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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 わけがわからない。
 僕は鳴海愛の言葉を理解したわけじゃない。けど、なぜか叫び声が自然と出たんだ。
 いつの間にか土を鷲掴みにして、大量の汗がボトボトと落ちていた。
 なにが……どうした?
「あああああああああああああああっ!」
 僕はわけもわからず鳴海愛に掴みかかり押し倒した。
 背中を強打しただろうに、彼女はなんの抵抗もせず、顔色一つ変えず、ただ僕の瞳を静かに見据えていた。その瞳に映る人影。
(真実はもうすぐそこだよ)
 またヤツだ。
(そろそろ妄想と現実を区別はできたかい?)
 妄想と現実?
「ダマレェェエエエエエッ!」
 鳴海愛の表情が変わった。青ざめていく。
 僕はハッとして馬乗りになっていた鳴海愛から飛び退いた。
 手に残る感触。
 首を押さえ咳き込みながら立ち上がる鳴海愛。
 そんな……僕は……。
「違うんだ……そんなつもりは……」
 僕の声はひどく震えていた。
 鳴海愛の首筋に絞められた痕が赤黒く残っていた。
「違うんだ、違うんだ……ううっ……違うんだ……僕はただ……」
 頭を抱えてうずくまった。
 吐き気がする。
 ずっと頭を振られてる気分だ。
 ここは悪夢か?
 情報と記憶の整理ができない。
 鳴海愛はなんて言ったんだったか?
 ダメだ、吐き気がひどすぎて考えられない。
「もう一度……言ってくれないか……アスカが……僕の世界で……だって?」
 首を絞めたヤツの言うことを、鳴海愛は身構えることもせず凜と立ち答えてくれた。
「高校生になった椎名アスカを君の世界ではじめて見た」
「ああああああああああっ、くそぉぉぉぉっ、なんんあんだあああ、この……わからないああい!」
 叫び声が自然と吐き出される。ろれつも回らず、頭痛で頭が割れそうだ。
 ひざを地面に付きながら、片手で頭を抱えて睨むように鳴海愛に顔を向けた。
「鳴海の世界には……高校生のアスカはいなかったってこと?」
「……そうだ」
「可笑しいじゃないかそんなの……どうして、僕の世界にはちゃんといるのに……どうして……」
「それは……わからない」
 鳴海愛は顔を伏せた。
「僕の世界にだけいるなんて……そんなこと……」
 鳴海愛やほかの世界から認識されなくなる可能性は?弾かれた?場合だ。そして、ひとつの世界にだけ存在した理由は、?弾かれたモノ?がその世界に入り込んでいる場合。
「もしかしてアスカは?弾かれたモノ?だった? 自分の世界を失って僕の世界にずっと住んでいたってこと?」
「稀に自分が?弾かれた?ことに気づかず、そのまま他人の世界で居続ける者もいるらしい」
「アスカがそうだったってこと?」
「それはわからない」
 アスカが?弾かれたモノ?だとして、いつ?弾かれた?んだろう。
 僕の記憶ではずっとアスカが存在している。少し引っかかるのは、引っ越しをした少女だ。
 この辺りの記憶が思い出せないけど、たぶん僕の世界ではアスカが引っ越しをして、そこのマンションに越したんだろう。
 何かが可笑しい。
 なんだろう、この引っかかりは?
 背筋がゾッとする。
 なんなんだろう、この感覚は?
「アスカは?弾かれたモノ?だったんだよね?」
「それはわからない」
 同じ答えが返ってきた。
 可笑しいぞ、可笑しいぞ、絶対に可笑しい!
「高校生のアスカをはじめて見たってことは、その間が抜けてるってことだけど、幼稚園のときのアスカは知ってるんだよね?」
「ああ、君とよく遊んでいた」
「それって可笑しいじゃないか、?弾かれたモノ?なら、その記憶すらも消えてしまっているハズなのに、どうして覚えてるの?」
 記憶を改変されないのは?弾かれたモノ?だけだ。まさか鳴海愛は幼稚園児のときにはすでに弾かれていたことなんてことはないと思う。?弾かれたモノ?なら、僕の世界に居座っていたことになるし、そうなると渚との関係が可笑しくなる。鳴海愛と渚はそこまで親しい関係にもならず、ホストの渚は鳴海愛の存在を忘れているハズだ。
 鳴海愛は黙ってなにも答えない。
 さらに僕は質問を投げかける。
「ならさ、鳴海の知ってるアスカは幼稚園のあとどうなったの? 高校生のアスカをはじめて見たっていうからには、どこかでアスカが消えてるんだよね?」
「私の世界の君がさらに心を閉ざしはじめたころだ。おそらく本体の君も、同じように心を閉ざしていたんだろう」
 心臓が激しく脈打つ。
 鳴海愛の語る僕は僕であって僕でない。それはおそらく鳴海愛の世界での僕のことだ。
 心を閉ざしていた僕?
 僕は他人にそう思われていたのだろうか?
 他人の世界の僕は、本体である僕の影響下にあり、そこにその世界の主人公のフィルターがかかる。そう思えば、そう見えるというのが、一世界から見た他世界の主人公だ。
 好きなひとのことは、盲目的に好きな部分しか見えない。嫌いなやつのことは、嫌いな部分しか見えてこない。それがフィルターだ。
 鳴海愛はどうして僕が心を閉ざしていたように見えたのか?
 それは鳴海愛自身の心持ちだったんじゃないだろうか?
 だって、僕は心を閉ざしていたなんてことはない。
 幼いころの記憶。
 目をつぶればアスカの笑顔が見えてくる。僕もいつだって笑顔だった。
 僕らはいつもいっしょだった。
(――あの日まで)
 だれかの声が頭に響き、僕の目の前に現われた黒い人影。やつは自らの顔面を剥ぐように、その素顔を晒した。
「あああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」
 そして、世界が反転した。