看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』
ナースステーションを一歩出ると、張り詰めていたものが解け、膝がガクンと折れた。
ブルッと身震いする。
(まずい、熱上がってるな。)
数値を見るのが怖くて、体温計は使わなかった。
(今のうちに、座薬使っとこう。)
(このまま夜勤が落ち着いていますように…。)
持参していた座薬を使い、なだれ込むように簡易ベッドのふとんに入った。
(これで熱、下がるかな…。)
手足は重く、体が泥のようにだるい。
眠くはなかったが、あまりの倦怠感に気を失った。
どれくらいの時間がたったのか分からない。
ふと、声が聞こえ始めた。スタッフの声かと思ったが、そうではないらしい。
ぼんやりとした頭でその声を聞く。
(子どもの声だろうか。)
そう思った瞬間に、突然、耳元で笑い声が響いた。
(…っ!!)
ドキッとしたが、怖い感じはしなかった。
(びっくりした…。)
高い声で、キャッキャッと楽しそうな声。
声の重なりからして、二人くらいいるだろうか。
(熱のせいかなぁ…。)
手足が全く動かない。
まぶたも開かない。
そのうち、その声の主たちは頭元をバタバタと走り回り始めた。
バタバタ、ドタドタ。
床だけでなく、同じように壁や天井まで足音が響く。
(う、うるさい…。)
このままでは休めない。
私は、だめもとでお願いしてみた。
(お願い、熱が出ててつらいんだ。今日は静かにしてもらえるかな?)
(ホント、お願い!)
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』 作家名:柊 恵二