明日に向かって撃て!(終)
10日後、その響光太郎本人が事務所にやってきたのだ。ふたりの部下と運転手が付きそっている。黒いスーツと黒サン、短く刈り込んだヘアー。
光太郎はでっぷりとした体を白いポロシャツで包んでいた。3人掛けのソファをひとり占めしている。部下は直立不動で後ろに立っている。運転手はドアの前に。
響さんってひょっとして・・ちょっとビビるよ。
「探偵さん、この写真見てくれや。この犬を捜し出してほしいんや」
テーブルに投げ出された数枚の写真を見て、つばをごくり、と飲み下す。
まぎれもなくシャーロックが写っていた。薄茶のミニチュアダックスと・・・している。ああ。堂々とカメラを見つめている写真もあった。
「うちのゴージャスはやな、品評会で優勝したことのある由緒正しい子なんや。それをどこの馬の骨、やない犬か分からんもんに傷もんにされて困っとる。うちのんがえろう怒っててな。今年も品評会に出すはずやったんや。この写真はやな、たまたま見かけて急いで写したそうや」
「そ、それで・・・そのワンちゃんを捜し出して、ど、どないされるつもりですか?」
「飼い主見つけ出してそれ相応のことをしてもらおやないか、とおもとる。犬には死んでもらおうかいのう。報酬はずむさかい、至急頼むわ」
間の悪いことに、シャーロックが2階から降りてきた。
汗たらたらの俺はなにげなく近づいて隠そうとしたが、お付きのひとりに見つかってしまった。
「おやじさん、その犬とちゃいまっか」
俺はシャーロックを抱き上げ、ドアの所でポカンとして立っていた男に突き当り、肩で押しのけて外に出た。シャーロックはすぐに地面に飛び降り、俺のそばを付いて走る。
「追いかけっこしてるんちゃうぞ、じゃれつくな、走れ!」
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実