看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』
(まあ、いいか。)
(別に被害があったわけでないし。)
そう思っていると、後輩Kが懐中電灯を振り回しながら、巡回から戻ってきた。
「あ、杉川さんの受け持ちの部屋も廻ってきましたよー。」
「ありがとう。助かる。」
「すっごい汗ですけど?」
「う、うん。寝汗…。」
「もしかして…。子ども、現れなかったっすか?」
ドキリとする。
「え、え、な、何で?」
動揺。
「私、ついこないだの夜勤、足引っ張られましたよ。」
「えぇっ!」
さらっと、すごい事を言ってのけたよ、後輩K。
「小さい手だったけど、結構強い力で。びっくりして、ベッドから転げ落ちました。」
ゲラゲラ笑う後輩。笑ってる場合じゃないんじゃ…。
「ベッドからの転落だから、事故レポート書かないといけないですね。ハハハ。」
後輩Kは自分で言った冗談が、ツボに入ったようでゲラゲラ笑っている。
正直、全く面白くない冗談だったが、笑うしかなかった。
なんていうか…。
折角の怖い話が、後輩Kによってかき消されてしまった。
天然というか、ただのアホで生意気というか、後輩Kの度量の大きさに、今日は感謝する夜勤だった。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』 作家名:柊 恵二