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茅山道士 白い犬1

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 肩をゆすったが、起きる気配がない。今度は強めに揺すってみたがそれでも反応はなかった。誰か眠り薬でも一服もったのかと、たいして気にもせず緑青が奥へ入ると、子夏と戚が食事のしたくをしていた。
「子夏。あんまり麟を薬付けにせんほうがいいぞ。」
 緑青は、子夏にむかって、「ただいま。」 とも言わずに、そう言った。相手はきょとんとしている。
「おもてで麟がねている。一服持っただろう?」
 あんまりやりすぎると耐性ができて効果がなくなるぞと、さらに、緑青が続けて子夏をせめるので,子夏のほうも口をはさんだ。
「ちょっ、ちょっとまって、緑青兄。」
「・・・・だいたい、おまえは麟に過保護すぎる。あれは自分の身を守る術を知っている。・・・まあ確かに少しぬけているところもあるが・・・」
「だから。まって下さい。私は薬なんぞのませてませんって。今日は隣村まで用事に出かけてさっき帰ってきたばかりですよ。私が一服もってるのは、夜半の薬だけですよ。」
 結局、一服もってるんじゃないかと、戚はニヤニヤと様子をみている。
「あの子は、夜の見回りだと真夜中に表へ出たりするから、たまに滋養の薬のなかに眠り薬を含ませているだけで、昼のひん中に一服もってど-すんですか。」
「・・・やっぱり、おまえか。」
 呆れ顔で緑青は子夏をにらんだ。最近、麟が朝のうちは頭が重いというので、もしやと、おもっていたのだ。
 しまったと、子夏も自分のうっかりに気付いたがもう遅い。
「・・・私だってやりたくてやってるんじゃありません。いくら麟が術に長けた道士だっていっても、わざわざ、それをおびき出すようなまねしなくてもいいじゃないですか。・・・そんな姿、私は辛くて見てられない。」
 子夏の言葉じりが沈んでいるので、緑青も、戚も、一瞬沈黙した。子夏は最近になって麟は自分たちの身代わりになっていると気付いてしまった。もし、自分たちが、師匠の術を継ぐにふさわしい力量を手にしていたら、麟は今頃、長江の岸辺の村で幸せに何も知らずに暮らしていたはずなのだ。
「あの子は生き返って、すぐ術を譲り受けて、修行に出されて帰ってきて、ここで働いている。里帰りするでもない。麟がはじめて来た時、まだ10代だったのですよ。私たちのように進んで道士になったわけではないのです。なのに、私たちより厳しい仕事をこなす麟を、あなたはどうお思いなのですか。」
 胸にわだかまっていたことをすべて吐き出して、子夏は兄弟子をにらみつけた。誰よりも世話好きで思いやりのあるやさしい道士は、誰よりも麟に心をくだいていたのである。
「・・・でも、麟は強制されたのじゃないと言っていた。それに、自分の村へは戻りたくないからちょうどいいとも・・・・それは本心だと俺はおもう。自殺したいとおもうほどに悲しいことにあったんだから。」
 対峙する2人の空気をなごませようと、戚は口をはさんだ。一番年の近い戚と麟は、そんな話もする。戚の見たかぎり、麟は無理をしている風ではない。自然体で、自分のやるべく仕事をこなしているようにみえる。
 それは子夏にもみえている。しかし、その姿が不憫におもえてならないのだ。
「麟は、そんなふうにおもわれるほうが辛いのじゃないか、子夏。・・・・本人は、おまえの言ったことを全て理解した上で、ここにいるはずだ。そうでなければ、ここを出ていくだろう。」
 それに、里帰りのことも戚の言った通りだと緑青はつけ足した。死んだとおもわれている自分が、あの村へ戻ったところで混乱がおきることは、すぐにわかる。生き返った時に、それまでの全てを無にして師匠の術を継いだと、旅の途中で緑青に語った。だから、決して長江の川岸へ自分をつれていかないでほしいと頼んだほどである。
「旅から戻って、もう何年もたつというのに、そんなことを言うな。そんなふうにひとりで思い込むのがおまえの悪い癖だ。一度、本人にきいてみるといい。俺は一緒に旅して、麟が本当に過去を捨てたということを知っている。おまえも少し麟と話せばわかるはずだ。な、子夏。」
 その論争を終わらせるように緑青が結論を述べ、もう一度、麟をおこしに、表へ行こうとして戚が止めた。
「あやまってきたらいいじゃないですか、本当のこと言って。・・・・さあさあ、子夏兄。」
 自分の側で下を向いている子夏の背中をポンとたたいて押した。ものの5分とたたないうちに、麟を起こしに行った子夏がかけ足で戻ってきた。麟がたたいてもひっぱっても起きないどころか、ただならぬ妖気を出していると大声で言った。
「戚、霊芝の薬を持ってこい。」
 子夏の声に緑青は反応しておもてへ飛び出した。しかし、おもての寝椅子にねころがっている麟はかわらずにそのままである。戚がすぐ追いついてきて、後に子夏が八角の鏡を持ってついてきた。
「戚は俺たちの中で一番、見思の力がある。どうだ、何かわからんか?」
 戚は霊芝の薬で両目をふいて麟をみて、すっとんきょうな声で、「大きな白い犬が。」 と、叫んだ。見鬼とは、言葉通り鬼の姿を見ることで、鬼や志怪たちが、どんな姿に化けていようと本質の姿を見極めることができる能力である。そして、霊芝の薬は、一時的にその見思の力を高める。子夏が同じように薬で目をふいてから見ると、その寝椅子には、大きくて肥えた白い犬がでんとねているのだ。
「犬だ、大きな白い犬。麟じゃない。」
 ふたりの意見は一致した。緑青は近くにある玉皇上帝の壇から仙桃木剣をとってきて、麟のまえに差し出した。
「何の用だ、起きろ。 起きんとこれをおみまいするぞ。」
 そう叫ぶと、麟はパッと眼をあけて立ち上がった。そして、軽くあくびをすると、「やれやれ、ここの道士たちも,うちの道士と同じかね。時間のかかる。」 と、ぶつぶつ言いながら、のびをした。
「うちの若い道士はどうした。返答次第ではおまえを消してしまうぞ。」
 立ち上がった麟に木剣を向け、緑青は印を結ぼうと手を動かしたが、白い犬は人型のまま片手をつき出して、その動作をやめさせた。
「わしを切ったら、道士の行方はわからぬが、それでもいいのか。」
 麟の顔はいじわるそうに、片頬をあげた。それを見て、子夏はびくりとする。いつもの温和な表情の麟とは違う、禍々しさを見せ付けられて、背筋から冷水をかけられたようにゾッとした。
「ああ、かまわん。麟は、そのうち自力で戻ってくる。おまえなんぞの答えはいらん。」
 相手の脅しに屈する事なく緑青もずいと一歩近寄った。長年の経験で、こんな時に屈しても相手は答えなどくれないことは重々承知している。ここは、ハッタリのかましあいなのだ。折れたら負けである。緑青は、子夏に真剣の長剣を持ってこいと叫んだ。子夏もあわてて、それを取りに行く。
「さあ、用はすんだ。切ってしまおう。」
 長剣をかまえた子夏も緑青の横にならぶ。白い犬は、麟の姿から本来の犬に戻って、何やらあせりだして多弁になった。自分は隣村から伝言をことづけにきただけのあわれな白犬でございますと、急に低姿勢に出た。
「では、さっさと伝言を言え。」
「はいはい、そうお急ぎにならなくても、先生。えっとですね、貴方様方の道士様は、隣村の道観にお泊まりなさいますんで、心配せぬように、とのことでございます。」
作品名:茅山道士 白い犬1 作家名:篠義