明日に向かって撃て!(終)
翌日の午後、久し振りに山の手公園へ散歩に出た。
耕作さんは相変わらず、だ。
缶入りの温かいおしるこを差し出し、横に座って一緒に飲んだ。
「見ましたで。地方版に出てましたな」
「そうですか・・・新聞は読んでないんです」
「犯人なぁ、近所の猫は糞をしに来るわ、犬の吠え声がうるさいわ、でいらついてたそうですわ。しかも職は失うし、株価は下がって大損してるし、奥さんと子供らには出て行かれるし、いくつもの要因が重なってどん底やったんですな。腹いせに犬猫に当たった、と」
「そんなことまで書いてあったんですか」
「いやあハハ、スズメがぎょうさんさえずってますさかいに」
「俺は落ち込んだ時には、インスタントラーメンをやけ食いするんですわ」
しまった! 見られてたんや、と思い出し耕作さんを見た。
耕作さんは黙って鳩を眺めている。
俺も鳩の動きを目で追った。
オスはいつもメスの後を追いかけている。
長い沈黙の後、
「憩いのウェートレスさんに会いに行きなはれ。何もせんと後悔するよりも行動して後悔するほうがよろしい」
そして俺を見て、ニッと笑った。
小南が立ち去った後、耕作が喫茶“憩い”を訪れたことを彼は知らない。
2011.12.28
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実