ファントム・ローズ
悲しそうで苦しそうで、どんどん表情が暗くなっていくアスカを見ていたら、僕は何だかアスカに対してすごく酷いことをしてるんじゃないかって気になっていて、気付くと僕はアスカに意味もなく謝ってしまっていた。
「ごめん、何かごめん」
「何で涼が謝るの?」
「何か謝んなきゃいけないと思った」
アスカは不思議そうな顔をして僕を見つめて笑った。
「涼のそういうとこ好きだよ」
その言葉を聞いた僕の体温は一気に急上昇した。
その場に居るのが恥ずかしくなって、時計を見ると時間もだいぶ遅くなっていたので、その勢いで家に帰ることにした。
「帰るよ、何かずっとここにいるの悪いような気がするから」
「うん、じゃあね」
「明日迎えに来るから一緒に学校行こう」
アスカは小さく頷いた。その顔は少し悲しそうというか寂しそうだった。
僕は一瞬ためらったが部屋の外に出た。
アスカの父親は今海外に出張中なので、僕はアスカの母親だけに軽くあいさつをするとアスカの家を後にした。
早歩きでマンションを出ると辺りは薄暗かった。
風が少し冷たく、空には星が瞬きはじめている。
道路を照らす蛍光灯が突然チカチカと点滅しはじめて、あいつが薔薇の香りとともに再び現れた。
僕には?仮面?が少し不満そうな表情をしているように見えた。仮面がそんな表情をするはずもないのだけれど、僕はそれを見て腹が立って、意味もなくこいつを怒鳴りつけてしまった。
「今度は何の用だよ!」
ファントム・ローズは仮面を付けているせいか全く動じる様子が見えない。
「君はまだ事件について調べる気はあるのか?」
「アスカが帰って来たからもういいよ」
「それは要するに自分はもう無関係ということか?」
「そうだよ」
僕は確かに見た?仮面?が不適な笑みを浮かべたのを――。
「この物語は終わっていない。君は好きな道を選ぶといい。しかし、自分の人生の選択権は自分にないことが多い。それを覚えて起きたまえ」
そう言ってファントム・ローズはまたも消えた。
ファントム・ローズいた場所には薔薇の香と花びらが残っていた。
作品名:ファントム・ローズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)