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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 鏡がカメラのフラッシュのような光を放ったと同時に先輩の身体が糸を切られた操り人形のように地面にばたんと倒れた。
 だけど、鏡に映った先輩の姿は立ったままだ。
 そして、何よりも僕を驚かせたことは、この後に起こった。
 鏡の内に潜む人影が自ら意思で動き、鏡の表面が水面[ミナモ]のように揺れる。
 手が出た、足が出た。鏡の内から人が這い出して来る。
 何が起こったのか全くわからないで驚いている僕は、いつの間にか近づいて来た水鏡先生に声を掛けられてまた驚いた。
「何をしたかわかったかしら?」
「…………」
 口を縛られている僕は無言で首を横に振った。
「あの〈鏡〉は私が偶然、学校の地下室で見つけた物なのよ。私は〈鏡〉に言われたの、一緒に悩みのない世界をつろうって」
 水鏡先生は僕の口に縛られていた布を取ってくれた。
 しゃべるようになった僕はすぐに水鏡先生に質問をした。
「あの鏡がしゃべったって、どういうことですか!?」
「あの〈鏡〉が何だかは詳しく知らないけれど、あの〈鏡〉意志を持っているのよ。そして、私と同じ夢を抱いていた」
「『悩みのない世界をつくる』ですか?」
 水鏡先生は小さく頷いた。
「そう、私は保健室で多くの学生たちの悩みや相談を受けたわ。その悩みを解決させてあげたかった。そして私はあの〈鏡〉に出会ったの」
「悩みを解決させるってどうやって。それにどうして生徒たちをさらったんですか?」
「あの〈鏡〉は悩みや不安をエネルギー源としていて、そういった人々の魂を体内に吸収し、一つのものにする能力を持っているの。そこで私は藤宮彩という保健室によく悩みを抱えて訪れていた生徒にある噂を教えて、〈クラブ・ダブルB〉を彼女に探させると同時にいろんな生徒に噂を流してもらい、悩みを持った生徒を探したのよ。そして、他の者に気付かれぬようにして悩みを持った生徒に近づき、〈鏡〉の元へ連れて行った」
 僕の頭は完全に混乱している。そんな僕が言えたのはこんなことくらいだった。
「あ、アスカは、死んだはずのアスカに会いました。どういうことですか?」
「今見たでしょう、〈鏡〉の力を?」
「今?」
「〈鏡〉は映し出した人の肉体と魂を複製することができるのよ。複製された人間は〈ミラーズ〉となり、その〈ミラーズ〉からまた複製された人間が家に返されるのよ。でも、複製を繰り返したモノはあまり長持ちをしないのよ、そのためすぐに壊れてしまい精神異常をきたしてしまう、それが難点だったわね。でも、時間稼ぎができればそれでよかったのよ」
 鏡には内面までは完璧に映し出せないということなのかもしれないと僕は思った。だから複製するたびに出来が悪くなるんだと――。
 渚を抱えていた〈ミラーズ〉が渚のことを鏡の前に降ろした。それを見た僕の頭に疑問が次から次へと沸いてくる。
「複製された、最初の本人はどうなるんですか?」
「本人は最初の複製の時に〈鏡〉よって魂を抜かれ、魂は鏡の中に吸い込まれて、魂同士が混ぜ合わされて一つのモノになるの。全ての人間が一個の個体として存在する、そして悩みは全て解消されるわ」
「あ、あの、肉体はどうなるんですか?」
「肉体はもう不要でしょ?」
「じゃあ元には戻れないってことですか!」
 僕は大声を出した。
「元に戻る? どうして?」
 僕は水鏡先生の言葉に愕然とさせられた。魂は混ぜ合わされて、肉体はもうないということなんだと思う。つまり、生徒たちは……アスカはもう帰って来ないってことなんだと思った。
 渚の身体が糸で操られるように立ち上がった。ダメだ、どうにかして止めさせないと渚まで……。
 僕は大声で叫んだ。
「止めろ! 今すぐ止めるんだ!」
 水鏡先生は僕に向かって微笑みこう言った。
「あなたも一緒になれば、そんな些細な事気にしなくなるわ。さぁ、あなたも一緒になりましょう」
「イヤだーっ!」
 僕が大声で叫んだと同時に辺りを照らしていた蝋燭の火が全て消え、辺りが暗闇に包まれたかと思うと、僕の鼻を薔薇の香りが衝いた。
 闇の中で激しく?何か?が割れる音がして、大勢の悲鳴があがった。
 僕は頭がクラクラして意識が朦朧となり、そのまま気を失ってしまった――。

 僕が目を覚ましたの自宅のベッドの上だった。
 時計の針は朝の七時半を指していて、カレンダーに目をやると今日からまた学校がはじまる日にちだった。
 僕は学校に行く気など全くっていうほどしなかったけど、いろいろなことが気になって仕方なく学校に行くことにした。
 学校はいつも通りだった。クラスに入ってもなんら変わった雰囲気もない。
 ……いや、何かが違う。この前まで休んでいた生徒たちが登校している。事件で登校を控えていた生徒が登校している。
 鳴海愛と話がしたかったけど、彼女は学校に来ていないようだった。だから、僕はすぐに椎凪渚の教室に向かった。
 渚は教室にいた。
 教室で楽しそうに友達と話していた渚だったけど、僕に気づくとすぐに僕に駆け寄って来て、そのまま僕の手を引いて、普段生徒たちには余り使われることのない学校の隅の方にある階段の前まで引っ張っていかれた。
 そこで渚が顔を少し膨らませて、僕のことを上目遣いで睨んだ。
「涼ったら、あんまりあたしの教室に顔出さないでって言ってるでしょ?」
「えっ、な、何が」
 突然変なことを言われて僕は戸惑った。
「あたしたちが付き合ってるの一様周りには内緒なんだからぁ〜」
「えっ、僕らが付き合ってるだって!?」
「ひっどぉ〜い。とぼけちゃって、もしかして、好きなひとができてあたしと別れたいとか?」
「そ、そうじゃなくて……あの」
 何が何だかわからない、僕が渚と付き合ってるなんてどういうことなんだ?
「涼の方からコクってわたしたち付き合ったんだよぉ」
 渚は今にも泣きそうな瞳で僕のことを見ている。
 でも、僕は渚と付き合った記憶なんてない。……いや、待てよ。
「僕たちさぁ、屋上で出合って、一緒に昼飯食べるようになって、それで一緒に帰るようになって、学校の帰り道で僕が渚に告白して……それで……」
「そうだよ、涼があたしのこと『好きだ』って言って、そのまま抱きしめたんじゃない!」
 そう、そうっだった。……いや、違う、そんな記憶なんてない。……やっぱりある、でもない。
 僕は混乱する頭のまま、あの事件について話を聞いた。
「〈ミラーズ〉は、〈クラブ・ダブルB〉は、消えた生徒たちは?」

「いきなり何の話してるの、マンガかアニメの話? そうやって話をすり変えるつもり?」
「そ、そうじゃなくて、事件はどうなったの、だって渚はさらわれて、いや、だって、僕らは鳴海さんと一緒に事件を追って……」
 そして、予期せぬ不思議な答えが返ってきてしまった。
「鳴海さんって誰?」
 この言葉を聞いた僕は血の気が引いてぞっとした。
「鳴海愛だよ、渚の家に住んでる僕と同じクラスの」
「隣りに? ……そんな人いないけど?」
 もう、僕には何が何だかわからなかった。
「大丈夫? 涼の顔真っ青だよ、保健室に行った方がいいんじゃない?」
 そうだ、保健室だ、水鏡先生はどうなったんだ?