりマイク音量とエコーの調整を始める。
「お婆ちゃんね、新しい歌を覚えたんだよぉ」
「ほんとに?」

 ちゃん ちゃちゃっちゃー ちゃららららららん

「あー! この歌、私も目を付けてたのにぃ!」


 たとえ共通の価値観を持っていたとしても、それでも、争いは無くなることはないのだろうけれど、争わないといけないときだって、きっとある。
 争ってぶつかり合うことで、お互いに分かり合えるようなことも、きっときっと、あると思うんだ。
 自分本位の考えだけで相手を否定しないこと。
 中学二年生の私が、ただ一つ“絶対に間違ってる”と言えるのはそれだけだ。

   ― 教えて欲しいんだ 了 ―