旅路の果てのケアハウス
「ハイ、息子さんご夫婦、入ってもらいます」
その声と共に入って来た息子夫婦は部屋の豪華さに息をのんだ。
静かなクラッシックの流れる白い部屋。
窓際には観葉植物。
壁には80型フルハイビジョンテレビが掛っている。
電力不足のこの時代に、明るすぎる照明器具もついていた。
「こりゃあ、親父、すごい所に住んでるんだな」
「ほんとね。石油王になったみたいなというのはウソじゃないわね」
息子夫婦が口々に叫んだ。
「違う。普段はこんな部屋じゃない!」
俺が叫ぶと同時に音楽も大きくなった。
くそ、なんとか真実を告げなければ。
俺はあせった。しかし・・・。
「息子さんは、しばらくここに滞在されますか?」
という事務方の問いに、
「いえ、すぐに帰ります。近くの温泉に部屋をとってますので」
と、答えたのは嫁。
「海洋釣り堀の予約も取ってありますので」
と言ったのは息子だった。
そうだ、息子夫婦はこんなやつらだった。
考えてみれば、ここを勝手に決めて来たのも、こやつらだったのだ。
「それにしてもここは本当に良いところね」
嫁がちょっと羨ましそうに言った。
「ぼくらも65歳になったら入れるように今から予約しておこうか」
「そうね。見て、お父さんも笑ってる」
俺はここぞとばかりに満面の笑みを返した。
こんなところに入れやがって、お前達もここに入って実態を知るがいい。
俺は心の中でほくそ笑んだ。
(おしまい)
作品名:旅路の果てのケアハウス 作家名:おやまのポンポコリン