明日に向かって撃て!(終)
シャーロックのリードを短く持ち、駅の近くにある大きな公園の中を歩いている。
晩秋の公園の植え込みには落ち葉が降り積もっている。
西空には、夏の名残りの大三角が街灯の明るさにも負けずにかろうじて見えている。東に見えるのはさしずめカペラ、か。田舎に行けばもっと多くの星が輝いているんだ、と思いつつ、ブルっとした。夜9時にもなるとかなり冷えてきている。
今日で4日目だ。
耕作さんの話によると、この公園で猫の死体が、1週間の間に2回見つかったのだ。また、散歩中のビーグル犬が植え込みの中に落ちていた竹輪を食べて死んでいる。竹輪には農薬が付いていたそうだ。ちょうど今頃の時間である。
シャーロックが植え込みに入って行こうとするたびに抱きあげて、懐中電灯で照らしながら周辺を調べた。
この1時間の間に何度同じ事をしただろう。
しかし、熱中できる作業があることは救いだ。その間だけは緑ちゃんのことを忘れていられる。
え? やはり時々は思い出してる、てことか。
ん? 植え込みからでっぷりとした中年らしき男が出て来た。手には小さなポリ袋を持っている。
シャーロックが珍しくも吠える。電灯を向けた。
「何してるんですか?」
腕を上げて電灯の光を遮りながら、
「落し物をして、捜してたんですよ」
「明かりも持たないで、見つかりましたか? その袋の中身はなんですか?」
「いや、では、失礼」
あわてて横をすり抜けようとする男の腕に手をかけた。
男は手を振りほどき走り出した。走るというよりヨタヨタとかけて行く。
シャーロックのリードをはずし、一緒に、追いかけた。
男は振り返り、袋の中身をぶちまけた。
竹輪だ。
俺の後方をゆっくりと付いて来ていたシャーロックは、俄然勢いづいて飛び出した。
クソッ・・立ち止まって食いつこうとする直前にかろうじて、シャーロックの長い胴を蹴りつけることができた。
キャィン、と転がったシャーロックを抱きかかえて男を追いかけた。
ジョギングと筋トレをあの日以来中断していたが、そしてインスタントラーメンばかり食べていたが、この4日間は再開していたので、身が軽い。
息を切らしている男に追いつき、後ろから思い切り尻をキックした。
この、ロクデナシ、めが!
男は両腕をくるくる回し、たたらを踏んで転がった。
すぐに携帯を取り出し、警察に電話を入れた。
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実