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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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ダブル「Cace3 死」


 翌日の朝、僕はアスカを迎えに彼女の住むマンションに向かった。
 アスカは僕のことをマンションの入り口で待っていてくれた。そして、僕が彼女に近づくと、うれしそうな顔をして駆け寄って来た。
「おはよ、涼」
「おはよ」
 アスカが僕の顔を下から覗き込む。
「どうしたの涼? 目の下くまできてるよ」
「ちょっと寝不足で」
 実はちょっとどころじゃなかった。
 全部ファントム・ローズのせいだ。あいつが変なことを言うから、僕はあの言葉とあの不適な笑みが頭から離れなくてほとんど一睡もできなかった。
「大丈夫、涼?」
「あ、うん」
「本当に?」
「本当だよ」
 嘘だった。僕はアスカに嘘付いた。はっきり言って平気じゃない。心身ともにどっと疲れていて、本当は学校なんか行きたくなかった。
 それでも僕はアスカと一緒に学校に向かった。
 たわいのない話をしてたら何時の間にか僕らは学校に着いていて、気付いたときには教室にいた。前を同じ日常が戻ってきたような気がした。
 教室に入った途端、アスカは女友達に連れて行かれてしまった。
 僕は自分の席に付いてアスカたちの話に聞き耳を立てた。
 みんなアスカのことを心配して『どうしたの?』とか、『だいじょぶだった』とか、『心配したんだから』とか口々に言っている。みんなアスカのことを本気で心配していたようだった。でも、もう心配することはない、アスカは帰ってきたのだから。
 僕がアスカたちの話に聞き耳を立てていると、僕の前に鳴海愛が現れた。
「椎名帰って来たんだな」
「あぁ」
「私たちが探してた相手も帰って来た」
「良かったじゃん」
 鳴海愛は腕組みをして少し沈黙を置いたあと言った。
「私と渚はまだ事件について調べるが、春日はどうする?」
「僕はもういいよ、アスカが帰って来たし」
 鳴海愛はいつも以上に不機嫌な顔をした。
「帰って来た生徒たちが、その後どうなったか知ってるだろ」
 この言葉を聞いた僕はすごく腹が立って嫌な顔をして鳴海を睨みつけた。
「あれ見ろよ、そんなことあるわけないだろ!」
 僕はアスカのことを指差した。しかし、鳴海愛は僕のことを鋭い目つきで睨みつけた。
「確かにみんな最初は普通だった、でも……」
 『でも、みんな死んだ』って言いたいんだと思う。でも、鳴海愛はそれ以上何も言わないで自分の席に戻って行った。その姿は重たい影を背負っているように見えた。
 僕もわかってる。でも、そんなこと考えたくもない。そんなことあるわけないじゃないか。
 やがて授業がはじまったが、僕は授業どころじゃない。あのファントム・ローズも鳴海愛も僕が考えないようにしていることを言ってくる。
 不安で堪らない。また、アスカがいなくなってしまうなんて考えたくもない。けど、どうしても考えてしまう。
 悶々と考え事をしているうちに学校はいつの間にか終わってしまった。
 僕は一目散にアスカの手を引いて帰宅した。もう、絶対離さない。
 帰り道、アスカは僕のことを心配そうな顔をして見つめていた。けれど、僕は口を開かなかった。
 もう、何がなんだかわからない。
 本当は僕がアスカのことを心配しなきゃいけないのに心配されてしまっている。けれど、アスカのことを心配するってことは、まるでアスカに何かが起こるようじゃないか。
 悪いことは考えちゃいけない。アスカはすぐそこにいる。アスカはずっと僕の側にいるんだから、心配することなんてないじゃないか。
 僕は僕に言い聞かせようとするが、どうしても不安が消えない。
 次第に腹が立ってきて、怒鳴り散らしたい気分になってきた。
 過ぎ去って行く風景。時間が進んでしまうのが怖い。今ここで時間が止まってしまえば、永遠にアスカと一緒にいられるのに……。
「涼っ!」
 少し大きな声で呼ばれて僕ははっとした。
 僕の腕は後ろに引かれ、その先ではアスカが少し怒った表情を浮かべていた。
「もぉ、家に着いちゃったよ」
「えっ!?」
 気がつくと、もうそこはアスカのマンションの前だった。
 顔を紅くしていたアスカの表情が和らぎ、彼女は元気よく僕に手を振った。
「じゃあね、涼、また明日!」
「じゃあ」
 僕は軽く右手を上げた。
 アスカが僕に眩しい笑顔を見せてくれた。そして、だんだんと姿が小さくなって行く。

 次の日、僕は学校を寝坊で遅刻した。今まで溜まっていたモノが一気に来たんだと思う。
 二時間目の英語の時間が終わる頃、僕は教室の後ろのドアから静かに入った。
 みんなの視線が僕に集まった。僕は遅刻なんて滅多にしないのでちょっと恥ずかしかった。
 ネイティブアメリカンの英語教師に席に早く着くようにと言われて席に着き、授業の準備をしながら何気に後ろの方の席を見た。
 僕は『あれっ?』と思った。
 アスカの姿がない。学校を休んだんだろうか?
 休み時間になり、僕は友達にアスカのことを聞くと、やっぱり学校を休んでいるらしい。しかも学校に無断で欠席をしているらしく、先生がアスカが何で学校を休んでいるのかを生徒にしつこく尋ねたらしい。あの事件の後だから先生たちも気が気じゃないんだと思う。
 僕は不安な気持ちになった。そして、すぐにアスカのケータイに電話をかけてみたが繋がらない。メールも送ってみたが返事は返ってこなかった。
 僕の不安は大きくなっていく。もしかしたら、アスカに何かあったのかもしれない。
 恐れていたことが現実になったかもしれない。
 今日もアスカに会えることを信じていた。けれど、それは見事に打ち砕かれた。
 その後、僕は全く授業に集中できなかった。そして、時間がどんどん過ぎていき、四時間目の終わりのチャイムが鳴り、昼休みになった。
 僕はどうにかして早退できないかと、ずっと考えていた。
 保健室に行って、病気のフリをしようと考えたりしたが、僕は結局無断で早退することにした。
 僕は荷持つを教室に置きっ放しにして、何食わぬ顔をして、下駄箱まで行き靴を取った。
 昼休みは外に無断で食事に行く生徒が多いため、たまに校門で先生が目を光らせて立っていることがある。まさにここ数日はそれだった。
 僕がどうしようかと下駄箱で悩んでいると、後ろから突然声をかけられた。
「私も行く」
 僕は心臓を直接握られたくらいドキっとしてしまった。だけど、後ろに居たのが先生じゃなくて鳴海愛だったことを確認した僕はほっと胸を撫で下ろした。
「どうして鳴海さんがここに?」
「椎名の家に行くんだろ、だったら私もいっしょに行く」
「別にいいけど、学校サボって平気なの?」
 僕はこの質問をした後にそれが愚問だったことを後悔した。
 鳴海愛は成績こそ良いものの、学校での生活態度は悪い。無断欠席・無断早退はよくするし、一度だけ彼女が先生と激しい言い争いをしているのを僕は見たことがある。
 でも、鳴海愛の成績は学年でトップだし、テストはいつも満点を取っていた。