明日に向かって撃て!(終)
塾から電話が掛かってきた時、鷹子は外出の支度をしている最中だった。
梅田芸術劇場での公演、タカラヅカスペシャル〜明日に架ける夢〜 を友達と観に行く。12時開演なので軽く食事をしておこうと約束している。
「えっ? 悠馬ちゃん休んでる? いいえ、いつもどおりに家を出てますわよ」
家から塾までの15分程度の道をたどったが、やはり塾にはいなかった。
夫が経営する会社へ電話をした。
「きっと誘拐されたんよ。誘拐にちがいないわ! あなたすぐに帰ってきて。警察には私から電話します。身代金用意しとかないと!」
犯人らしき者からの電話などなく、警察には本腰を入れた捜査はしてもらえそうにない。それでも付近を当たってもらった。
駅で見かけたという人がいて、大阪駅方面の電車に乗ったことが分かった。
「ああ、悠馬ちゃん、塾のお勉強が遅れてしまう。ピアノのお稽古もあるというのに、もう」
「お前は悠馬の体のことより、そんなことの方が大事なのか!」
「悠馬ちゃんのことを思ってのことです! 1日の遅れを取り戻すのは大変なんですから。あなたは何にも分かってないくせに」
大阪駅での窓口で、善通寺までの切符を買っていることが分かった。
その時間帯、少年は年配の男性と楽しげに切符売り場に現れ、珍しげにあたりを見回していたという。
特急券は買われなかったから快速電車で、乗車を楽しむのかもしれないですよ、と係員は言った。
時間のたっぷりある人は、電車自体や景色などを楽しむ人が結構いるらしい。
「きっと騙されて連れまわされてるにちがいないわ。悠馬ちゃん、電車に乗ったことないのよ。なんとしても探し出して犯人を捕まえてちょうだい!」
警察は鷹子の剣幕と、ちょっと知られた町の名士である安田という名前に押され、善通寺署に少年の写真を送り、見張りを依頼。
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実