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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 でも、保健室に行くのが恐かった。何か嫌な感じする。正直もう家に帰りたかった。
「ねぇ涼ったら、だいじょぶなの?」
「あ、う、うん」
 その時、学校のはじまりを告げるチャイムが廊下に鳴り響いた。
「あ、朝のホームルームはじまっちゃうよぉ〜、早く行かないと遅刻にされちゃう。ほら、涼も急いで!」
「そ、そうだね」
 僕と渚はいっしょに走って、それぞれの教室へと急いだ。
 教室に戻った僕はまた鳴海愛を探したが、どこにもいない。今日は休みなのかもしれないけど、僕はもっと嫌な予感がしていた。
 鳴海愛の席がない。ないというか、別の人が座っているという方が正しいかもしれない。クラスから生徒の席が一人分消えてしまっていた。
 一時間が終わり僕はすぐに友達たちに事件のことを聞いて見たけど、〈クラブ・ダブルB〉、〈ミラーズ〉って何? と言われてしまった。消えてしまった生徒の名前も出してみたがそんな人学校にいたっけ? と言われてしまった。
 僕はその後もいろいろな人に話を聞いたけど誰も事件について知っている人はいなかった。そう、まるでそんな事件なんて最初からなかったように……。
 消えた人たちは最初から存在していなかったことになっていた。
 そう言えば最初から居なかったような気がしないでもない。でも、居たという記憶もある。
 昼休みになり僕は意を決して保健室へと足を運んだ。
 そこにいたのは水鏡先生とは違う女の先生だった。でも、僕はその先先のことを知っているけど、知らない。
 最初からいたような気がする。この保健室の先生との過去の記憶が確かに頭の中にはある。だけど、知らない。……知っているけど、知らない。
 僕はその後の授業など一つも身に入らなかった。今日一日中こんな感じだった。
 そして、混乱した頭のまま家路についた――。
 家に帰る途中、生物の気配が一気にすぅーっと消えていき、薔薇の香がした。そして、あのファントム・ローズがまたも僕の前に姿を現した。
 白い仮面は?無表情?だった。
「失われた魂は、もう決して元に戻ることはない。だから、世界はこういう形を取らざるを得なかった」
 つまり、事件に関することを全てが存在しなかったことにしたのだと。
 だけど、僕の記憶の中には今の世界の記憶と前の世界の記憶が一緒に存在してしまっている。なんで、そんなことになっているんだろう?
 ファントム・ローズは言った。
「世界は本来、一人一人に与えられているのが原則だ。だけど、君は世界から弾かれた」
 僕にはファントム・ローズが何を言っているのか全くわからなかった。
「意味がわからない、僕の恋人のアスカはどうなったんだ?」
「君の恋人は椎凪渚だろ?」
 そう僕の恋人は椎凪渚だ……でも。
「……でも、違う!」
「椎名アスカなんて人間は最初から存在しなかった。涼、君は私と同じように世界から弾かれてしまったんだ。自分の世界を持たず、人の世界に生きる者、そういう存在なんだ」
 ファントム・ローズの?仮面?は酷く哀しそうな顔をした。
「私にはこうなることがわかっていた。けれど君ならばこの呪縛から逃れられるのではないかとも思っていた。しかし、結局君は世界から弾かれた」
 そして、ファントム・ローズは渦を巻く多量の薔薇の花びらに囲まれ姿を消した。
 大量の薔薇の花びらは風に煽られ、天を舞い、世界を薔薇の香で満たした。
 僕は目を瞑りその場を動くことができなかった……。

 終わり方は人それぞれだと思う。
 でも、僕はこの終わり方には納得いっていない。
 消えた人は結局帰ってこなかった。
 いや、居なかったことになってしまった。
 全てが幻のようだ。今僕が生きている世界さえも……。