看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』
……。
ピタリと音が止んだ。
(嘘みたい…。)
油断した瞬間、
キャキャキャ、キャハハハハ…!!
と、耳元か頭の中に笑い声が響いた。
バタバタという足音は次第に小さくなり、聞こえなくなった。
それから再びうとうとし、タイマーのアラーム音で目を覚ました。
ピッ。
タイマーを止め、ゆっくりと上半身を起こす。
(夢だったんだろうか。)
熱でうなされると、普段見えないものが見えるらしいけど。
夢なのか現実なのか、さっぱり分からなかった。
ただ、全身汗でぐっしょりだった。
(座薬使ったからだろうけど、すごい汗…。)
(熱も下がったっぽいし、これで朝まで働けそう。)
座薬によって、十分に汗を出したおかげで熱は下がったようだった。
よいしょ、と掛け声をかけながら立ち上がり、部屋の電気を点けた。
「…えっ…?」
振り返って、自分の寝ていたベッドから目が離せなかった。
大量の汗によって、白いシーツに汗の染みができていた。
それはいいのだけど…。
私の寝ていた頭元に、小さな、小さな染みがある。
「手形、だよね…?」
そう意識するから、そう見えるだけなのか。
いや、手形に見える。
それもきちんと形に残っているものだけでも、5箇所ある。
無意識にゴクンと唾を飲み込んだ。
急いで敷きシーツをグルッと巻き集め、ナースステーションに戻った。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』 作家名:柊 恵二