明日に向かって撃て!(終)
待て! という声を背後に聞きながら走った。坂を転げるように駆け降りる。こんなことになるならポテトチップスばかりを食べずに、もっと真剣に減量に取り組んでおくべきだった。いや、ジョギングのほうがよかったろうか。
ベストのポケットの銃のことを思ったが、BB弾を撃ったとて意味はないことぐらいは分かる。むしろよけいに厄介になるだろう。
しばらくはどこかに身を隠さねば。それからのことは落ち着いてから考えよう。
俺は運動靴、奴らは皮靴だ。しかもスーツを身にまとっている。俺に分があるはずだ。
道を曲がり、曲がり、曲がって陰に隠れるようにして“憩い”に入った。シャーロックも間に合った。彼のお気に入りの場所なのである。
「小南さん、どないしはったん、息切らして、汗もすごいやん」
「すまん、追われてんねん、かくまって」
と、カウンターの後ろにまわった。
そこへあのふたりが入ってきた。すかさずしゃがむ。
シャーロックはいつも坐るテーブルの下へ。
「てめぇ、なんで逃げるんじゃ、舐めとんのか!」
カウンターの下を靴で蹴りつけられ、俺は弾みで立ち上がった。
「い、い、いえ、そ、そ、そいつを散歩に連れてこ、お、思いまして」
とシャーロックを指差した。シャーロック、すまん、心の中でわびながら。
光太郎はベンツで乗り付けて、運転手がドアを開け、入ってきた。
「今営業中です、お客さんもいらっしゃるので外に出てください!」
勇敢な緑ちゃん。がんばって!
「そやな、ほれ外に出んかい!」
男に襟首を掴まれてカウンターから引っ張り出され、小突かれた。
トホホ、情けないよう。
「ちょっと待ちなさい! 勇汰!」
窓際の席に座っていた女性が振り返った。
「あっ! 姐さん・・・」
「な、なんで・・・おまえが・・・」
「窓から見てました。それであんた! 詳しい事情を伺いましょうか」
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実