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看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』

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看護師の不思議な体験談 其の十九『小さな手』


 
「あれ?杉川さん。なんか顔色悪い。」
「えっ?最近寝不足だったからですかね。それより、今日の受け持ちなんですけど…」
体調不良に気付かれないよう、話をそらした。
どうも関節が痛い。
(熱でも出たらマズイな)
病棟では、つい最近、働き盛りの中堅二人が産前休に入った。
ただでさえ、スタッフがギリギリの人数なのに、今ここで倒れるわけにはいかない。

よく医療系のマンガやらドラマやらで、医療スタッフが熱を出しながらもみんなに気付かれないよう仕事をして、結局倒れる、みたいな。なんか熱血系のドラマでありそうだけど、実際現場で熱なんか出されたら、正直迷惑…。
いや、体調不良はしょうがないんだけど、途中で倒れられた場合、残務を残りの少ないメンバーで振り分けなければならない。夜勤なんてもってのほか。
それならさっさと勤務交替して、代わりに元気なスタッフが最初からいてくれたほうが断然良い。
その上、トップから『体調の自己管理がなってない!』とご指導いただく羽目になる。

…って、分かっていたけど。
現実は、スタッフが少なすぎて、勤務交替できるスタッフがいない。どうすりゃいいのよ。
スタッフ数など、労働基準に違反してるんじゃないかって?
いやいや、産前休や病休は、籍はあるので数字的には人出は足りていることになっているのだ…。
一人でノリ突っ込み的な妄想をしながら、申し送りを受け、夜勤が開始となった。

前半は気力でなんとかミスせず、順調に経過した。
(よし、よし、いい調子。)
着々と仕事をこなし、消灯後の記録も終え、23時となった。
「今日、先に仮眠させてもらっていいですか?」
「いいよ。なんかクマできてるし。今日は落ち着いてるからゆっくりしてきな。」
体の大きな先輩が女神のように輝いて見えた。
「ありがとうございますー。朝まで寝ます。」
「調子に乗るな。さっさと休みなさい。」
先輩に手の平で、しっしっと追い払われ、舌を出しながらその場を離れた。